権限、役職、カリスマ性がなくても発揮できる
職場と学校をつなぐ「リーダーシップ教育」の新しい潮流(後編)[前編を読む]
早稲田大学 大学総合研究センター 教授
日向野 幹也さん
理解しないでいい、せめて若い世代のリーダーシップを邪魔しないこと
ところで、日向野先生は、企業におけるリーダーシップ開発やリーダー育成の現状を、どのように見ていらっしゃいますか。
権限や役職によらない、世界標準のリーダーシップというものが、本当に社内で必要とされているのかどうか。問い直すべき点はそこだと思います。研修を運営する人事部門と経営陣との間で、それがしっかり握られていないと、研修を受けるほうもなかなか本気になってくれないでしょう。これは他の研修についても言えることですが、せっかくスキルを獲得しても、現場ではそれが使えず、使おうとすると「生意気だ」と怒られるような環境であれば、定着するはずがありません。研修期間が終わったとたん、元の木阿弥になってしまいます。その意味ではやはり、現場と経営陣の納得が成功の第一条件ですね。
BLPでは、課題解決プロジェクトを通じた産学連携に取り組んでいます。リーダーシップ教育で成長する学生の姿は、企業の方々にどう映っているのでしょうか。
「社員の刺激になっている」という声はよくいただきますね。クライアント企業の方には基本、課題を出題するときと採点するときの二回、大学に来ていただくのですが、二回で済むところはまずありません。人事の方が来られて、自社の研修の参考にされたり、商品開発部の方がグループワークを見学して、うっかり答えを言いそうになったり(笑)。最近では、「権限のないリーダーシップ」に強く共鳴し、BLPとのコラボを社員教育の一環と位置付けて、頻繁に大学を訪れてくださる企業も増えてきました。
今後、大学や高校にリーダーシップ教育が普及し、権限がなくてもリーダーシップを発揮できる人材が、社会に続々と送り出されるようになることが期待されます。企業は、そうした新しい世代とどのように向き合うべきでしょうか。
組織や職場の中で、彼らのリーダーシップをきちんと活用すること自体が、既存社員に対するリーダーシップ教育としても、非常に有効だと思います。もちろん、権限や役職に頼ったリーダーシップに慣れ切っている世代には、受け入れがたい部分もあるでしょう。しかし、目下の人間の考えや意見のほうが正しかった、などいうことは、現実にはしょっちゅう起こるわけです。理解しなくてもいいから、せめて若い世代のリーダーシップをじゃましないで、許容する。そうするうちに、自分自身のリーダーシップも伸びてくるはずです。
また、リーダーシップ・スキルを身につけた学生を採用するためには、BLPのようなリーダーシップ・プログラムの実績を重視することが一つと、もう一つはやはり、長めのインターンシップが有効でしょう。ちゃんと成果目標を設定して、学生にグループワークに取り組ませれば、化けの皮はたいていはがれてしまいます(笑)。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。