「対立」はイノベーションの源泉
組織を前進させるコンフリクト・マネジメントとは

武蔵野大学 経営学部 経営学科 准教授

宍戸 拓人さん

きちんとした組織ほど、予算・人材・ルールに関する議論が増えていく

タスク・コンフリクトを避け、妥協や回避に走ってしまいがちな組織には、どのような特徴があるのでしょうか。

組織がしっかりと整備されていればいるほど、妥協や回避が起きやすいと言えます。例えば業務の締め切りが一つひとつ明確になっているとか、会議は週に何回までと決まっているとか。ある意味では、きちんとした会社のほうがタスク・コンフリクトを避けてしまいがちなのです。

ベンチャーであれば「みんなで話し合って納得するまでやろう」となるシーンでも、きちんとした大企業では「とりあえずこの件は今週まで」といった状況に陥りやすいと思います。

この状況は、タスクとリレイションシップに続く第3のコンフリクトで、「プロセス・コンフリクト」と呼ばれます。仕事そのものよりも、ルールや権限など、仕事の準備に関わるものについての対立が起こることを指します。

プロセス・コンフリクトで前に進まない

せっかく新商品のアイデアを出しても、「失敗したら誰が責任を取るのか」「予算はどうするのか」「契約上の問題はクリアできるのか」といった話題ばかりを議論していては、いつまで経っても顧客が喜ぶ結論にたどりつけません。

大企業はもちろん、ベンチャーでもある程度の規模になってくると、予算や人材、ルールに関する議論が増えてプロセス・コンフリクトに支配されるようになっていきます。

外向きのタスク・コンフリクトと比べて、リレイションシップ・コンフリクトやプロセス・コンフリクトは内向きの現象とも言えますが、後者二つは組織内から排除すべきなのでしょうか。あるいは組織にとって有用な面もあるのでしょうか。

プロセス・コンフリクトについては、会社やプロジェクトの初期段階で起こしたほうがいいという研究例があります。最初から権限や責任をろくに決めずにプロジェクトが走り出すと、後々になって「誰が対応するんだ」と混乱してしまうこともあるからです。

プロセス・コンフリクトがあるからイノベーターが生まれる、という面もあるかもしれません。ルールに固執して新たな動きが止まるのは問題ですが、ルールそのものを見直すためのコンフリクトは大切だと考えられます。

見直してみれば、「このままでは進捗が遅すぎる」「これは外部に任せたほうがいい」という議論が起き、タスク・コンフリクトにつながります。これがイノベーションの源泉となっていきます。

リレイションシップ・コンフリクトについては良くない側面ばかり見えがちですが、最近では「これがまったくない組織は、はたして良い組織と言えるのか?」という議論もあります。リレイションシップ・コンフリクトのない組織は、ただ単に仲が良くて互いに甘い評価を下しかねない、という問題を抱えているからです。「自分たちはよくやっているよね」という組織の自己評価と、顧客など外部からの評価との間にずれが生まれていくのです。

リレイションシップ・コンフリクトはできるだけないほうがいいという前提ですが、主観的な評価と客観的な評価のずれには注意する必要があります。

このように三つのコンフリクトは相関しているものであり、それぞれが組織内に存在するのは当然だという前提で、自分たちが今どんなコンフリクトに向き合っているのかを自覚することが重要だと言えるでしょう。

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