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キーパーソンが語る“人と組織”

企業の「社風」はどこから生まれるのか

オバタカズユキさん

コラムニスト

「向こう傷は問わない」といった雰囲気でイケイケドンドンな会社もあれば、おっとりしているけれど平凡で地味で退屈な会社もあります。内向的な性格の人が前者の会社に入社したらつぶれてしまうでしょうし、反対に目立ちたがりの人は後者の会社では欲求不満がたまるでしょう。求職者が会社と性格の不一致を起こさないようにするためには、あらかじめ「社風」を知っておく必要がありますが、なかなか外部からはうかがい知ることができません。何かいい方法はないか? そもそも企業の「社風」はどこから生まれてくるものなのか? 企業は自分で自分の「社風」を変えることができるのか。現役社員への取材をもとに各企業の実態をまとめた『会社図鑑!』の著者、コラムニストのオバタカズユキさんにうかがいました。


Profile
おばた・かずゆき●1964年千葉県生まれ。コラムニスト。上智大学文学部社会福祉学科卒業後、2カ月間の出版社勤務を経てフリー。硬派な社会批評からペットエッセイまで、幅広く執筆・編集活動。主な著書に『何のために働くか』(幻冬舎文庫)『何の為のニュース』(イーハトーブ出版)『だから女は大変だ』(扶桑社文庫)など。業界別・会社別のサラリーマンの生態を描く『会社図鑑!』(ダイヤモンド社、石原壮一郎氏との共著)は1994年から毎年刊行が続いており、企業研究の定番書である。『大学図鑑!』『資格図鑑!』の各年刊シリーズ(いずれもダイヤモンド社)も手がける。



証券会社の人はカタギの目つきをしていない

―― 業界別に各企業をレポートした『会社図鑑!』(ダイヤモンド社)を毎年出版されていますね。企業の社風、そこで働く社員についてリアルに書いてあります。

初めて出したのが1994年なので、咋年10月に刊行した『会社図鑑!』(天の巻・地の巻)で10周年、合計20冊となりました。この本のもとになる取材では、企業の広報を通さずに個人的なルートから直接、現役社員や元社員に会って話を聞いています。そうすると、企業の建前やきれいごとではなく実態が聞けるんですね。最近では、就職活動中の大学生がこの本を参考にしてくれているようです。

―― 業界や企業によって社員の雰囲気は違いますか。

オバタカズユキさん Photo

違いますよ。これまで僕が接触した社員は数千人――喫茶店などで一人ひとりに会ってじっくり話を聞いて……などと、地道な取材をしてきました。そうやっていろんな業界・企業の社員を取材するうちに、取材をしなくてもその人の様子を見るだけで、「あ、あれは証券会社の人だ、間違いない!」なんて見分けられるようになりましたね。さらにはその人が、どの証券会社に属しているかも、けっこうな確率で当てられると思います。一つの業界・企業で長い年月を過ごすと、社員は嫌でもその業界の雰囲気や企業のカラーが体に染みつくので、外見や話しぶりだけでだいたいわかるんです。

では、証券会社の社員はどのあたりでわかるのか。僕は、目つきでわかります。証券の人たちはカタギの目つきをしていません(笑)。眼光が鋭い。ぱっと見の雰囲気も、あまり楽しそうではありません。これが商社の人になると、どこか余裕の雰囲気が感じられるんです。商社マンというのは世の中のあらゆることをビジネスに考えられるので、仕事自体を楽しめるのかもしれません。それでゆとりが出てくるのかも。でも、余裕を通り越してふてぶてしさを感じることもありますけど。

そのほかでは――製菓会社の人には、ほのぼのとしたタイプが多いように思います。「この世からなくなっても困ることはないけれど、あると楽しい」お菓子を扱っているからでしょうか。コロコロした体型の社員が多い製菓会社もあって、そんなところにも企業の特徴が現れるのだなあと思います。

業界トップに君臨する企業は社員に余裕がある

―― そういった各社員の特徴や雰囲気が「社風」と呼ばれるのかもしれませんが、オバタさんは「社風」とは何だと捉えていますか。

僕は、社風とは企業の「歴史」なんだと思います。なぜかというと、企業の社風や体質は、年月が積み重なってこそ生まれるものだからです。僕は『会社図鑑!』のほかに『大学図鑑!』(ダイヤモンド社)という本も毎年出していて、各大学の校風の違いも知っていますが、校風というのは結構変わるんですよ。最近ではカリキュラム改編や経営改革など大学自体が大きく変化しているし、また学生が4年の周期で入れ替わるので、それに合わせて校風も変わっていくんですね。

ところが企業の場合は、社員は入社すると一般的には10年、20年、30年と在籍します。それ相応の歴史が積み重なっていきますから、いちどできあがった社風というのはなかなか変わらない。反対に、きわめて保守的になっていくんです。

―― そもそも社風とは、どこから醸し出されるのでしょうか。

いくつかあると思いますね。一つは、業界でのその企業の位置づけです。

『会社図鑑!』では企業の「社風マップ」も載せています。タテ軸とヨコ軸を交差させた図で、タテ軸が業界における順位や売上などを、ヨコ軸は左へ行くほど実力主義的でイケイケ、右へ進むほど官僚的でガチガチというように、その企業が持つ雰囲気を表しています。

で、どの業界でもおよそ共通していることが一つあります。それは、純然たるガリバー企業やリーダー企業があって、それに続く2位、3位の企業があるとすれば、そのどの順番に自社がいるかで、社風も違ってくるということです。

オバタカズユキさん Photo

たとえば、ある業界においてダントツでトップのA社、2位のB社、3位のC社があるとします。極端な言い方をすると、リーダー企業のA社は圧倒的な自信とプライドを持っているので、下位のB社やC社の存在など目に入りません。B社はトップに追いつけ追い越せで、A社のことばかり見て躍起になっている。C社は業界トップのA社とB社が手を出さない仕事を多くやって生きているので、卑屈になっているか、やたら戦闘的になっているかのどちらかです(笑)。

この社風が、社員にも如実に現れるんですね。リーダー企業の社員は、業界を問わず何となく雰囲気が似ています。自信や余裕がありそうというか。たとえば、リーダー企業の社員に取材で気の利いたことを聞くと、すかさず「いいご質問です」とほめられるんです(笑)。こちらの知らないことを説明してくれるときはギリシャ神話を例に引いたり、巧みな比喩を用いたり、とても丁寧。でもギリシャ神話が出てきたとたん、こちらはかえってわけがわからなくなってるんですけどね(笑)。

30代後半から「会社広報しゃべり」が身についていく

―― 社風を育む要素として、業界での順位のほかにどういうものが考えられますか。

その企業がどんな商品を扱っているかでも違ってくると思います。サービス業を展開する第3次産業と、モノづくりをする第2次産業では、社風が育まれる「場所」が違うでしょうね。たとえばクルマのメーカーは生産主導ですから、さっき言った業界内の位置関係や販売の現場から社風が生まれてくるのではなく、むしろ企業の技術者のカラーによってそれが決まってくると思います。

また、オーナー社長や強権的な社長が率いる企業かそうでない企業かによっても、社風は違ってくるでしょう。新聞社で言えば、個性の強い有名なトップがいるY社の社員たちは、僕が取材したときはみんな口が重かった。余計なことを外に漏らすと、後が怖いのかもしれません。対照的に、トップがだれなのかあまり知られていない大手M社の社員は(笑)、何でも言いたいことが言える雰囲気で、風通しのいい社風なんだと思いましたね。

―― 取材対象の社員の年齢や性別によって、会社の建前ばかり話したり、現実をきちんと打ち明けてくれたり、オバタさんの取材への対応が違うということはありませんか。

オバタカズユキさん Photo

ありますね。さっきも言ったように、僕は各業界の大手企業の社員さんたちを直接取材しています。A4サイズで4、5枚のアンケートに仕事の喜びや不満を自由に書いてもらい、それをもとに疑問点を聞きなおす。あるいは、白紙の状態から、2~3時間、じっくり話を聞く。取材のやり方はさまざまですが、絶対匿名を条件に、彼らから本音を引き出しています。

で、こちらが本当に知りたい会社像――建前ではなく現実を話してくれるのは20代後半から30代前半の社員が多い。入社して数年の20代前半の社員は、会社のことがあまりわかっていないので、就職の説明会で聞いて覚えていた内容を受け売りしたり、自分の所属部署の周辺で起きたことばかり話したりします。ある程度のポジションにいる30代後半から上の社員になると、その会社にどっぷり漬かっている雰囲気が出てきて、取材に「会社広報しゃべり」で対応します(笑)。広報しゃべりをする社員は意外と女性に多くて、自分の言葉で話ができるベテラン女性社員は、あまりいませんね。

その中間の年代――20代後半から30代前半の社員は、会社のこともある程度わかるし、自分の人生でも結婚したり子供ができたり、ときにはリストラされそうになったりする時期でもあるので、会社をさまざまな角度で捉えようとしています。だからその会社のことがよくわかる。その年代を過ぎると、本人の性格の違いを超えて社風に染まっていかざるをえないのでしょう。

社風を変えようと思ったら会社を潰すしかない

―― 社員に取材をしなくても、その企業の社風を外部からうかがい知るバロメーターみたいなものはないでしょうか。

印刷物の会社案内は参考になると思います。どの企業も会社案内には経営トップの顔写真を入れるでしょう。たとえば最初のページにトップの顔写真をでかでかと入れている企業は官僚的な社風である可能性が高い。その写真のサイズが大きいほど、オーナー色が強い傾向にあると言えます。証明写真みたいに写っているのではなく、ラフな格好で笑顔を浮かべたりしている場合は、オーナー色はさらに強いでしょうね。また会長から社長、専務、常務などまで、ずらりと顔写真を並べているところは、もっと官僚的な社風だと思います。

メーカーの場合、社風は商品に現れています。たとえばコンビニで、黒いパッケージのジュースが売られています。黒いのはめずらしいので手に取ってみると、「品質保持には黒がいい」なんて説明書きがある。江崎グリコの商品なのですが、あの会社はうんちく好きで、品質に自信を持っているですよ。そうした社風が、とってもわかりやすく表現されています。

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―― 企業不祥事が相次ぎ、社風や企業風土がその温床になっていると指摘されるようになりました。企業の間では、風土改革をしようという動きがあるようです。

企業が社風や風土を簡単に変えられるとは思えません。企業の歴史とともにできあがってきたわけだから、小手先の社内改革ではむずかしいでしょう。もし短期間で変えようとするなら、その企業をいちど潰すくらいの大手術になると思います。もともと人間の集団というものには、それぐらい保守的な性格がある。前提としてそう捉えておいたほうが、現実を見間違わないで済むはずです。

(取材・構成=笠井有紀子、写真=菊地健)



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