世界基準のリーダーシップを求めて伸ばす
GE流“生え抜き”育成哲学とは(前編)
―― 強さの秘密は「全社員一人ひとりをリーダーに」
日本GE株式会社 代表取締役 GEキャピタル社長兼CEO
安渕 聖司さん
- 1
- 2
リーダーシップとはポジションパワーではなく「影響力」
GEにおいて、リーダーシップはどのように定義されているのでしょうか。
これも驚いたのですが、GEでは、リーダーシップの概念そのものが他とは大きく異なっていました。リーダー一人がいて、それについていくという形の一般的なリーダーシップではなく、先ほど申し上げたように、当社では、社員一人ひとりにリーダーシップが求められます。トップだけがリーダーではない、言い換えれば、権限に基づくポジションパワーがリーダーシップの源ではないということです。組織のいたるところにリーダーがいて、それぞれが自発的に行動し、周囲を巻き込みながら、企業全体のパフォーマンスを高めていく。GE流のリーダーシップとは、ポジションから来るものではなく、要するに影響力です。自分一人の権限や責任の範囲を超えて、より大きな目標を達成するために、周囲の人を心から動かす力なのです。たとえば大きな地震などの災害が起こったときに、新入社員が被災地に援助物資を届けようと自ら声を挙げ、行動を起こし、どういう物資をどういうルートで届けるか、保険はどうするかといった問題を周囲の知恵や協力を集めて解決しながら、実際に届けるのも、立派なリーダーシップだと言えるでしょう。
そうしたリーダーシップを発揮するリーダーに、必要な資質とは何ですか。
GEでは、それも明確に定義されています。GEのリーダーに必要なコンピテンシーは四つあります。そのうちの三つ、「リーダーシップスキル」「ビジネス知識・能力」「専門知識・能力」については、ごく一般的な要素と言えるかもしれません。リーダーシップスキルとは、組織のリーダーとして戦略を立案・実行し、経営リソースを適正に配分したり、コミュニケーションを図ったりする、経営を推進する上で必要なスキルのことです。ビジネス知識・能力というのは、たとえば商品やマーケット、業界動向などの変化を読み取って対応するなど、ビジネス全般に共通して求められる能力のこと。そして専門知識・能力とは、いわゆる専門性ですね。経理や法務、セールスといった職種ごとに求められる専門知識やスキルを言います。
そして「グロースバリュー」です。GE社員としての行動規範ともいうべきもので、図のとおり、われわれはこれを、リーダーに求める資質の中心に据えています。したがって、このグロースバリューを身につけていない人は、リーダーシップがないし、キャリアが豊富でも、本業の仕事でトップの成績をあげても、リーダーにはなれません。いくら他の三つの要素が優れていても、グロースバリューがなければ、ポジションに就けないのがGEなのです。逆に言えば、ポジションの有無にかかわらず、仮に新入社員でも、この特性を持つ人には全員リーダーとしてのポテンシャルがある、と評価される。そういう人材を見出し、適切なポジションに就けて伸ばしていくことも、リーダーの明確な役割の一つになっているのです。
130人のリーダーに学ぶ、成功のための五つの秘訣とは
グロースバリューこそが、リーダーシップの要と位置づけられているわけですね。
そもそもグロースバリューは、これまで当社のビジネスを成長させてきたリーダーたちが共通して持っていた特性を集約したもので、2009年に定められました。社内の約130人のリーダーや実際にビジネスを成長させた人たちについて、本人、上司、同僚、部下、お客様から「どうして彼らはビジネスを伸ばせたのか」をインタビュー。そこから抽出されたのが、グロースバリューの五つの価値観でした。GEでは、これらをリーダーシップの要と位置づけ、グロースバリューのない人はリーダーになれないと強調するだけでなく、実際の人事評価にも使っています。成果主義が浸透している米国の企業だけに、評価ではさぞかし業績がものをいうに違いない、と想像される方も多いでしょう。しかし当社には、「グロースバリューと業績を唯一の評価基準とする」というグローバル人材の育成哲学があります。しかもその評価の配分比率は、グロースバリューが50%、業績が50%の半々です。ですから業績がいくら高くても、バリューが伴わない人はダメなのです。評価が低いので、組織のリーダーにはなれません。
■GEのグロースバリュー
- 外部志向 External Focus
- 明確で分かりやすい思考 Clear Thinker
- 想像力と勇気 Imagination & Courage
- 包容力 Inclusiveness
- 専門性 Expertise
昨年GEは、グロースバリューに代わる新しい行動規範の導入を開始しました。「GE Beliefs」と呼ばれるもので、beliefとは信念のことです。既存の枠にとらわれず、新しい視点で考え、行動する必要性の高まりを意識し、それに必要な五つの行動基準から成り立っています。その五つとは「お客さまに選ばれる存在であり続ける」「より速く、だからシンプルに」「試すことで学び、勝利につなげる」「信頼して任せ、互いに高め合う」「どんな環境でも、勝ちにこだわる」で、お客さま重視の姿勢を明確にしているのも特徴的です。
「何をどれだけ」達成したかだけではなく、「どのようにして」達成したかを自らに厳しく問い続ける企業でなければ、真のエクセレントカンパニーとは言えません。
そのとおりです。業績=パフォーマンスを「WHAT」だとすれば、GEにとってグロースバリューは「HOW」ということになります。長い目で見ると、その両方を追い求めたほうが企業価値はより高まるのだという思想を、GEは120余年の歴史の中で、自らの企業DNAに繰り返し刻み込んできたのでしょう。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。