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キーパーソンが語る“人と組織”

権限、役職、カリスマ性がなくても発揮できる
職場と学校をつなぐ「リーダーシップ教育」の新しい潮流(前編)

日向野 幹也さん
(早稲田大学 大学総合研究センター 教授)

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日向野 幹也さん 早稲田大学 大学総合研究センター
「リーダーと聞いてどんな人を思い浮かべますか?」――MBAや大学の経営系の学部で行われるリーダーシップの授業の第一回目は、よくこの質問から始まります。受講生たちの描くリーダー像を浮かび上がらせた上で、リーダーシップとはそもそも何かという話に入っていくのが常道ですが、日本企業のリーダーシップ研修では、こうした導入部がまずありません。この状況について、早稲田大学 大学総合研究センターの日向野幹也教授は「日本の多くのビジネスパーソンにとって、リーダーとは権限者や経営者のことであり、リーダーシップは経営者や管理職が持つべきスキルと知識のことだと考えられているからです」と分析します。しかし、リーダーシップという言葉の意味するところが、いま、大きく変わりつつあります。リーダーシップの新しい世界標準とは何か。それは身につけることができるのか。できるとすればどうすればいいのか――。前職の立教大学経営学部で、日本はもちろん、リーダーシップの先進国・米国にもほとんど例のない、画期的なリーダーシップ教育プログラムを開発し、展開してこられた日向野先生にじっくりとお話をうかがいました。
Profile

ひがの・みきなり●1978年東京大学経済学部卒業、83年同大学院博士課程修了、経済学博士(東京大学)。同年より2005年まで東京都立大学経済学部勤務。同年立教大学に移籍し、2006年より経営学部ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)を主査として立ち上げ発展させ、その実績のもとに2013年度の全学向けプログラム(立教GLP)を立ち上げた。2011年頃よりアクティブ・ラーニングとアクション・ラーニングの両分野で内外の顕彰を受けた(国際アクション・ラーニング機構の年間賞など)。2016年4月からは早稲田大学に移籍し、全く新しくリーダーシッププログラム(LDP)を開始した。著書に『大学教育アントレプレナーシップ』(ナカニシヤ出版、2013年)、松下佳代編著『ディープ・アクティブラーニング』(勁草書房、2015年)第9章など。

経済学者からリーダーシップ教育者へ――BLPを機に転身

―― 日向野先生が立教大学経営学部で立ち上げられた、学生のリーダーシップ開発のための「ビジネス・リーダーシップシップ・プログラム」(BLP)は、2006年春の学部発足とともにスタート。今年11年目を迎え、産学官各界から注目を集めています。

最初の2年間は予算の財源なし、スタッフなし。孤立無援の手探り状態でしたが、それから10年余りが経ち、BLPは現在、経営学部の初年次共通教育および2、3年次教育科目として定着しただけでなく、その実績が認められて、全学対象のカリキュラム「立教GLP(グローバル・リーダーシップ・プログラム)」としても展開されています。08年からは、文科省と日本学術振興会の「教育GP(質の高い大学教育推進プログラム)」に採択され、その成果審査の中で、他大学に波及が見込まれる「イノベーティブな取組」に認定されました。これは全国で15件のみ、首都圏の私立大学では唯一という快挙です。実際、この春から私が籍を移した早稲田大学のほか、國學院大學や淑徳大学などでも、同様のプログラムが走り始めています。また、後ほど詳しく説明しますが、全都立高校の新設必修科目「人間と社会」に、立教BLP/GLPで使っている「リーダーシップ最小3行動」が掲載されました。つまり、大学だけでなく、高校でもリーダーシップ教育が本格的に始まったということです。個人的に今年は、“リーダーシップ教育普及元年”と言っていいほどの手ごたえを感じています。

―― 日向野先生ご自身はもともと、リーダーシップ研究がご専門だったわけではありません。05年まで22年間勤務された東京都立大学(現・首都大学東京)では、金融論を教えていらっしゃいました。かなり思い切ったキャリアチェンジですね。

立教大学でも経営学部の新設に合わせ、金融論の教員として採用されたのですが、その際、「並行して、リーダーシップ教育も担当してくれないか」と打診されました。経営学部としては後発なので特色を出したほうがいいだろうという発想から、立教大学では、全員必修のBLPを、経営学科のコアプログラムとして構想していたのです。当時、学部で必修のリーダーシップ教育は、どこの大学にもありません。専門家も現在より少なかった。畑違いの私にBLP立ち上げの話が回ってきたのは、そのせいでしょう。正直、リーダーシップ教育になじみはなかったのですが、構想を尋ねてみたところ、都立大時代にゼミで取り入れていたプレゼンテーションの訓練やグループワークと似ていると感じたので、それを学年全体に広げればいいだろう、と。軽い気持ちで本業との兼任を引き受けて、気が付いたら、すっかりこちらにのめり込んでいました(笑)。私自身、それをリーダーシップという言葉では理解していなかったものの、昔から何か新しいことを考えて仲間と一緒に取り組むのは好きでしたし、得意なほうでしたからね。

―― 打診があった時点で、大学側が構想していたリーダーシップ・プログラムとはどのようなものだったのでしょうか。

日向野 幹也さん 早稲田大学 Photo

基本的なイメージだけで、中身はゼロから自由にできる状態でした。しかし、いろいろ調べていくうちに、そのイメージは時代遅れだと分かったのです。従来、日本でも、リーダーシップ教育の本場である米国でも、一般にリーダーシップといえば、“権限や役職”、あるいは持って生まれた“カリスマ性”に裏づけられるものと考えられてきました。教育プログラムも、いわゆる管理者研修や帝王学の類、つまり対象者に権限があることを前提としたリーダーシップ開発が定番で、じつはBLPも当初の構想では「大学生版の管理者研修」をイメージしていたのです。しかし学部発足までの準備期間中に、米国での実態を視察してみると、それはすでに時代遅れになっていました。代わりに、「権限がなくても発揮できるリーダーシップ」を涵養(かんよう)すべきという考えが、主流になりつつあることに気がついたのです。帰国後、BLPの学習目標もそうした潮流にあわせるべきと報告すると、当時の学部長にたいへん驚かれましたが、ご自分もアメリカに留学されていた経験から、「北米ではそれがむしろ伝統的なリーダーシップなのかもしれない」と理解し、BLPの新しい方向性に強く賛成してくださいました。


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