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「対立」はイノベーションの源泉
組織を前進させるコンフリクト・マネジメントとは

武蔵野大学 経営学部 経営学科 准教授

宍戸 拓人さん

緊急事態の今だからこそ、コンフリクトと向き合う覚悟を

社員に、新たな価値につながるタスク・コンフリクトへと時間と努力を向けてもらうためには、具体的にどのようなことに取り組むべきでしょうか。

顧客にとっての本当の価値を考えるのは難しいし、時にはどれだけ考えても答えが出ないこともあるでしょう。そうした意味では、社員にタスク・コンフリクトを乗り越えていくスキルを身につけ、自信を持ってもらう必要があると思います。世の中にたくさんメソッドがある交渉術や、アサーション、傾聴といったスキルなどもコンフリクトを乗り越えるための技術です。

ただ、個人が「対立の有無をはっきり伝える」「自分の意見を柔軟に変える」といったスキルを身につけても、上司や周囲が「波風を立てるなよ」という雰囲気を出しているような職場では、それを発揮できません。学びから得た価値観を、組織内に普及させていくことも必要です。

タスク・コンフリクトの現場では、意見と意見がぶつかり合います。どんな人でも潜在的に恐れてしまうシーンでしょう。それでも、タスク・コンフリクトを起こして価値を高めるのは当然のことであり、リレイションシップ・コンフリクトやプロセス・コンフリクトが生まれても乗り越えられるのだということを、組織の指針や規範などを通じて文化にしていくことが大切だと思います。

タスク・コンフリクトをうまく起こせている会社では、部下が上司に意見をどんどん言う場面が頻繁に見られます。なぜそうなるかというと、上司が自分の上司に対してもどんどん意見を述べているし、意見を出された側の上司も自説に固執せず、柔軟に受け入れているから。突き詰めていけば、トップがそうした姿勢であることも重要ですね。

人事が特に意識すべきこととは何でしょうか。

人事から「協調」や「タスク・コンフリクト」について発信しているのに、一方では現場からの意見や提案に対して「いや、もう決まったことだから」と反応しているようでは、組織内のずれは広がっていくばかりです。そうした意味では、人事自身がプロセス・コンフリクトにとらわれすぎることなく、表現の仕方や三つのコンフリクトの関係性を見直していくことが大切です。

ルールを重視する管理部門は特にプロセス・コンフリクトに支配されやすいので、自覚を持って自部門を見てほしいと思います。

直近では新型コロナウイルス感染症の影響で、組織内にさまざまなコンフリクトの種を抱えている企業も多いのではないでしょうか。

環境の変化が少ないときは、決まったことをやればいいので、あえてコンフリクトなんて起こさなくてもいいのかもしれません。しかし、安定していない状況や、環境変化が激しい状況では、コンフリクトは不可避です。そんなときに口で「変化に対応しなければ」と言いつつ、実際にはコンフリクトと向き合わないで妥協や回避に走っていると、組織として成長し続けることはできないでしょう。

新型コロナウイルスの影響で従来の事業活動や働き方ができなくなっている今は、まさに大きな変化の真っただ中にあります。プロセス・コンフリクトに陥ってしまい、うまく変われない組織も多いのではないでしょうか。

緊急事態が起きているときに「ルール上はどうなの?」「予算はどうなの?」という議論を重ねても、前に進むことはできません。これまでプロセス・コンフリクトに苛まれながらじりじりとやってきた組織は、変化への覚悟が問われているのです。

そうやって変わった経験は、組織全体の貴重な財産となるはず。コンフリクトと向き合えるか、コンフリクトから逃げ続けるかで、コロナショックを抜け出した先の未来も変わってくるのではないでしょうか。

(取材は2020年4月10日、オンラインにて)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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この記事ジャンル 組織開発手法

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