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「生活指導」で社員を育てる
~毎日の皿洗いが仕事に直結する! 

株式会社原田総合教育研究所 所長

原田 隆史さん

「心づくり」のための5つの方法

まさに、継続は力なりということですね。このような心づくりは、生活指導と切り離すことができないものと感じます。では、心づくりは実際にどのように行っていくのですか。

原田 隆史さん Photo

心づくりに関しては、次の5つの方法で行います。1つ目は心を使うこと。心の中にある思いを、考えを文字にしていく作業ですね。人は考えて文字を書くと、気づきます。気づくと、同じ失敗をしなくなります。その結果、セルフコントロールができるようになるのです。日誌や目標設定用紙を活用するのも、この効用性があるからに他なりません。さらに、このやり方はスポーツ界などでは世界的に広がっています。

2つ目は心をきれいにすること。心のコップが上を向いていて、物事に取り組む姿勢や態度が素直でまじめ、積極的な状態にしていくことです。夢や目標はすさみきった心からは達成されません。このようなすさみをなくすには、挨拶を忘れない、靴をそろえる、不平や不満、愚痴を言わない、一生懸命掃除するといった態度教育の徹底が絶対に欠かせません。あるいは奉仕活動をすることもいいですね。

3つ目は心を強くすること。いまの自分の力でやれることを決め、毎日欠かさず行うことです。人はできることの継続によってこそ、心が強くなります。難しいことへ挑戦することで心が強くなるのではありません。

4つ目は心を整理すること。そのために、過去の失敗は問いません。未来のできることに気持ちを向けることで、心は前向きに保たれるからです。そして、未来を予測しそのための準備がしっかりとできていれば、確かな自信を持つことができます。これを「平常心を作る」、別名セルフコントロールといいます。この平常心が圧倒的な結果をもたらします。仕事のできる人とできない人、プロとアマの違いは、この心の整理がちゃんとできるかどうかにかかっています。

5つ目が心を広くすること。周囲に対して、感謝の気持ちを持つことです。それには「ありがとう」という言葉が大切です。「ありがとう」は心の栄養ストローク。他の人のためになると思ったことを進んで実行していけば、「ありがとう」という言葉が返ってきます。それで、心が広くなるのです。そして「ありがとう」が飛び交うと人は元気になり、活気にあふれた明るいムードの職場になっていきます。そういう会社に、人は集まっていくことでしょう。これが本当の意味での職場の風土づくりです。

このような5つの心づくりをBSCなどに取り入れていけば、必ずや人と組織は活性化し、結果を出すことができるようになります。何より、こうした心の成長やその生活態度に対して、人は感動や賞賛を覚えるのではないでしょうか。

「ストローク」の重要性

職場のコミュニケーションにおいて、重要なことは何ですか。

日立製作所とMIT(マサチューセッツ工科大)が共同研究で「ビジネス顕微鏡」というシステムを製作しました。ネームプレートにセンサーを入れて、会社の中におけるコミュニケーションの度合いを測定するというものです。そこで、大変興味深い結果が出ました。ビジネスにおける成果は、職場におけるフェース・ツー・フェースのコミュニケーションと大きな相関関係があるということです。職場の中で人とのコミュニケーションを数多く取れる人がキーパーソンとなるのです。

では、どのようなコミュニケーションを持ち込めばイキイキとした職場になるのか、これを家庭や学校、会社で教えていかなければなりません。それがまさにストロークです。

ストロークには4つの種類があります。1つ目は肉体的なストローク。スキンシップです。2つ目は心理的ストローク。例えば、相手の目を見て、相槌を打ったり、うなずく。共感するしぐさを示す。あるいはメールや手紙、ファクスを送る。心によって相手を理解し、心に元気を注入するやり方です。3つ目は条件を付けて、相手をほめるストロークです。「おっ、今日の髪形はいいな」「今の動き、いいよ」といったようなやり方です。4つ目は無条件のストロークです。相手の全てを受け入れることです。そのことにより、相手に「居場所」「存在価値」を与えることになります。

これら4つのストロークをどれだけ出せるかが、良好なコミュニケーションの原点となります。事実、上司のストロークの数と部下の業績には相関関係がありました。それは先生と生徒の学力、親と子どものイキイキ度などにおいても同様です。「ビジネス顕微鏡」はこのストロークを間接的に測るシステムだったわけです。しかし、コミュニケーションの「質」の測定に関しては、まだまだ難しいようですね。

良質なコミュニケーションを図るには、どのような方法がありますか。

ある金融機関での「メンタル日誌」という例です。新入社員が入社して100日間、上司がマンツーマンで日誌を指導しました。指導するのは直属の上司だけではなく、店長など会社の全上司。彼らが1人の新入社員の日誌に赤ペンでコメントを書き込んでいったわけです。その結果、離職率が激減したといいます。

このケースから分かることは、日誌の赤ペンがストロークということです。日誌に書き込む赤ペンが、新入社員に対する元気をつくったわけです。赤字で書かれた言葉はいつまでも心に残ります。そして、常に目に触れます。それが毎日行われるわけです。すると、新入社員は職場の上司がここまで自分のことを気にかけてくれるのか、そう感じるわけですね。いやが上にも受容感が高まります。これは居場所、存在価値ということです。特に今の若者は自分自身の居場所、存在価値を失うことで離職したり、メンタルヘルスが低下していますから、こうしたアプローチは非常に有効です。

それから、日誌では彼らが抱えている悩みが表面化したり、マイナスのサインが出たりします。そうすると、上司は危機的な状況になる前にフォローすることができます。今までは相談に来たときは、既に辞めることを決めていたケースがほとんどでした。そこから手を打っても遅かったわけですから、これは大きな進歩です。

こうしたストロークとしての日誌の有効性が分かってきたことで、日誌を取り入れる企業が増えています。やはり、良好なコミュニケーションをつくるアプローチに対して、飢餓感を持っている企業が多いからでしょうね。

では、動機づけという点では、どうでしょうか。

原田 隆史さん Photo

動機づけには、外発的な動機づけと内発的な動機づけがあります。成果主義を導入して、成果を上げれば報酬もアップする場合もありますが、これに頼って動機づけをすると、より高い報酬を提供し続けなければならず、いずれ限界に達します。それよりも、常にやる気を引き出すために必要なのは、内発的な動機づけです。それには3つ。やった、できたという「有能感」、できそうだという「統制感」、自分は受け入れられているという「受容感」。日誌にはこれらの内的動機づけを感じさせる仕組みがあるのです。

こうした動機づけをたくさん出せる上司の下では、部下は自立していきます。そして、やる気、元気が出て、スキル・ノウハウをもとに結果を出すようになります。

このように見ると、生活指導はやる気、元気を作る素となり、また結果を出すための人づくりの土台であることがよく分かります。そして、この考え方は家庭や学校、企業でも同じです。短期的な結果を求めて成果主義が導入されスキル・ノウハウ偏重となっているいまこそ、生活指導による人材育成というアプローチを皆さん、考えてみてはどうでしょうか。

(取材・構成=福田敦之、写真=中岡秀人)
取材は2008年2月8日、東京・渋谷区の原田総合教育研究所にて

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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