真の「女性活躍推進」を実現するため、企業が克服すべき課題とは(後編)
制度が整ってもなぜ活躍できないのか……女性たちの不安、会社の誤算[前編を読む]
女性活用ジャーナリスト/研究者
中野 円佳さん
- 1
- 2
優秀な女性たちに見限られる危機感が企業を変える
女性が、結婚・出産後も仕事を継続できるだけでなく、もっと活躍できるようにするために、企業は何をすべきでしょうか。
女性活躍推進を実現する上で、大きく二つの問題があります。一つは離職の問題で、管理職候補になる前に女性社員が辞めてしまっていること、また、それによって全体における女性の比率が少なくなっていること。もう一つは登用の問題で、男性社員と比べて女性社員の登用率が低いこと。結局、両方とも働き方の問題なんです。長時間労働をしないと評価されない、昇進できないという実情がわかると、結婚や出産をしていなくても、その前に不安を抱き、離職してしまうケースが少なくありません。管理職の登用についても、長時間勤務が前提となっているようなポストであれば、女性たちはそれに向かってチャレンジしたいとは考えなくなるでしょう。
女性の管理職登用をはばむネックとしては、働き方の問題以外に、上司からの評価や実際のスキルが低いという点もよく指摘されます。「どうせ辞めるだろうから」という理由で上司が仕事をしっかりと教えていなかったり、職場差別が関係していたり、いろいろな要因がこの問題には絡み合っているのですが、いずれにせよ、男性に比べて鍛えられていない面は否めません。
長期的にスキルを引き上げていくためには、管理職研修などを通じて実際に鍛えるほか、最近増えている、自社の幹部がスポンサー(支援者)になるような取り組みも効果的でしょう。下駄をはかせて登用するのではなく、研修などで実力の裏付けをもたせ、成長させた上で昇進させることが重要ではないでしょうか。
具体的な取り組み事例として、チェンジウェーブが設計と講師を手がける女性営業職向け研修「新世代エイジョカレッジ」の成果をご紹介ください。
「新世代エイジョカレッジ」は、リクルートホールディングス、サントリーホールディングス、日産自動車、IBM、キリン、三井住友銀行、KDDIの7社が合同で2014年から始めた取り組みで、30歳前後の営業職の女性を集め、半年かけて「営業職で女性がさらに活躍するための提言」をまとめるというプログラムです。参加社名を見ると、ダイバーシティの先進企業ばかりですが、その中で課題として挙がったのが「営業」なんです。営業職の女性は入社して10年で、10分の1に減ってしまうと言われています。必ずしも退職するわけではなく、内勤に移ったりして、営業を離れていくのです。営業というと、やはり、「足で稼ぐもの」「長時間労働が必要なもの」というのが当たり前になっていて、できれば続けたいけれど、ライフイベントを意識すると不安を感じる、という声をよく聞きます。エイジョたち自身が、その漠然としていながらリアルな不安と正面から向き合い、問題を整理し、ロジカルに解決策を提示していくことによって、見えなかったキャリアが見えるようになってくる。それがエイジョカレッジの成果なんです。
たとえば、全てのチームから「長時間労働が不安の原因」という意見が出てきました。そこで、本当に長時間労働をしているのか、長時間労働は本当に必要かということを、いろいろな方法で検証したんです。その結果、長時間労働でなくても成果を上げている女性がいたり、時間とパフォーマンスにはあまり強い相関がなかったりすることがわかりました。1週間のスケジュールを書き出して、何に時間を割いているかを調べたところ、お客さま対応があるから長時間になると思っていたけれど、意外とその時間は少なくて、実際は提案資料を作るのに時間がかかっていたり、トラブル対応に追われていたりしていたこともわかりました。結果、長時間労働は決して当たり前ではなく、早く帰ろうと思えば帰れるのだというところに落ち着いていったんです。
とはいえ、エイジョたちの提言も最初は不満が多く、権利主張になりがちです。そこをいかにロジカルに、データなども集めながら組み立てていくか。チェンジウェーブもお手伝いしますが、7社のマネジメントの方々からもアドバイスをもらいながら、「営業担当役員に提言するのだから、これくらいの体は成していないと」という水準まで引き上げます。その結果として経営陣が真剣に提言の内容や問題意識を受け止めてくれる枠組みも非常に重要だと思います。
ありがとうございました。では最後に、「女性活用」「女性活躍推進」に本格的に取り組んでいきたいと考えている企業の人事部の方々へ向けて、メッセージをお願いします。
最近は転職市場も活性化してきたので、私は女性たちにあえてこうアドバイスすることもあります。「さっさと見限りましょう」と。優秀な人材が、働く環境が整っていない企業をどんどん見限っていけば、人材獲得競争で負けてしまうという危機感が、企業を飛躍的に変えるのではないかと期待しています。逆に言えば、今後はそういう環境をどれだけ整えられるかが企業の競争力の源泉になっていきます。そこを担っているのだという意識を、人事部門の方には強く持っていただきたいですね。
- 1
- 2
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。