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従業員の学びが続く、深まる
自律的な学びを後押しする「学びのコミュニティ」は組織に何をもたらすのか

関西学院大学 商学部 教授

松本 雄一さん

従業員の学びが続く、深まる 自律的な学びを後押しする「学びのコミュニティ」は組織に何をもたらすのか

キャリア自律の推進などを背景に、従業員が自分で学習課題を設定し、必要な学びを選択する人材育成施策を取り入れる企業が増えています。一方で、学びに消極的な人に対してどのように学びを促せばいいのか、悩む人事は少なくありません。そこで注目したいのが、学びのコミュニティ(実践共同体)という考えです。実践共同体とは、特定のテーマに対する関心や課題などを共有し、その分野の知識や技能を持続的な相互交流を通じて深めていく人たちのこと。組織やチームとも異なる実践共同体は、社内に取り入れることでどのような作用をもたらすのでしょうか。実践共同体に詳しい、関西学院大学 商学部 教授の松本雄一さんに聞きました。

プロフィール
松本 雄一さん
関西学院大学商学部教授

まつもと・ゆういち/関西学院大学商学部教授。博士(経営学)。専門は経営組織論、人的資源管理論。主な研究テーマは実践共同体による人材育成、組織における技能形成。『実践共同体の学習』(白桃書房)『ベーシックテキスト 人材マネジメント論Lite』『ベーシックテキスト 人材開発論Lite』(同文舘出版)ほか、著書多数。近著に『学びのコミュニティづくり ―仲間との自律的な学習を促進する「実践共同体」のすすめ』(同文館出版)。

一人学習は「継続」と「学びの広がり」に限界

松本先生の研究テーマについて教えてください。

大学院に入り研究テーマを模索していた頃、師事していた戦略論の先生から勧められたのが、組織における技能形成でした。一般的なスキル熟達ではなく、心理学や教育学などの側面からどのようなアプローチが有効なのか、というものです。

実践共同体は、認知心理学に源流を持ちます。フィールドワークで組織を観察し続ける中で、技能や実践知の形成がうまいところは実践共同体を築けていることを見いだしたのを機に、場の観察や当事者へのインタビューなどを通じて、望ましい学びのコミュニティのあり方を研究し続けています。

近年、キャリア自律の一環で、社内教育や育成体系の見直しを図る企業が増えています。オンデマンド教材を中心に、学びの選択を従業員の自主性に任せる動きをどのようにご覧になっていますか。

前提として、キャリア自律と学びの自主性は両輪の存在にあります。わかりやすい例は、人事考課との関係性ですね。職場で低い評価を受けた場合に、本人が自分で挽回できる余地があるかどうか。何の手だてもないなら、それはキャリア自律とはいえません。その人の能力発揮の機会やスキル向上を、組織が制約する構造になっているからです。従業員にキャリア自律を求めるなら、本人の意志で成長できる仕組みを整える必要があります。

学び方を従業員に任せるときに議論になるのは、主体的に学べる人とそうでない人とのギャップについてです。自分で必要なプログラムを選択し、コンスタントに学び続けられる人がいる一方、いくら人事や周囲が受講を促しても、ポータルサイトへのログインさえしない人がいます。

主体的に学べる人の行動は、確かに素晴らしいものです。しかし、一人では学べない人に問題があると考えるのは早計です。一人で学ぶという行為自体に限界があるからです。

もちろん一人で学ぶことには、さまざまなメリットが期待できます。一つは、自分の好きなこと、興味のあることを誰に気兼ねすることなく、自由に学べることです。仕事と直接関係のないことでも、一人で学ぶのですから他の人にあれこれ言われる筋合いはありません。知的欲求にしたがって、取り組めばいいのです。

もう一つは、学びのペースを自分で決められることです。仕事や家庭の忙しさ、趣味などとの兼ね合いを見計らいながら、学ぶタイミングを検討すればいい。そうした自在さは、一人での学習ならではだと思います。

ただし、周りに干渉されることはないので、自分で学びのモチベーションをうまくコントロールする必要があります。なかなか時間が取れないとき、あるいは少し学びがマンネリ化したときも、一人で何とか乗りきらなければいけない。資格試験など明確な目標がある場合はともかく、よほど自制が利く人でなければ、学びの継続は難しいものです。

そしてもう一つの課題は、学びの広がりをあまり期待できないことです。学習によって得られた知見は、インプットしただけでは消化不良に終わってしまうことが少なくありません。他の人との議論や意見のシェアによる相互作用を享受するには、やはり仲間が必要です。

そこで実践共同体がカギを握るのですね。

実践共同体とは、組織内外で学びを構築するコミュニティのことです。(1)ある共通のテーマについて、(2)互いに交流しながら作用し合い、(3)みんなで一定の活動に取り組み実践するという3要素で構成されています。「困難な課題にみんなで取り組んで乗り越える」という一つの体験を通じて、学びと人の関係が深まっていくのが大きなポイントです。大学でのゼミ活動や、部活動をイメージするとわかりやすいと思います。

堅苦しく考える必要はありません。運営全体に携わるコーディネーターの存在は不可欠ですが、参加の度合いもグラデーションがあるのが健全な形です。コーディネーターは共同体をけん引するというより、メンバーを呼び集めたり、個々のアイデンティティーを引き出したり、外部からゲストを招いたりするなど、人と人をつなげる役割を担います。メンバー一人ひとりが主体性を発揮しながら学び、成長する場が実践共同体なのです。

学びのコミュニティ(実践共同体)は、従来から存在するOJTや研修、e-ラーニングなどのOff-JTといった学習方式を否定するものではありません。それぞれに得手不得手があり、オールマイティーな効果を期待できるものはないのです。これまでの人材育成施策に、学びのコミュニティをアドオンすることで効果を発揮できると考えています。

松本雄一さん(関西学院大学商学部教授)インタビューの様子

学びのコミュニティは個人と組織をどう変える?

学びのコミュニティはどのような学習に適しているのでしょうか。

学びのコミュニティが得意としている学習スタイルは四つあります。一つ目は、コミュニティに参加するという行為やプロセスを通じて知識やスキルを得る「熟達学習」です。たとえば入りたての頃は様子をうかがいながらメモを取るなどしていたのが、周りの学習者との相互作用を通じて理解を深め、段階を踏んでプレゼンターになるなどの変化をいいます。

二つ目は、複眼的学習です。普段所属しているチームや組織とは異なるコミュニティに身を置くことで、チームや自身を相対化・客観視したり、学びと実態の相違点を見いだしたりする学びのことです。三つ目は、越境学習。さまざまな境界を越えて人と出会うことで得られる学びのことです。学びのコミュニティが仕事とは違った構成であるからこそ、得られる刺激があります。そして四つ目は、循環的学習です。学習者が職場と実践共同体を行き来することで、効率よく知識やスキルを獲得する学びで、知見と課題を相互にもたらすことになります。

学びのコミュニティが企業や組織従業員にもたらすメリットを教えてください。

学びのコミュニティが得意とする四つの学習スタイルを踏まえると、企業における学びのコミュニティのメリットを10個挙げることができます。

(1)学びに関心のある人を集めることができる
組織で働く人たち全員が、学ぶことに意欲的というわけではありません。学びへの関心や主体性を底上げしたい場合は、そうした人たちが集まる場をつくることが重要です。

(2)学びを促進できる
お互いに意見を交わすという集団での学習の効果を享受しながら、学びを深めていくことができます。

(3)低次学習と高次学習の両方を促す
経営学では、知識や技能を少しずつ身につけていくことを低次学習、学習者本人の価値観やものの見方そのものを変えていくことを高次学習と呼びます。その両方を、実践共同体ではカバーできます。

学びのコミュニティでさまざまな意見や考えに触れながら学ぶことで、これまでの人生経験で培った価値観や信念が変わることがあります。そうして所属するチームや業務に対する見方、メンバーとの接し方が変わっていく、会議の場での意見の質が変化する、といった変容が見られることでしょう。

(4)所属する組織に影響を与えることができる
先の説明のとおり、学習者の変容が起こります。学びのコミュニティで得たナレッジやスキルを生かし、所属する組織での振る舞いが変わればメンバーにも刺激をもたらします。

(5)参加者間の相互作用が促進される
特定のテーマについて一定の活動に取り組むことで、参加者同士に関係性が築かれ、学習にも良い作用をもたらします。

(6)学びのモチベーションが高まる
学びのコミュニティは、一人で学ぶよりも学びの意欲を高めやすい側面があります。「学習動機の二要因モデル」という六つの学習動機のうち、関係志向を高める作用を持つためです。

他者がいて、互いに励まし合い、学び方を学び合うことを通じ、「みんなと一緒なら楽しい」と思えることで、「勉強はつまらないもの」という観念を変えることができるのです。

(7)部署横断、越境を促進する
越境というと、完成したコミュニティに、一人がポツンと入るケースが多いと思います。しかし学びのコミュニティは、集まってくるメンバー全員が越境者です。それゆえ互いに気を遣い合い、絆を深め合うことができます。

(8)学びのコミュニティと組織の間に学びのループが生まれる
まさに四つの学習スタイルの、循環的学習をさします。実践共同体で得た学びを自組織に持ち帰り、また組織の課題を実践共同体に持ち寄り、相互に学習を深めていく。そのやり取りが組織と実践共同体のスパイラルアップにつながっていきます。

(9)問題解決に向けて、多様な人たちと協働できる
学びのコミュニティは、部署や職場、役職、年代を越えたコミュニティが原則です。バックグラウンドの異なる人たちで一つのテーマについて議論し、学び合えるのは学びのコミュニティならではといえるでしょう。

(10)心理的な絆をつくり、参加者の居場所となることができる
所属部署とは違う、会社での居場所ですね。学びのコミュニティの理想は、用もないのに来てしまうという状態。サークル活動や部活の部室のようなイメージでしょうか。心理的な絆や居場所感は、学びにもよい効果をもたらします。

松本雄一さん(関西学院大学商学部教授)インタビューの様子

役職や所属を越えて、フラットで心理的安全性の高い状態をつくりやすいということでしょうか。

その通りです。ともに学ぶ中で、気兼ねなく話し合える環境はとても大切ですよね。仕事からいったん離れて、役職や上下関係は気にせずにコミュニケーションを図れる状態が理想です。

ただし仕事に関することをみんなで学ぶとなると、キャリアの影響は避けて通れません。大事なのは「何を学ぶか」をどう設定するかです。領域次第では、会社での上下関係が逆転する場合も起こり得ます。

例えば、私のゼミでの話になりますが、経営学について私は学生よりも、たくさんの知見を持ち合わせています。しかし学生世代のマーケティングについては、彼らのほうが豊富に体験しているわけです。たとえばSNSのBe Realは学生のほうが詳しいし、タイミーでのアルバイトも彼らは当事者です。私がゼミ生から教わることは数多くあります。

企業内で学びのコミュニティを取り入れることのメリットは何でしょうか。

企業が学んでほしいことと、個人が学びたいことのギャップを埋める効果があることです。会社が従業員に期待する学びと、従業員が関心や意欲を持つ学びがピッタリ重なるとは限りません。会社が提供する学びだけでは従業員にとってはやらされごとになってしまうし、個人の意向に任せきりにすると会社が期待する学びからかけ離れてしまうおそれがあります。

企業と個人の関心の間を埋めるようなテーマのコミュニティを設けることで、参加した個人は活動の中で興味関心の幅が広がり、企業が求めていた学習領域に関心が持てるようになります。企業が期待する学びと個人の学びの関心の橋渡しをしてくれるのです。

【イメージ】学習の「第3の場所」としての実践共同体

コミュニティ運営のコツ 交流という「遊び」要素が学びを強くする

学びのコミュニティを立ちあげ、運営し続ける秘訣(ひけつ)を教えてください。

まず重要なのは、学びのコミュニティはつくって終わりではない、ということです。そのうえで、実践共同体(学びのコミュニティ)に関して整理したのが「構築の7原則」です。

■実践共同体(学びのコミュニティ)構築の7原則

  1. 進化を前提とした設計を行う
  2. 内部と外部のそれぞれの視点を取り入れる
  3. さまざまなレベルの参加を奨励する
  4. 公と私それぞれのコミュニティ空間をつくる
  5. 価値に焦点を当てる
  6. 親近感と刺激を組み合わせる
  7. コミュニティのリズムを生み出す

学びのコミュニティの始まりは小さくても構わないのですが、どのように発展していくか、ビジョンを描くことがまず大事です。また、領域に対する関心や参加の度合いもいろんなレイヤーの人がいて構いません。

ある程度活動が進んだら、自分たちの学びのコミュニティの価値を改めて考えます。このとき、このコミュニティに参加するとどのような得があるのか、会社にとってどういう得があるのかを言語化してみるとよいでしょう。会社や周囲の理解を得るうえでも、大切なことです。

また、学びのみならず交流も大切にすることで、学びのコミュニティとしての意義が生まれます。勉強会を淡々と続けるだけでなく、たまにイベントを設けてみる。ゲストを招いてみたり、合宿を行ったりと、揺さぶりをかけるのです。

学びだけではなく、私的な交流やイベントを取り入れるのはなぜでしょうか。

参加者同士で心理的な絆を築き、コミュニティが参加者の居場所となるのは、学びのうえでも効果が高いからです。私のゼミでも、はじめから分厚い本を読みこむといったことはしません。最初は交流でメンバー同士の接点を増やし、相互理解が深まったところで少し高いハードル、たとえばイベントの企画や運営を任せます。そのハードルを乗り越えると、ゼミの心理的安全性がすごく高まるのです。

すると健全な批判も出せるようになり、議論や学びの質自体が向上します。批判は議論の場だけで、終わったら仲よく一緒にご飯を食べに行けるような関係が望ましいですね。

特に学びのコミュニティの場合、仕事と切り離された場ですから、職場だと躊躇(ちゅうちょ)してしまうけれど、ここなら思いきって言えるということも出てくるでしょう。その本音が、組織課題の核心を突いていることも少なくないはずです。

共に学ぶ仲間が共感したり、先輩方が少し高いレイヤーから意見を述べたりできれば、課題の半分は解決することもあります。ただこのやり取りは、学びの場だけでは難しい。私的な交流も交えて信頼を築くことで、生まれるのだと思います。

私が参加しているコミュニティでは、集まった時のランチはカレーを食べに行くことにしています。なんだか議論が盛り上がらなかった日でも、カレーがおいしかったらまた続けられるからです。

最後に、活動を持続させるうえで意外と大事なのが、次の予定を決めることです。解散した後に日程を調整しようとしても、ずるずると決まらず自然消滅、ということになりかねません。どんなに盛り上がっていなくてもいいので、集まったときに次の開催日を決めることが大切です。

学びのコミュニティの活動は、どのように評価するとよいのでしょうか。

ポイントは二つあります。一つは、意義を見いだす際に客観的評価だけで判断しないことです。企業での活動というと、KPIなどの指標を設けたくなる人もいるかもしれませんが、コミュニティの評価とは相性がよくありません。主体的に学びたい従業員が集まり、人脈を広く形成して相互理解を深めることや、何よりこの場が楽しいと積極的に取り組むことによる間接的な効果に、もっと目を向ける必要があるでしょう。

たとえば他部署の人とのつながりは、会社や自分の置かれた立場を俯瞰(ふかん)するきっかけになります。自身のキャリアパスを広く捉えられるようになり、ジョブポスティングの活性化や他部署への異動も積極的になるかもしれない。部署横断のプロジェクトが立ち上がったときなどは、円滑な関係構築につながる可能性もあるでしょう。学び合う風土の醸成は、組織の成長に必ずポジティブな作用をもたらすはずです。

もう一つは、当初は意図していなかった効果についても評価することです。たとえば介護医療施設で認知症の改善を図るコミュニティをつくったが、認知症への効果に加え、スタッフ間のコミュニケーションが深まり利用者の理解が進んだ、という例があります。想定外の領域に効果が期待できるとわかったら、コミュニティのテーマ自体を変更すればよいのです。

活動を続けていれば、個々の学びのレベルが上がり、参加者の興味や関心も変わってきます。実践共同体が進化し続ける、場合によっては一度解散して再構成を図る、というのは自然なことで否定する必要はありません。

人事はセコンド 活動しやすい環境をつくり、共に学び育む姿勢を大切に

人事はどのように、学びのコミュニティを支援していけばよいでしょうか。

温かく見守る、そのひと言に尽きますね。学びのコミュニティはつくるではなく、育むという動詞がいちばんしっくり来るといわれています。先ほどの評価の話のとおり、わかりやすい客観的な成果がすぐに出るものではありません。たとえば会議室や複合機などの設備を利用できるようにするなど、ハード面の支援もとても大切です。

企業で学びのコミュニティをうまく取り入れているところは共通して、事務局が裏からのサポートに徹している印象を受けます。先日「HRアワード2024」で企業人事部門 最優秀賞を獲得した旭化成の「新卒学部」は、学びのコミュニティづくりを実践している好例です。人事部門が新卒学部の学部長として活動の手引きをしつつ、新卒社員が自主ゼミやオンラインでの集合学習といった主体的な学びの場を運営しています。

公文教育研究会では、複数のコミュニティを重層型構造になるように設けています。熟達学習や循環型学習の毛色の強い小さなコミュニティから、交流を主とした全国規模のコミュニティまで、指導者の年次やスキルに応じて関わり方を変えながら、孤立させない学びの仕組みを築いています。全国に2万人を越える指導者がいる中で重層型構造を機能させるには、事務局のサポートが欠かせません。

サポートの上手な事務局は、自分たちも実践共同体を通じて学んでいるという意識が強いように思います。例えるなら、ボクサーのセコンドのような立ち位置ですね。真ん中には立たないけれど、コーディネーターや参加者の学び合いの姿を間近で見守りながら、大きな学びを得るイメージに近いでしょう。

中小企業など、従業員数が少ない企業でも、学びのコミュニティは成り立つのでしょうか。

もちろんです。中小企業は従業員同士、全員が知り合いであることが大きなアドバンテージです。従業員全員が参加するコミュニティをつくることもできるわけですが、これは大企業には難しいことです。

全員参加型の学びのコミュニティであれば、業務時間中に組み込んだり、時間外でもみんなが参加しているから業務扱いにしたりなど、全社的な取り組みとして設計しやすくなります。

一見、仕事と同じように映るけど、学びのコミュニティでは上下関係もなく、活発に意見を言い合えます。人は舞台が変わると、ふるまいも変わってくるものです。コミュニティであれば、入社したばかりの新人がイニシアチブをふるうこともできます。とはいえ、普段のチームとほとんど同じ顔ぶれでは、ふるまいに制約がかかってしまうので、コーディネーターがうまく配慮する必要があります。

学びのコミュニティに興味を持つ読者に向けて、メッセージをお願いします。

まずは一歩を踏み出しましょうと、声を大にして言いたいですね。どうすればうまくいくのかを考えるよりも、小さくてもいいので始めてみるほうが早い。上司に相談するより前に仲間内で活動を始めてみて、こんなにいい作用が生じているとアピールし、会社の公認を得てしまう。それも一つの手だと思います。

会社主導で学びのコミュニティを立ちあげ、メンバーを公募するのであれば、社内制度とリンクさせて学んだことを生かせる設計にするのもよいでしょう。例えば新規事業提案制度とひもづけて、半年後の役員プレゼンテーションをマイルストーンに、企画の前段階をコミュニティに取り組むという方法です。

最初のうちから領域と仕事を直結させず、みんなの関心を引きやすいテーマにしてもよいと思います。極端に言うと「お金持ちになる方法」でもよいのです。交流を繰り返すうちに自部署の悩みを打ち明けたり、仕事の進め方を相談したりといったことにつながってくるでしょう。

最初のテーマは口実に過ぎません。1年ほどたって参加者が「この仲間と学ぶのが楽しい」と思えたなら、組織エンゲージメントもきっと上がっていることでしょう。振り返ればじんわりと効果を実感できるのが、学びのコミュニティなのです。

松本雄一さん(関西学院大学商学部教授)

(取材:2024年10月25日)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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この記事ジャンル 人材育成概論

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