NTTコミュニケーションズ株式会社
きっかけを与え、フォローし続ける。
ベテラン社員の活性化に近道はない
一人で1000人と面談した人事マネジャーの挑戦(後編)[前編を読む]
NTTコミュニケーションズ株式会社 ヒューマンリソース部
人事・人材開発部門 担当課長
浅井 公一さん
NTTコミュニケーションズでは、ベテラン社員がモチベーション高く活躍できる環境づくりに向けて、50代社員を対象とする面談と、キャリアデザイン研修を行っています(前編参照)。これまでの3年間で、面談の実施者はのべ1000人を突破。約8割の社員がモチベーションをアップさせ、行動変革を起こすなど、予想以上の成果が生まれている同社の取り組み。それをたった一人で推進しているのが、ヒューマンリソース部 人事・人材開発部門 担当課長 浅井公一さんです。インタビュー後編では、実際にベテラン社員たちに起こった変化や、同社の今後の課題をうかがいました。
- 浅井 公一さん
- NTTコミュニケーションズ株式会社 ヒューマンリソース部
人事・人材開発部門 担当課長
あさい・こういち/1981年、高校卒業後、電電公社に入社。1999年、NTT分割時にNTTコミュニケーションズに配属。2006年から7年間、労働組合の幹部を歴任後、2013年ヒューマンリソース部人事・人材開発部門へ異動と同時に50代社員のモチベーション向上にチャレンジ。たった一人でキャリア面談を実施し、その数3年間で1,000人を超えた。圧倒的な面談量をもとに、自然に作り上げられていった面談スタイルが、ベテラン社員にシンクロ。その結果、面談を受けたベテラン社員の部下を持つ上長の8割が、そのベテラン社員の行動変容ぶりを認めた。キャリアコンサルタント。
初年度500人、3年目の今年のべ1000人を突破
浅井さんはこれまでに、何人の社員と面談してきたのですか。
1年目は当時50歳だった200人と、希望して手を挙げた51歳以上の社員150人、そしてその上司150人、合わせて500人との面談を実施しました。2年目は、その年に50歳になる社員約250人を対象としたのですが、前年面談した社員から「また面談をしてほしい」といったリクエストがあり、最終的には300人ほどになりました。3年目となる今年も、引き続き面談を行っていて、面談を実施した総数は、のべ1000人に到達しました。
面談を行ったことで、ベテラン社員の方々にはどのような変化がありましたか。
変化の内容は、アンケート調査で検証しています。一番多かったのは、部下育成に目覚めた、という声です。自分が持っているスキルを若手社員に伝えるために、週1回勉強会をやるようになったとか、OJTのように後輩を丁寧に指導するようになったとか。後は、本人の研鑽(けんさん)もありますね。英語の勉強など、自分自身のスキルアップのために努力を始めた社員もいます。
上司にしっかりと報告・連絡・相談をするようになった社員は、それによって上司の意向をしっかりと理解できるようになり、「何年かぶりにA評価をもらうことができた」と話していました。これには、「うまく循環しているな」とうれしくなりましたね。ちょっと変わったところでは、チームワーク作りに貢献したいと、ホームパーティーにチームのメンバーを誘った社員がいました。それがきっかけで、チームの雰囲気がかなり良くなったそうです。全体を見ると、行動変化は8割程度。正直言って、期待以上の効果でした。
このアンケートは、本人ではなく上司に行ったものです。本人がいくら変わったと思っていても周囲がそれを認めていなければ、単なる独り善がりで終わってしまうからです。また、アンケートは面談から三ヵ月ほど経ってから行います。そのタイミングで実施するのは、三ヵ月間行動変化が続いていなければ本物とは言えないからです。
なぜ、それほど多くの方の行動変革を起こせたのでしょうか。
要因はいろいろと考えられますが、私は社員たちが優秀だから、というのが最も大きな理由だと考えています。もともと当社は、携帯電話のiモードが登場したばかりで、まだポケベルが全盛期であったNTT分割時、インターネット事業やグローバル事業を推進するために、少数精鋭の人材が集められた会社です。時代の流れを読める、優秀な人材が集まっていたと言っても過言ではないでしょう。多くのベテラン社員たちは、その力をどう発揮すればいいのかが、わかっていなかっただけなんです。私の力は小さなもので、社員たちにきっかけを与えたにすぎません。
今後、ベテラン社員の方々に対して期待されることをお聞かせください。
社員たちには、自分の市場価値を高める努力をしてほしいと言っています。市場価値が高まるということは、社外にも通用するスキルが向上したということなので組織への貢献度も上がっていきますし、場合によっては、将来、自分自身の選択肢も広がっていきます。こうした選択肢が生まれることは、社員のキャリア自律を考えるうえでも大きなメリットがあります。そのためにも、最新技術に積極的にチャレンジしてほしい。
当社にいるだけで最新の技術に触れる機会は多く、当社の中では当たり前のスキルでも、他社からすると高く評価されることもあります。そういった先端技術に積極的に触れることで、自然にスキルアップしていけるのです。
今回の取り組みは、浅井さんの情熱とスキルがあってこそだと思います。今後、そのノウハウをいかに会社の知見として落とし込んでいくお考えですか。
「第二、第三の浅井」を作るのは、かなり難しいと思います。スキルとして、ということではありません。ベテラン社員とシンパシーを持てるのは、自分の経歴が彼らと似ているから。だからこそ、「この人なら話してみよう」と思ってくれるんです。ただ、一つひとつをパッケージ化していくのは可能だと思います。研修カリキュラムやフォローの流れなどを仕組み化すれば、研修会社に委託することも可能になるでしょう。私の後継者を育てるより、システマティックな仕組み・構造を作って引き継いでいくほうが良いのではないかと、個人的には考えています。