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「民営化」で広がる新しい雇用のビジョン

作家・道路関係四公団民営化推進委員会委員

猪瀬 直樹さん

猪瀬 直樹さん

現在ほど高速道路と郵便局のあり方が注目を集めたことは、これまでなかったでしょう。高速道路を造る日本道路公団は3分割されることになり、10月1日から民営化がスタートします。郵便局を運営する郵政公社も、4分割して民営化することが昨年9月に閣議決定しました。2つの民営化によって、日本の社会がどう変わるのか。国民の生活は本当によくなるのか。政府の「道路関係四公団民営化推進委員会」委員として現在の高速道路整備のやり方がいかに無駄遣いしているかを明らかにし、雑誌連載や数々の著書で郵政民営化が必要な理由を説いてきた作家・猪瀬直樹さんは「道路公団民営化と郵政民営化は日本の農業の再生と深いかかわりがあり、同時に、新しい雇用の創出にもつながっていく」と言います。

Profile

いのせ・なおき●1946年長野県生まれ。86年、西武・堤一族を素材にして、「借金と土地本位制」というこの国の本質を先駆的に描いた『ミカドの肖像』(小学館)で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。97年の『日本国の研究』(文藝春秋)では、特殊法人の不正にまみれた非効率な世界を初めて描き出し、それが契機になって、2002年6月、「道路関係四公団民営化推進委員会」の委員となった。道路族と闘った民営化推進委員会での記録『道路の権力』(文藝春秋)はベストセラーに。2005年3月には、竹中平蔵氏(郵政民営化担当大臣)など郵政民営化をめぐるキーマンたちとの対話と、これまで当局が隠していた新データを掲載した『決戦・郵政民営化』(PHP研究所)を上梓。また、4月には、人口減少・労働意欲減退・財政赤字という現代日本に対する処方箋を考える『ゼロ成長の富国論』(文藝春秋)を上梓した。このほか、『猪瀬直樹著作集「日本の近代」全12巻』(小学館)では、代表的な猪瀬作品を収録している。毎週木曜日にはメールマガジン『日本国の研究』を配信。http://www.inose.gr.jp/

ファクツ・ファインディングと論理による闘い

『ゼロ成長の富国論』(文藝春秋)

猪瀬さんは、ファクツ・ファインディング(facts finding)――官僚が隠している事実・情報を掘り起こして検証するという手法で、日本道路公団にメスを入れてきました。国民はもちろん、新聞記者も政治家も、知らなかったことばかりです。

道路公団はわれわれの常識では考えられないようなことをしているんですね。内部に膿が溜まっている。「民営化」とは、その膿を出し切るプロセスです。

道路公団は職員が約8300人いて、ファミリー企業が708社もある。そこに2500人以上の職員が天下りしている。職員に対しては、誰も見ていないところでヤミ手当もある。料金徴収とか用地交渉など、道路会社だったら当たり前の仕事に特別の手当がつく。約8300人の職員に対して社宅が約7300戸もあ る。しかもそのうち約1000戸は空いている――そういう異様な世界ができあがっていることを表に出してきましたが、今になっても、職員用の保養所が32カ所あり、テニスコートが132面もあるといった事実が出てくる。とにかく、次から次へと変なものがいっぱい出てくるんですよ(笑)。

われわれが支払っている高速道路の通行料金というのは、道路公団にしてみれば「通行税」の感覚なんでしょうね。料金所は「関所」ということですよ。普通の感覚の会社だったら、通行料金で新しい高速道路を造ったり利用者にサービスを提供したり、そういう経営をするでしょうが、道路公団はまず自分たちの社宅やテニスコートをつくっているわけです。集まった「通行税」は年度末までに使い切らなくちゃという感覚もある。国民が思っている以上に道路公団はひどいことになっています。

日本道路公団は3分割されることになりました。「民営化」は10月1日からスタートですね。

猪瀬 直樹さん Photo

それまでに膿は出し切っておかないといけないし、それに道路4公団は借金が40兆円たまっていることも僕がしつこく調べてわかったでしょう。「民営化」がスタートしたら、分割会社はその40兆円を自己責任において返済しなくてはいけません。昨年6月に成立した道路公団民営化法は「民営化から45年後までに債務を返済する」と明記しています。日本に初めて高速道路が建設された1963年当時は、30年後に高速道路は無料になると言われていました。それが40年、50年と、どんどん先送りされてきた。建設国債の償還は60年です。だから、放っておくと、60年になるところだったんですね。それを道路公団民営化法で「45年」と期限を区切った。

また、「民営化」は高速道路の通行料金を1割値下げしたところからスタートすることになっています。「民営化」後、分割会社に料金を下げろと言っても絶対に下げませんから、「民営化」の前に値下げを決めたんですね。そもそも公共料金を値下げするという発想自体、今までこの国にはなかったんじゃないでしょうか。分割と借金返済と料金値下げ、これが「民営化」の要諦です。それを新聞は骨抜きだとか、100点か0点かみたいな言い方をする。

3年前には、高速道路をあと2000キロ造るのにいくらかかるか、という議論がありました。

官僚の見積りでは「20兆円かかる」という。でも僕は「無理だ」と言ったんです。そんなお金はもうない。建設費用を借りても、結局返せなくなって、通行料金に転嫁されるのが関の山でしょう。僕は小泉首相にも「計画を一時凍結してほしい」と言ったのですが、自民党の怖そうな「道路族」から反対されるわ、民主党からも「改革派」と言われる知事さんたちからも「道路を自分の県に寄こせ」と要求されるわ、みんな凍結なんてとんでもない、高速道路がほしいわけですよ。遡って調べると1987年に「国土開発幹線自動車道建設法」という法律が自民党から共産党まで全会一致で成立していました。日本国内に高速道路を張りめぐらすと決めてある。これじゃあ僕に勝ち目はないかもしれないと。

それからどうしたのですか。

コストの観点から攻めて一点突破しようと考えました。そもそも、20兆円もかけて高速道路を造る理由はなぜか。民営化推進委員会が始まる前に、国土交通省は「交通需要計画」の中で、「2030年まで国内の交通需要は増えていく。2030年がそのピークになる」と予測を立てていました。これが20兆円の根拠になっている。でも日本の人口は2006年を境にして減少していく。それなのに、その24年後の2030年が交通需要のピークだというのは、どう考えてもおかしいでしょう。

一見、官僚の予測は精密にできているようだけど、僕は作家だから、直感で「おかしい」と引っかかるんです。で、国土交通省から過去のデータを全部出させたり、警察庁のデータを調べたり、いろいろやっているうちに、「交通需要計画」の予測は初めに結論ありきで、いくつか推計値を都合よく改竄していることがわかりました。詳細は端折りますが、交通需要のピークは2030年ではなく、2020年頃にやってくる。そうすると、高速道路の建設にかかるお金は官僚の予測の20兆円から、12兆~13兆円ぐらいへ落ちるんです。お金の面で言えば総投資20兆円を10兆円に減らさせた。ファクツ・ファインディングと論理による闘いで減額を勝ち取ったんですね。でも、それもまた新聞は後退したとか何とか、地道な一つひとつの闘いの意味がわからない。ため息が出ますね(笑)。

どうして「郵政民営化」をしなければならないか

「郵政民営化」については昨年9月、郵政公社を2007年から郵便事業会社、郵便貯金会社、郵便保険会社、窓口ネットワーク会社の4つに分社化する、と閣議決定しました。でも、これについても「理想にほど遠い」「骨抜きだ」と言うメディアが少なくありません。

そう言うけれど、僕は全然骨抜きじゃないと思いますよ。たとえば、郵便貯金は今、230兆円もあります。みずほ、三井住友、東京三菱、UFJの4大メガバンクの預金額と匹敵する。郵便保険(簡易保険)のほうは120兆円。日本生命、第一生命、住友生命、明治安田生命の4大生保の総資産を上回っている。こんな金融市場が民間と同等の規模で存在すること自体、そもそも異常なのですが、この巨大な資金が国債の購入にも充てられ、そして特殊法人にもどんどん注ぎ込まれている。つまり構造的に考えれば、郵政民営化と道路公団の民営化はワンセットでやらなければいけないんですね。まず、お金の出口の一つである道路公団をやって、次に入口の郵政公社をやる。そうして初めて構造改革ということです。

郵政民営化で郵貯や簡保のお金が流れ込むルートを断ってしまえば、道路公団など特殊法人の改革はおのずと流れが見えてくる。だから大前提として、郵貯・簡保の巨大な資金を減らさないといけない。いま230兆円の郵貯のうち、約180兆円はいわゆる定額預金です。「民営化」でその180兆円を「旧債務」として承継法人に持たせて、10年かけてゼロにすることになっています。また、「名寄せ」もします。「名寄せ」とは、1人の預金者が複数の口座を持っているケースをチェックし、これを合算して個人の預金総額を確定することですね。ペイオフが解禁され、一つの金融機関で預金は1000万円までしか保護されなくなったでしょう。今、銀行の名寄せ率は97~98%と見られていますが、郵貯のそれが何%か、誰も知らない(笑)。銀行並みの名寄せをすれば郵貯は口座の数も金額も減るはずですよ。新規の申し込み分を足しても、今50兆円の普通預金は40兆円くらいに減るでしょう。

そうすると合計140兆円ですよ。230兆円の郵貯が140兆円に減る。特殊法人へ流れている資金の蛇口をキュツと閉めることができる、というわけです。

ただ、道路公団民営化の議論に比べると、郵政民営化の議論は今ひとつ盛り上がりに欠けているように見えます。

議論のやり方が逆だったと思いますね。道路公団のときのように、ファクツ・ファインディングで郵政の実態を国民に明らかにして、それを踏まえた具体的な議論から民営化を考えることが大事だったのに、いきなり「民営化しなければ」という議論になったでしょう。イデオロギー論争の様相も呈するようになって、なかなか国民的な議論に広がらない。なぜ郵政民営化をしなくてはいけないか、たしかに国民にその理由がわからない人が多い。

猪瀬さんは今年3月に『決戦・郵政民営化』(PHP研究所)を上梓されていますね。竹中平蔵・郵政民営化担当大臣や生田正治・日本郵政公社総裁などとの対談が載録されています。

猪瀬 直樹さん Photo

その本のきっかけは、去年の年末に竹中さんから頼まれたんです。「郵政民営化がどうも盛り上がらないから、頼む」って言われて。それまで竹中さんと雑誌で対談した原稿がありましたが、それ1本だけじゃ本にならないでしょう。それで、今年1月から生田さんや宮内(義彦)さん(規制改革・民間開放推進会議議長)、山崎(篤)さん(ヤマト運輸社長)たちとの対談も急遽、設定してもらって、何とか2月末までに原稿をまとめました。これはギネスブック級のスピード出版かもしれません。

でもね、その本を見てもらえば、郵政民営化をしなくちゃいけない理由がいくらでもあるんだとわかると思います。たとえば、その本の中に、郵便貯金で造った施設――総額2000億円をかけた23の施設、通称「メルパルク」の一覧表を載せてあります。じつは、これまで23施設の半分くらいは黒字ということだったんですね。しかし生田さんと対談したとき、「それは単年度の収支の結果じゃないですか。減価償却が勘定に入っていない。減価償却を差し引いた収支の資料を出してほしい」と頼んで、出てきた新しい資料を見たら、なんと23施設すべて赤字。その施設別の損益を、本の中で洗いざらい公開しているんです。

年金の問題が議論されるとき、悪名高い「グリーンピア」の話題が必ず出てくるでしょう。「大事な年金積立金であんな豪華絢爛なものを造って」とか「誰も使わないのにやりすぎだ」とか。郵政の問題も同じなんですよ。いや、「メルパルク」の中には「グリーンピア」よりも凄いのがありますね。200億円かけた「メルモンテ日光霧降」なんて、ただの施設じゃありません。僕は今年2月に行って来た。展望浴場と露天風呂があり、広大な敷地の中にスポーツ館と天文館とアクアパーク館まで併設されている。施設ロビーにはバーがあり、グランドピアノもある。でもそこから10メートルしか離れていない廊下脇の場所にもう一つ、誰も弾かないグランドピアノがある(笑)。備品の予算が余ったんでしょうね。そんな豪華すぎる施設を造っておいて、年間7億5200万円もの赤字を垂れ流している。これを知って、腹が立たない人はいませんよ。早く「民営化」しないといけない。こんな施設、一刻も早く民間に売却して、経営を立て直すことです。

日本の中の「ベルリンの壁」を1940年から放置してきた

道路公団も郵政公社も、そんな大きな無駄遣いをしてしまうのは、なぜでしょうか。

それは官の世界の体質的な問題でしょう。目には見えないけれど、日本の真ん中に「ベルリンの壁」があるんですよ。壁のこっち側の「西側」の世界は資本主義で、採算性が合わなければ潰れてしまう民間の世界ですね。壁のあっち側、「東側」の世界は官の特殊法人の道路公団などがあって、これは社会主義ですから、どんな無駄遣いしようが借金を抱えようが、絶対に倒産しません。そうすると道路公団などは、民間のわれわれの常識では考えられないようなことを始めるんです。

今、国際社会の中で社会主義というと北朝鮮くらいしかないけれど、じつは日本の経済の中に同じような世界が何百兆円なんていう規模で広がっていて、しかも非効率なことばっかりやっている。そんな世界ができあがっていても、情報開示がされないので一般の国民は気づかない。それに、ヨーロッパの人たちは本物のベルリンの壁の崩壊を目の当たりにしているから、社会主義はダメだと身に染みていますが、日本人にはそんな経験がないでしょう。だから「東側」にいる道路公団など特殊法人を放置してきたということに、ピンとこないんですね。

大学を出てからずっと日本の「東側」の世界にいる人――たとえば道路公団の職員たちと話をしても、僕の言うことは何も通じません。彼らは「自分たちは民間にできないことをやっているんだ」という意識があって、「採算が合わないのはむしろ当然だ」と考えている。コスト意識なんてありませんよ。人生観から何から、僕のそれとは全く違うし、ときどき僕は北朝鮮の人と話をしているんじゃないかと思うほどです。北朝鮮の人なのに日本語がうまいなって(笑)。

日本の経済システムの中に「東側」の世界ができあがったのは、いつ頃からでしょう。

1940年からだと思いますね。経済学者の野口悠紀雄さんは「日本の経済システムの基本は、日本社会の古くからの歴史的特性に根ざすものではなく、第二次世界大戦への準備として導入された戦時経済(統制経済)にある。つまり1940年体制にある」と指摘しています。その1940年の経済体制――社会主義の色濃い体制下では直接金融が抑制されて、間接金融が強化された。それが戦後も続いていった。お金は家計から銀行へ、銀行から企業へ流れる。企業は高度成長で右肩上がりに発展して、賃金を毎年引き上げることで家計にお金を還元する。そうして、また家計から銀行へ、銀行から企業へお金が流れていく。1940年からの社会主義的な経済体制は戦後日本の経済成長の実現に大きな役割を果たしたんですね。

猪瀬 直樹さん Photo

それでは1940年以前の日本の経済システムはどうだったのか。僕は『ミカドの肖像』で西武グループの堤一族のことを書きましたが、堤康次郎さんが書いた堤一族の「家憲」には「株の多数を買収せられたり、過半数の株を買収して乗っ取られない様にせねばならぬ」とあるんですね。それなのに康次郎さんは皇族の土地を買い占めていた1949年に会社を資金調達のため上場させたけど、これは上場しないと銀行が資金を貸してくれなかったからで、やむを得ずでした。銀行が貸してくれなければ上場して市場から集めるしかない。しかし「家憲」では上場はするなと言っているんです。なぜか?1940年以前の日本の経済システムはアングロ・サクソン的な特徴があったからですよ。企業の乗っ取りなんて、ありふれた出来事だったし、堤康次郎さんは、ライバルだった東急の五島慶太さんに乗っ取られるんじゃないかと恐れていた。五島さんは凄い人で、渋谷の川の上に板を敷いて今の東急百貨店東横店を始めたり、鉄道会社を次々に買収したり、別名「強盗慶太」とも呼ばれていました。それに比べると康次郎さんの西武は劣勢でしたから、康次郎さんは「強盗慶太」を恐れて、上場するなと「家憲」に記したんですね。

それでは今、日本の経済システムはどうなっているのか。アングロ・サクソン的な資本主義が1940年体制を境に社会主義的な統制経済に変わり、それが戦後60年、ずっと続いてきましたが、バブル崩壊後、銀行の護送船団方式が崩れたり、経済のグローバル化が進んだり、今ちょうど1940年以前のアングロ・サクソン的な資本主義へ戻ろうとしているところだと僕は思う。そういう日本経済の歴史の流れの中で、ホリエモンみたいな経営者も現れてきたんです。日本の中の「東側」の世界にいる道路公団など特殊法人だって、そういう歴史の流れには逆らえません。もうすでに、のみ込まれているんですよ。

道路公団民営化→郵政民営化→農業民営化→雇用創出

「西側」の世界にいる民間企業の中にも、「東側」の官と似たり寄ったりの企業が少なくないように思います。

そうですね。人事や雇用の面で言うと、年功序列・終身雇用という社会主義的なシステムをつくったわけですからね。日本の公務員は失業保険がないでしょう。クビになることがない。懲戒免職になるのは破廉恥罪とか汚職の犯罪を犯したときだけですよ。それ以外は厳重注意とか訓戒処分で終わり、つまり注意されるだけですから。じゃあ民間企業の世界はどうかというと、やっぱり年功序列・終身雇用で、公務員の世界の引き写しですね。要するに、1940年以後の日本の官と民というのは似姿でやってきた。両方とも非効率なことをやってきたわけです。

どうしたらいいのでしょうか。

僕は、ヒントは江戸時代にあると思う。これは『ゼロ成長の富国論』に書きましたが、江戸幕府が開かれた1603年から、元禄時代の有名な赤穂浪士討ち入りの1702年までの100年間は、高度経済成長時代だったんです。人口も1500万人から3000万人に増えた。ところが、それから成長が止まりました。明治維新までの170年間、ゼロ成長が続いて、人口は3000万人のまま。途中で減少したときもあった。将軍も旗本・御家人も、大名も藩士も、膨らんだ支出に収入が追いつかず、幕府も藩も巨額の財政赤字を抱えていたんです。

でも、ゼロ成長と人口停滞が長く続いたにもかかわらず、1800年代の文化文政の時代には活発な消費経済社会を迎えていたし、世界が真似できない文化、浮世絵だけでなく陶磁器や漆器、カラクリ人形や調度品など高度な技術力を生み出しているわけです。ゼロ成長でも豊かになれるということを江戸時代に学ぶことができますよ。これからの日本も、GDPが増えなくても、人口が減っても、一人あたりのGDPを増やして利益率を向上させていけばいい。そのために「民営化」が必要になってくるんですね。道路公団など特殊法人の改革をやり、無駄遣いをなくして効率化を追求しなければいけない。

民間企業も同じですね。

猪瀬 直樹さん Photo

そう。なぜ江戸時代が行き詰まりを打開できたのか。僕はその一つに江戸の大店の人事制度が終身雇用じゃなかったこともあると思うんですね。さっきも言いましたが、今の企業の年功序列・終身雇用のサラリーマン制度は日本の伝統ではなくて、1940年代以降、高度成長の時代に定着したものです。1940年以前、江戸時代の大店は、年功序列ではあったけど終身雇用の制度ではなかった。それぞれの店は年功序列と能力主義を巧みに組み合わせて、従業員のやる気を引き出していた。そのうえで各店が自由競争をやっていたんです。

11歳、12歳の「丁稚」は子供と呼ばれ、住み込みで徹底した「企業内教育」を施される。習字にそろばん、証文や帳簿のつけ方などを約5年間、先輩から教えられる。その間に、商売に不向きだったり、体力的に続かなかったり、という丁稚は店から消えていく。同期が5人いるとすると、20歳ぐらいで「手代」になれるのは1人か2人です。また30歳の手前になると、「手代」から「上座」になれるかどうか、さらに30代半ばになると「上座」から「組頭」と呼ばれる管理職になれるかどうか、ふるいにかけられます。ピラミッド型の人事は現代の企業と同じですが、丁稚と平手代は一種の試用期間で、いつでも解雇できました。そのうえで出世の階段ごとに解雇か雇用更新か選別されていったんですね。そうやって江戸の大店は無駄な人件費コストを背負わないようにしつつ、競争力をつけようと努力していた。

行財政改革について言うなら、二宮金次郎の手法がヒントになると思うんです。

小学校の校庭とかによくある、柴・薪をいっぱい背負った銅像の少年ですね。

その銅像の少年ですけど、「薪を背負って親孝行して、後に偉くなりました」程度しか知られていないでしょう。でも、金次郎の本質は、勤勉や親孝行にあるわけではないんですね。薪を背負っただけでは、偉くなれないわけだから(笑)。

金次郎は、江戸時代末期に小田原藩の財政を再建し、後には幕臣にまでなった人物です。釜や鍋の底についたススを磨かせて薪を節約したといったエピソードから、質素倹約の人物だというイメージが定着しているわけですが、彼は、コスト削減から生まれた余剰金や農民から集めたお金を元手に、低金利の融資を始めたんです。年利1割5分から2割がほとんどだった農家の借金を、8%という低い金利で借り換えをやった。高金利融資はハイリスク・ノーリターンということもあるわけですが、金次郎はローリスク・ローリターンで確実にファンドを増やし、それを今度は行財政改革の原資にした。いわば、金次郎ファンドをつくったんです。

また彼は「分度(ぶんど)」という考え方も浸透させました。支出の限度を明確にするという考え方です。支出が増えた分は中央からの補助金や税金で埋め合わせできるという考えではダメだと言ったんですね。そういった金次郎の再建の手法を現代に引き写してみればいいと思うんですよ。金融技術を磨いて効率を追求する。国の支出も分度の考え方で徹底して見直す、という。金次郎のそういう思想を現代に生かすことから、新しいビジョンが見えてくる。

たとえば、どのようなビジョンでしょうか。

冒頭の道路公団の話で、あと2000キロの高速道路を造る投資額を20兆円から10兆円に抑えたと言ったでしょう。でも、じつはそれだけじゃなくて、小泉首相になってから公共事業全体がかなり縮小しています。日本の建設総投資額は1994年度の84兆円から52兆円に減っているんですね。約4割も減っている。今、建設業従事者は620万人いますが、250万人があぶれている計算になる。これからも公共事業は減る一方でしょうから、さらに建設業からあぶれる人が出てくる。僕は、そういう人が農業で力を発揮してくれたら面白いんじゃないかと思うんです。

農林業の従事者は1960年には1300万人いたのが、今は270万人にまで減っています。そのうち専業農家が40万人ですが、男子後継者がいる専業農家は20万人です。残りの20万人は消えていく可能性が大きい。だから、ぺんぺん草が生えている耕作放棄地がいっぱい増えていて、そこへ熊がやってきて、人と鉢合わせしたりするわけです(笑)。だったら、僕は建設業の人が農業へ進出したらどうかと。

現在、日本の農業産出額はわずか9兆円だけど、日本人は飲食関係で80兆円も消費している。この数字を見ると、農業生産部門の拡大余地が大きいと思うでしょう。それに、先進各国の農産物の輸出額を見ても、アメリカは5兆6000億円、フランスとオランダも3兆円以上、ドイツは2兆円以上です。日本は、わずか1600億円。農業は発展途上国のものだと思ったら大間違いで、先進国がたくさん輸出しているんですよ。

先進国は工業のシステムをうまく農業に取り入れているんですね。翻って日本は、株式会社は農業に参入できないという規制がある。たとえばオランダに行くと、ガラスの温室みたいな農作物の工場があるのに、日本は個人農家のビニールハウス。既存の農業者の利益を守るためというわけですが、これは戦後にGHQが小作人を地主から解放した当時の発想のままなんですね。ですから農業だって、「民営化」が必要ということです。日本人はモノづくりなら世界一の技術者だし、世界一味にうるさい消費者でもあるから、日本人の舌に合う農産物を作れば絶対に世界で売れる。それなのに、農地法や農業経営基盤強化促進法の規制があるわけです。

ただし、いま僕が言ったようなことは、試みとして実際にあちこちで始まっています。人材派遣大手のパソナも、東京の本社の地下に農場を造り、農業従事者を育てて農村へ派遣するというサービスを始めているし、飲食大手のワタミフーズは千葉で無農薬の「ワタミファーム」を運営している。僕はこの間、ワタミファームへ行って来たんですけど、そこで20代の女の子2人が農業を覚えて、畑を持って独立している。そういう企業の取り組みによって、建設業だった人たちが農業に関心を持つようになったり、フリーターやニートと呼ばれる人たちだって農業で活躍したりするケースが出てくると思うんです。農地法と農業経営基盤強化促進法の改正案は今国会に提出されていますから、これが可決されたら、建設業や若者の雇用の問題の解決にも結びつくかもしれませんね。道路公団の民営化から、郵政民営化、そして農業民営化。そこまでやれば行財政改革だけでなく、新しい雇用のビジョンも見えてくるだろうと思います。

取材は2005年4月26日、東京・西麻布の猪瀬事務所にて。
(取材・構成=大崎直美、写真=菊地健)

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