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法的な要件と労使双方の要望を満たす
定年後再雇用の労働条件と賃金設計

社会保険労務士

川嶋 英明

(この記事は、『ビジネスガイド 2018年10月号』に掲載されたものです。)

少子高齢化の進行により、労働人口が減少している日本にとって高齢者の活用が急務となる一方、年金の受給年齢の引上げ等により、高齢者自身の定年後の働き方に対する考えにも変化が出てきています。
また、長澤運輸事件の最高裁判決や働き方改革での高齢者の就業促進など、高齢者に対する労務管理の見直しを会社に迫る動きも散見されます。
本稿では高齢者、特に定年後再雇用された労働者(以下、「定年後再雇用者」という)の労務管理に関する最新の動向を踏まえつつ、法的な要件を満たす定年後再雇用者の労働条件等について考えていきたいと思います。

1 定年後再雇用者に係る最新の動向

まず始めに、定年後再雇用者の労働条件の決定や賃金制度の設計をするにあたって、高齢労働者に関する政策や判例等の最新動向について押さえていきたいと思います。

<1>長澤運輸事件最高裁判決

定年後再雇用者の労働条件の変更について大きな注目を集めていたのが、昨年の6月1日に最高裁判決が出た長澤運輸事件です。本件では定年後に再雇用されたトラック運転手の男性3人が、他の正社員と業務等が同じにもかかわらず、正社員と定年後再雇用者とで賃金に相違があるのは労働契約法20条に違反するとして勤務先の会社を訴えました。
判決では、正社員と定年後再雇用者の賃金の相違が不合理と認められるかどうかについて、支給に相違のあったそれぞれの手当ごとに、以下の三つの要件を基に不合理かどうかの判断を行いました。

  1. 職務内容(業務内容・責任の程度)
  2. 職務内容・配置の変更範囲(いわゆる「人材活用の仕組み」)
  3. その他の事情

結果、最高裁は正社員と定年後再雇用者とのあいだで「職務内容並びに当該職務内容及び配置の変更の範囲において相違はない」としつつも、支給に相違のあった「能率給、職務給、精勤手当、住宅手当、家族手当、役付手当、時間外手当、賞与」のうち「精勤手当」「時間外手当」を除くすべての項目で不合理とは認められないとしました。
これは最高裁が正社員と定年後再雇用者の賃金の相違について「職務の内容及び配置の変更の範囲」だけでなく、「その他の事情」も考慮したためです。ここでいう「その他の事情」とは、賃金項目によって違いはあるものの「老齢厚生年金の支給が受けられること」「再雇用後の年収ベースの賃金が定年退職前の79%程度であること」などが含まれます。

一方で、不合理と認められるとされた「精勤手当」については定年前と定年後で職務内容が同一である以上、両者のあいだで「必要性に相違はない」というのがその判断理由です(時間外手当については、その計算基礎に精勤手当を含んでいなかったため、原審に差戻し)。

<2>同一労働同一賃金

同一労働同一賃金とは「同じような仕事や職種に就くものはその雇用形態、性別、人種や国籍等に関係なく、同じくらいの賃金が支払われるべき」という考え方ですが、国会で成立した働き方改革法による同一労働同一賃金はほぼ「雇用形態」に限定されており、実質的には「正規と非正規の格差の是正」を目的としたものとなっています。

法的な要件と労使双方の要望を満たす 定年後再雇用の労働条件と賃金設計

この日本版同一労働同一賃金達成のために改正されるパートタイム労働法では、短時間労働者だけでなく有期雇用労働者もパートタイム労働法の保護の対象となります。定年後再雇用者は嘱託社員などの名称で呼称されるのが一般的ですが、その実態は有期雇用労働者であることがほとんどのため、定年後再雇用者も改正後のパートタイム労働法の適用を受けることになります。

また、長澤運輸事件で争点となった労働契約法20条自体は今回の法改正で削除されるものの、パートタイム労働法8条にほぼ同じ内容の条文があるため、正規と非正規で労働条件に相違がある場合は、法改正後も<1>で見た三つの要件によって、それが不合理と認められるかどうかを判断することになります。

加えて、これまで短時間労働者にしか適用のなかった「文書の交付等による特定事項の明示」「待遇等の説明義務」など、パートタイム労働法の各種規定が有期雇用労働者にも適用されるようになるため、定年後再雇用者についても注意が必要です。
改正パートタイム労働法の施行は2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)からとなります。

<3>働き方改革における高齢者の就業促進

働き方改革実行計画では高齢者の就業促進のため、65歳以降の継続雇用延長や65歳までの定年延長を行う会社への支援を充実し、将来的に継続雇用年齢等の引上げを進めていくとしています。ただし、2020年度まではその集中取組(支援)期間と位置付けており、その間は助成措置の強化や継続雇用および定年引上げのマニュアルの作成を行うとしています。加えて、2020年度に高齢者就業のインセンティブ効果と実態を検証し、継続雇用延長等に関する制度の在り方を再検討するとしていることから、少なくとも2020年度までは、高年齢者雇用安定法などの高齢者の労働に関する大きな法改正等はないと考えることができます。

また、働き方改革実行計画ではそれ以外の施策として、高年齢労働者向けに「企業の再就職受入れや就労マッチング支援、年齢に関わりなく職務に基づく公正な評価により働ける企業へのマッチング支援、全国マッチングネットワークの構築」や、雇用ではない働き方の促進として「起業の促進、シルバー人材センターを活用したマッチング」を挙げていますが、これらは会社の労務管理に直接影響を与えるものではありません。

<4>定年後再雇用者に係る直近の法改正

2013年に施行された改正高年齢者雇用安定法以降、定年後再雇用者に係る法改正の動きは少なく、2015年に施行された有期雇用特別措置法がほとんど唯一といえます。

この有期雇用特別措置法は、一定の条件に当てはまる労働者を雇用する場合で、都道府県労働局の認定を受けた場合、特例で労働契約法に定めのある5年の無期転換ルールの適用をしないというものです。60歳以上の定年後再雇用者はこの特例の対象であり、事業主が本法の認定を受ける限り、継続雇用の高齢者は、その事業主に定年後引き続いて雇用される期間は無期転換申込権が発生しなくなります。よって、定年後5年以上の期間、定年後再雇用者を有期雇用労働者として雇う可能性がある場合は、有期雇用特別措置法に基づく手続きを行っておく必要があります。

また、定年後再雇用者に限定せず、広く高齢労働者に影響のある法改正としては2017年に施行された雇用保険法があります。この改正により、65歳以上の高齢者であっても新規に雇用保険に加入できるようになりました。一方、現行では毎年4月1日時点で満64歳以上の労働者の雇用保険料は免除されていますが、この保険料の免除制度は2020年4月1日に廃止されます。


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