ハードワーク体験がトラウマに
海外本社との「時差」の苦労
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海外本社との関係維持のため
Yさんは現職のベンチャー企業で、高額な年収を得ていた。それに匹敵する金額を出せるのは外資しかないだろうと考え、私はM社を紹介した。おそらく年収が下がるだろう日系企業をあえて希望する理由とは何なのだろうか。
「管理部門のマネジャーは、海外の本社とのミーティングに頻繁に出席しなければなりません。今はどこでもテレビ会議システムがありますし、パソコンでもやろうと思えばできます」
出張しなくても顔を見ながら会議ができるのは、もはや当たり前のことだ。それはむしろ、便利で効率的なことではないだろうか。
「問題は『時差』なんです。海外では昼間でみんなが働いているけれど、日本では真夜中、ということがよくあります。しかし、大事な会議には参加してもらわないと困ると言われますし、役員から急な問い合わせの電話が入ることもあります。以前いた外資系企業では、夜中の3時、4時でもおかまいなしでした」
そんな昼も夜もないような生活が続いたため、Yさんは転職を決意し、今の日系ベンチャー企業に移ったのだという。転職相談のときにそのことを話さなかったのは、先述のとおり、今後の可能性を狭めてしまうことを心配したからだ。
「M社では、そこまでハードな仕事を期待していないかもしれません。一度確認してみましょうか」
しかし、Yさんはその必要はないと言う。最初からハードワークだと公言する会社はほとんどない、というのがYさんの考えだ。
「本社と良好な関係をつくっていかないと、仕事が成立しないのが外資系企業のマネジャー職なんです」
現在選考中の日本企業で採用が決まらなかった場合は、M社にお世話になるかもしれない。その時に印象が悪くなっていると困るので、問い合わせなどはしないで、少しだけ時間の猶予をもらってほしい、とYさんは言った。
「承知しました。いいお返事をいただけることを期待しています」
どうやら、Yさんの中でM社は「滑り止め」という位置づけのようだ。しかし、外資系企業での大変なハードワークを実際に体験したうえでの判断である。私はそれを尊重するしかなかった。
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