千葉商科大学・島田晴雄学長からの緊急提言!
これからの日本経済と再構築すべき人事戦略(前編)
~メガトレンドから見た、日本企業の現状と課題~
千葉商科大学 学長
島田晴雄さん
今、「失われた20年」から「新たな成長戦略」へと大きくかじを切っている日本経済。しかし、少子高齢化が進む中にあって、雇用情勢は不透明なままです。また、グローバル対応が求められている多くの企業において、人事戦略をこれからどう再構築していけばいいのか、その方向性や具体的な施策が定まっていないケースが少なくありません。激変する内外の経済環境の下、日本企業の可能性と潜在力を大きく開花させるために、人事部門は何を目指せばいいのでしょうか。労働経済学の専門家で、政府の政策決定にも大きく関わった千葉商科大学・島田晴雄学長に、雇用情勢のあり方と人事戦略の再構築について、詳しいお話を伺いました。
しまだ・はるお●1943年東京都出身。慶應義塾大学大学院博士課程修了、米国ウィスコンシン大学博士課程修了。慶應義塾大学名誉教授。労働経済学を専門とし、経済政策、国際関係論など幅広い分野で活躍している。小泉政権下では、内閣府特命顧問として政策支援に携わり、政府税制調査会委員や対日投資会議専門部会部会長などを歴任し、政府の政策形成にも深く関わってきた。主な著書は、『盛衰 日本経済再生の要件』(東洋経済新報社)、『岐路 3.11と日本の再生』(NTT出版)、『日本の壊れる音がする』(朝日新聞出版)、『少子化克服への最終処方箋』(共著・ダイヤモンド社)、『雇用を創る 構造改革』(日本経済新聞社)など、多数。
今、世の中で起きている変化とは何か?
現在、日本はどのような状況に置かれているのでしょうか。
今、日本は非常に大きな変化の只中にあります。代表的な出来事の一つにIT化の大きな進展があります。ITが出現したことによって、国境を越えて自由に情報が飛び交うようになりました。一方、環境問題が深刻さを増し、人口の爆発的な増加が加わって、飢餓問題が看過できない状態になっています。国際政治では、戦後のパックスアメリカーナ(アメリカの覇権)体制が崩れてきており、世界情勢が混とんとしています。隣に目を向ければ、中国の存在感が大きく増しており、超大国として日本との経済力の差をますます広げています。そうした中で日本は懸命になって荒海で船を漕いでいる、という状況です。
そして、国内でも大きな変化が起きています。第一に、急激な少子高齢化による人口の収縮です。人口が収縮することによって、国内マーケットが縮みます。また、高齢化によって重税が課されます。現在、国民負担率が平均4割(社会保障2割、税金2割)。65歳以上の高齢者の人口割合が現在、約25%です。それが2050年には40%を超えると言われています。国民負担率についてはいろいろな試算がありますが、高齢者人口割合が25%の段階で国民負担率が4割なので、高齢者の人口割合が40%を超えるとなると、国民負担率は実に7割に達すると言われています。現在、500万円の収入の人の手取りは300万円ですが、2050年には150万円となる計算です。これではとても暮らしていけません。つまり、日本はこの後30年くらいで、持続可能性のない社会になるというわけです。
ところが、日本社会のシステムは、40~50年前からほとんど変わっていません。今、社会保障が大きな問題となっていますが、その原型ができたのは1960年。それから現在に至るまで、ほとんどシステムが変わっていないのです。当時は人口構成が富士山型のピラミッドでしたが、現在は逆ピラミッドですから、財政的に破綻するのは当たり前です。加えて、学校の教育も変わっていません。大量の知識を詰め込むことをよしとした一律の教育です。都市のあり方もそうです。高速道路と新幹線ができたのは東京オリンピックのあった1964年ですが、基本的な構造は何も変わっていません。確かに都心を中心に新しいビルはできているものの、アジア新興国と比べるとその高さは半分程度に過ぎません。
企業はどうでしょうか。
企業の体制も、40~50年前のままです。取締役会、株主総会等々。近年、会社法は変わりましたが、依然として日本企業は、日本人の日本人による日本人のための企業です。非常に排他的で、意思決定に時間がかかります。排他的ですから、グローバル市場の変化が、意思決定に反映されません。その結果、改革が進まず、対策が遅れてしまっていて、周知のような「失われた20年」に陥ってしまいました。
意識するとしないとに関わらず、世の中は技術とマーケットの変化によって動いています。企業はこれに対応しなければ、滅びるだけです。対応していくためには、常に変化を先取りしなくてはなりません。それは当然、人事にも言えることです。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。