育成の成果にこだわり、研修効果を“見える化”
人のあらゆる可能性を切り拓く、
新時代に求められる教育のカタチ
アルー株式会社 代表取締役社長
落合 文四郎さん
日本の課題をビジネスで解決すべく、労働生産性を高める人材育成事業に着手
2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリー(現・アルー株式会社)を設立されます。起業の経緯について教えてください。
もともと「起業したい」と思っていたわけではありませんでした。ただ、ボストンコンサルティンググループで楽しく仕事をするうちに、一つの考えが芽生えたんです。それは、一つひとつの企業の課題を解決するだけではなく、もっと大きな視点で社会全体の課題に取り組みたいという思いでした。100年後の未来を想像したとき、そこに立ちはだかる課題に対して、長い時間をかけて向き合っていきたいという意欲がわいてきたんです。
明るい未来に向けて日本が解決すべき課題とは何か。その一つが労働生産性の向上です。語るまでもなく、日本は「超少子高齢化」を避けられません。2050年には、労働人口は現在の3分の2になると言われています。労働生産性を現在の1.5倍以上にしなければ、今の経済規模は保てないでしょう。労働人口の減少は、ほぼ確実にくる未来であり、不可逆的な時代の流れ。しかも2~3年といった短期間で解決できるものではなく、数十年をかけて取り組むべき課題です。残りの仕事人生をかける価値がある課題だと感じました。
次に考えたのは、どのようにして労働生産性を高めるかについてです。もちろんAIなどの技術を活用するのも一つの手ではありますが、それらの技術を使うのも、結局は「人」。技術ではなく、「人の能力」を社会全体で高めていくような仕組みをつくりたいと考えました。そこで人材育成事業を手がける新会社を立ち上げたのです。
設立後、最初にリリースされた人材育成サービスは、どのようなものだったのでしょうか。
最初にリリースしたのは、法人向け研修「100本ノック」です。この研修は、コンサルティング会社で暗黙的に使われている思考のプロセスや問題解決力、プレゼンテーション力などのスキルを誰もが実践できるものに落とし込もうという発想で生まれました。
「100本ノック」のコンセプトは、“習うより慣れろ”。特徴的なのは、講師による講義を全体の2割にとどめ、残りの8割を反復練習に費やしている点です。今でこそ、演習中心の研修スタイルは珍しくありませんが、私が会社を立ち上げた15年前は、講師が教壇に立ち、一方的に話し続けるのが一般的でした。確かに講義形式のプログラムは、多くの知識を得ることができます。しかし、その知識をビジネスの現場で生かせるようになるかというと、それはまた別の問題です。
自転車を例に考えてみましょう。自転車に乗れない人に対して、「ある程度スピードを出しながらバランスをとって、ペダルをこげばいいよ」と教えたとします。教えられた側は、もちろん頭では理解できるでしょう。でも、この言葉だけを聞いて乗れるようになるかというと、答えはNOです。自転車に乗れるようになるには、実践を繰り返すしかありません。どの程度スピードを出せばいいのか、どのようにバランスをとればいいのか、感覚をつかんでいく必要があるからです。まさに七転び八起きの反復練習が一番大切。ビジネスのトレーニングでも、同じことが言えます。
研修に反復練習を取り入れたのが、この「100本ノック」です。実は、「100本ノック」を企画開発し、1社目に導入していただくまで、起業から1年半の時間を費やしました。時間はかかりましたが、おかげさまで当社のスタンスが伝わる、オリジナリティーあふれる研修プログラムになったと思います。10年以上経った今でも大手をはじめ多くの企業にご活用いただいています。
その後、貴社は「団塊世代退職後の新入社員育成」や「グローバル人材育成」「働き方改革を実現する管理職育成」にも注力されていますね。時代のニーズをつかんだ人材育成プログラムを継続してリリースされている印象があります。
「時代の流れ」と「キーとなるイベント」がかけ合わさったとき、人材業界に期待される明確なニーズが生まれる、と個人的には捉えています。たとえば近年、グローバル人材の必要性が叫ばれていますが、グローバル化の波は以前からあったもの。しかし、ここに「著名な企業経営者が英語の社内公用語化を宣言する」というキーとなるイベントがかけ合わさると、一気にグローバル人材育成への興味や関心が高まります。生産性向上についても同様です。少子高齢化で労働生産性を高めなければならないことは周知の事実ですが、それだけではニーズは生まれません。政府が「働き方改革」というワードを打ち出して初めて、生産性向上に取り組む企業が一気に増えるのです。
時代のニーズに応え続けてきたアルーが今最も力を入れているのは「管理職研修」です。管理職のあり方は、今まさに転換期を迎えています。高度経済成長期の管理手法をそのまま踏襲し続け、マネジメントがうまくいっていない企業が増えているからです。
高度経済成長期では、事業の成長を前提に組織が成り立っていました。どのようにビジネスを舵取りすべきなのか方向性をつかみやすかったと言えます。組織の形態も終身雇用が中心で、年功序列の風土が色濃く残る、ある意味単一の文化のなかでチームを運営することができました。将来を見通せる分、計画されたマネジメントが可能だったんです。
しかし、現代は違います。まずビジネスにおいて“こうすればうまくいく”という正解がありません。組織も昔のように単一の文化ではなく、人が働く目的や動機もさまざまです。ある人は仕事にやりがいを求め、ある人は報酬や昇格を求め、ある人は家族やプライベートの時間を求める。“こうすればうまくいく”という正解がない現代では、計画的なマネジメントは通用しません。現代の管理職に求められるのはメンバーや状況に応じて組織をマネジメントする「自己変革力」。アルーの研修では、管理職とメンバー、それぞれにアプローチし、現場改革につながる実践的な育成プログラムを提供しています。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。