10年後を見据え、既存の枠組みを超える
丸紅が取り組む
「人材」×「仕掛け」×「時間」の施策
丸紅株式会社 人事部 部長
鹿島浩二さん
経営トップの思いと現場の思いをすり合わせたことで、取り組みが受け入れられた
会社を変革していく強い意思が込められた諸施策だと思いますが、実施していく際には、どんなことが課題になりましたか。
「人材」×「仕掛け」×「時間」という多面的な取り組みを一気に具体化していったので、社員に全くとまどいがなかったといえば嘘になります。「15%ルール」を実施する際も、「コンセプトはわかるし方向性としては賛成だが、一方で日々のルーティンのビジネスもある。現実的に可能なのか」という意見がありました。
ただ、「それでも取り組まなければならない」という考え方は、かなり浸透してきたように思います。難しいけれど工夫してやってみよう、という姿勢の人が増えつつあるのは間違いありません。
これには、経営トップが発信したメッセージの力が大きかったように思います。実は2017年ごろから、社長の國分自ら改革の重要性やこれから目指すべき方向性を、月1~2回の動画配信によって全社員に伝えていたのです。ですから、経営が考えていることや、何か新しいことが始まるということは、社員もかなり前から理解していたと思います。
また、丸紅本社だけで約80名いる部長全員と、社長が膝をつき合わせて話し合う機会を設けました。1回あたり10名程度の部長と一緒に研修センターに泊まり込んで、経営陣が感じていること、営業部門が感じていること、管理部門が感じていることを近い距離で共有していったのです。
部長職の社員は、営業や実務のまさに最前線に立っています。しかし、その上に立つ本部長やグループCEOクラスと比べると、経営トップと直接話し合う機会はそう多くはありませんでした。そのため、じっくり時間をかけて意見交換をしたのだと思います。
また、一連の施策をいわゆる「人事の制度改革」にとどめなかったことが、浸透した一因ではないかと思います。「丸紅アカデミア」はデジタル・イノベーション部が中心になっていますし、「ビジネスモデルキャンバス」は経営企画部とデジタル・イノベーション部の協働です。もちろん、人事部もバックアップしています。つまり、経営主導で既存の枠組みを超え、全社でイノベーション創造に取り組もうという改革なのです。さまざまな部門が連携し、会社として取り組みを進めたことで、「会社の本気度」が社員に伝わったのではないでしょうか。
制度の利用促進に向けた施策は、広報部と協働で実施しました。その際、社員に対して単に「制度を使ってください」と呼びかけるのではなく、事例紹介などを盛り込むことを意識しています。たとえば「15%ルール」なら、利用している社員が実際にどのような取り組みに時間を使っているのか、実例を伝えます。「こういうことができるのか」「おもしろそうだ」と感じてもらうことが、出発点になるのではないでしょうか。
個人的には、これから選考結果が決まる、ビジネスプランコンテストにも期待しています。その結果を見て「自分もやってみたい」と思ってくれると良いでしょう。義務感ではなく、あくまでも自主的に取り組む人が増えていくことを目指しています。
確実に浸透しつつある「新しいことに取り組むマインドセット」
改革に取り組む中で、どのような成果が見られましたか。
「社外人材交流プログラム」で頑張っている社員に話を聞くと、社内では絶対にできない経験を積んでくれていると感じます。彼ら/彼女らにとっては、得がたいキャリアになっていくことでしょう。こうした一人ひとりの声を聞くと、徐々に成果が出つつあることを感じます。
会社全体としても、大きく変わってきたものがあります。それは、新しいことに取り組むマインドセットです。「会社が新しいことをはじめている」「自分たちも挑戦していいんだ」ということが浸透してきています。組織として新しいものに取り組むだけでなく、社員個人も「何かないかな」と常に目を光らせる様になってきました。そういう声を社員自身から聞く機会が増えています。とはいえ、全体的にはまだまだ道半ばです。取り組みをいかに継続的に進めていけるか。ここでは私たち人事の役割も重要になると感じています。
取り組みを継続していく上で、今後どのようなことが必要になってくるとお考えでしょうか。また、これからの展望などもお聞かせください。
たとえば「15%ルール」を使って何か新しいものを生み出したときに、その個人をどう評価していけばいいのか。あるいはプランを出して新しいビジネスを立ち上げた際に、その人のポストはどうなっていくのか。一連の取り組みが進んでいくと、現行の人事制度ではカバーしきれない部分が出てくると思います。今取り組んでいるのはソフト面の施策が中心で、資格制度や報酬制度といったハード面が含まれていません。継続的に進めていく上では、そういった整備がいずれは必要になってくると考えています。
また、「人生100年時代」と言われる中で、シニア人材も含めた社員がいきいきと働ける仕組みは何なのかということも課題になってくると思います。今回導入した制度の多くは、若手社員に限った施策ではなく、新しいビジネスをシニアが中心になって立案、実現してもらってももちろんかまいません。むしろ、経験豊富な社員が加わることで、より立体的なイノベーションの芽が生まれる可能性にも、期待しています。