真の「女性活躍推進」を実現するため、企業が克服すべき課題とは(前編)
できる女性ほど辞めていく!? 先進企業が陥りやすい女性活用の落とし穴
女性活用ジャーナリスト/研究者
中野 円佳さん
職場の過剰な配慮――妊娠を機に、扱われ方が変わった
育休世代がジレンマに陥る要因としては職場の問題も大きいと、指摘されています。出産後の女性に対する過剰な配慮か、配慮不足か。中野さんご自身が、記者時代に当事者として直面したのはどちらだったのですか。
どちらかというと、過剰な配慮ですね。ニュース部門にいるときに妊娠が判明し、すぐに異動になりました。会社の説明では、妊娠したから異動させたのではないとのことでしたが、職場では完全にそういうふうに見られていましたね。自分ではニュースでも続けられると思っていたのに、同期の男性から「楽な部署に移れてよかったね」などと言われましたから。まるで一人前じゃなくなってしまったかのような扱われ方に、ものすごく違和感を覚えました。たしかに異動先の部署は、勤務時間が不規則で長時間労働が当たり前のニュース部門と比べてずっと働きやすく、定時に帰っても全く問題はありませんでした。しかし私は、長時間労働の部署でも、パイオニアになっていきたいという気持ちがありました。取材先から、あなたなら朝から来て待ったりしなくてもいい、聞きたいことがあればいつでも携帯で連絡しなさいといわれるまで、頑張って信頼関係を築いてから妊娠したつもりだったんです。それなのに異動させられてしまい、本当に不本意でした。
長時間会社にいる人のほうが評価される傾向は、やはり根強いですね。
残業する必要がないからしないだけでも、残業ができない人として扱われ、下に見られてしまうこともありました。たとえば私の場合は、3ヵ月程度の海外インターン研修に参加したいと手を挙げたら、「ふだん残業もできないのに、こういうときにだけ手を挙げるのはおかしいんじゃないか」と言われたんです。成長の機会さえ平等に与えてもらえない。労働時間の長さで会社にコミットしている男性たちを見るにつけ、彼らがラインに乗っていて、自分は外されてしまったんだという悔しさを味わいました。
職場の問題としては、出産後も働き続ける女性のロールモデルがいない、という話をよく耳にします。先輩はいるけれど、「ああはなりたくない」など。中野さんの場合は、どうでしたか。
新聞社にいたとき、自分が育休を取るまでの3年間で、7人の女性が辞めました。私は、その全員に“取材”して回ったんですよ。面識がある程度でそんなに親しくはなかった人もいましたが、ランチに誘って、「どうして辞めるの?」と。だって、それが記者の基本でしょう。女性が辞めるとなると、「旦那さんについていくらしい」など、噂だけが先行しがちです。退職理由が結婚・出産じゃないともっとひどくて、「彼女は●●社に転職するんだけど、実はその会社の社長の愛人らしい」とか。何か自分たちが納得できる理由がないと捏造するんです。しかし、辞めた7人に話を聞いてみると、やはり、いずれ私が直面するような悩み、会社にいても展望が開けないことが大きな理由として出てきました。
後輩から「ああはなりたくない」と言われているような女性に、話を聞きに行ったこともあります。新人時代にすごく輝いて見えた先輩が、結婚・出産した後に「彼女、やる気がなくなっちゃって……」と言われたりしているのですが、実際に話を聞いてみると、別にやる気をなくしているわけではなく、本人なりの選択があったんだと分かりました。
私自身はとくにロールモデルを求めていたわけではありませんが、いずれにせよ、本人の話をよく聞かず、勝手にロールモデルに祭り上げたり、勝手に反面教師にしたりするのはいかがなものでしょうか。一時期、ロールモデルがもてはやされ、各社が人事部の一押しみたいな形で社員をプッシュしたり、メディアもそれに加担して取り上げたりしたことがありました。たいていその人のいい部分しか見せないので、逆に社内から反発が出たり、本人も“客寄せパンダ”の違和感に悩んだりしたものです。本当は、会社が「この人」と推すのではなく、女性たち自身からこれと思う人の話を聞きに行ってみるべきでしょう。もちろん社外でも構いません。あの人は業界が違うからとか、あるいは私は子どもが二人ほしいけれどあの人は一人だからとか、私は実家が遠いけれどあの人は近いからとか、違う点にばかり目が行きがちですが、完璧なロールモデルなんているはずがありません。進んでいろいろな人に話を聞いて、イメージを膨らませてほしいですね。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。