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「おじさんコミュニティ」で意思決定する時代は終わった
――「言語化」で多様性を組織に活かす

法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授

高田 朝子さん

法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 高田朝子さん

女性の社会進出や外国人人材の登用、コロナ禍で加速した働き方の多様化などにより、同じ会社で働く人々でもそのライフスタイルや考え方は多様になっています。法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授の高田朝子さんは長年にわたって女性管理職の実態を研究し、同質的な男性同士が閉じられた場で会社の重要な意思決定を行う「おじさんコミュニティ」の問題を指摘してきました。人々が多様化し、組織が変化する新しい時代にふさわしい組織やリーダーのあり方とはどのようなものなのか、高田さんにお話をうかがいました。

プロフィール
高田 朝子さん
法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授

たかだ・あさこ/モルガン・スタンレー勤務を経て法政大学 経営大学院 教授。立教大学 経済学部 卒業。Thunderbird School of Global Management(MIM/MBA)、慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 経営学修士(MBA)、同博士課程修了。 博士(経営学)慶應義塾大学。現在、イオン・ディライト株式会社 社外取締役や朝日新聞 社長付再成長アドバイザーも務める。著書に『手間ひまかける経営』(2023年、生産性出版)、『本気で、地域を変えるー地域づくり3.0の発想とマネジメント』(2021年、晃洋書房)、『女性マネージャーの働き方改革2.0』(2019年、生産性出版)、『人脈のできる人―人は誰のために一肌脱ぐのか』(2010年、慶應義塾大学出版会)など。

「制服を着るのが嫌」で入社した外資系証券会社
MBAで答えのない問いを扱う経営学の魅力に目覚めた

大学卒業後に外資系証券会社へ就職した理由と、その後、研究者を目指した経緯をお聞かせください。

就職活動をした頃はバブルの時代。金融機関に勤める家族が多い環境で育ったので、なんとなく自分も金融機関に就職するのだと思っていました。まだ女性の就職は厳しい時代で、採用人数が多かったのが金融機関という側面もありました。一方で「制服を着るのは嫌だ」「古典的なエリートコースではないので銀行では出世できないだろう」という考えもありました。そのような背景から、当時日本に進出してきたばかりだった外資系証券会社に興味を持ち、入社しました。

最初に入社した外資系証券会社が他社と合併するタイミングで、モルガン・スタンレーからオファーをいただいて転職。入社後しばらくしたら、上司に「修士号を持っていないと昇進できないから、取得したほうが良い」と言われ、学問の方面に進むことを考え始めたんです。当時はいわゆる「第一次MBAブーム」の時代で、「海外に行ってみたい」という気持ちからアメリカに行き、修士号を取得しました。

そこで「経営学って面白い」と気づいたのです。それまでの勉強は、良い点数を取らなければならないもの、答えがあるものでした。私はそれが苦手だったのです。でも、経営学の勉強には答えがない。それがすごく面白いと思いました。

もう一つ、社会人になって間もない頃に「ブラックマンデー」を経験したのも大きかったですね。月に給与額で1億円稼ぐような人が、職がなくなって真っ青になっていくのを目の当たりにして、「人ってこんなに変わるのか」と驚きました。正解がない人間の行動に興味を持ち、その面白さにのめりこんでいきました。

研究者になった直接のきっかけは結婚と出産です。米国から帰って結婚した直後に内定をもらっていた会社に海外赴任を命じられ、子どもを授かったこともわかったので退職。研究者への道を進むことに決めました。

専門分野は組織行動です。組織行動は「ミクロの組織論」と言われていて、組織をどう作るかよりも人に着目しています。どういうリーダーシップをとると組織がうまく回るか、どうやって人を動機づけるかを研究しています。

高田朝子さん(法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授)インタビューの様子

高田さんは長年、日本企業の「女性活躍推進」や「女性管理職」について研究されていますが、現状をどのように捉えていますか。

女性管理職について10年以上研究を続けています。15年ほど前は女性管理職の数はかなり少なかったのですが、今は数が増えてきたと感じますね。役員を目指す人も増えていますが、それは上場企業の女性たちの場合です。証券市場のルールなど外部の目によってガバナンスがきいているからです。クローズドの会社では必要がないから進んでいないといえます。

大企業では、男性だけではマネジャーのポストをまかなえなくなっているからお尻に火がついている部分もあるけれど、中小企業は困らない。それが本当に困っていないのか、見て見ぬふりをしているのかはなんとも言えませんが、中小企業の女性管理職の数はまだ少ないのが現状です。

タバコ部屋で生まれる「おじさんコミュニティ」
問題は、意思決定の場に多様な観点が入らないこと

高田さんは、現在の日本企業における「おじさんコミュニティ」の問題を指摘されていますが、「おじさんコミュニティ」とはどういうもので、何が問題なのでしょうか。

一番古典的な「おじさんコミュニティ」は「タバコ部屋(喫煙所)」です。女性が少なく、閉じた場で仕事にかかわる物事が決まるのが特徴です。他にも飲み仲間やゴルフ仲間とアフター5を一緒に過ごしたり、もともと同窓生で関係が強かったりすることで作り上げられる同質的なコミュニティのことを言います。

これまで女性は社内で人数が少なく、そのような場に入っていきにくかったため、このコミュニティは「おじさん」によって形成されていました。ここでいう「おじさん」は特定の年代の男性を指しているのではなく、アフター5も含む長時間をともに過ごすことで築き上げられる、同質的なコミュニティの構成員を指しています。

同質性は人間にとって気持ちが良いものです。それ自体は悪いものではありません。それに「おじさんコミュニティ」では、同質的な人々で意思決定を行うため、速い。そして一丸になる。安定した世の中、日本が強かった時代には大きな力を発揮してきました。それまでやってきたことや方針を守っていけばよかったんです。

しかし、現在は先の読めない時代であり、組織運営においては思考の幅が広いことが重要です。「おじさんコミュニティ」は存在してもいいけれど、そこだけで意思決定をしてはいけない。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ではない時代に今までのやり方だけを守っていては、国力としても弱くなっていくでしょう。

いろいろな人が入れば当然、すんなりと物事は決まりません。どうしてそうすべきなのか、説明をする必要が出てきます。それは面倒なことですが、「異質」な人々が互いに何を考えているのかを言葉にしあうことで、組織として多角的に物事を見ることができます。

コロナ禍を経て、タイバーシティ&インクルージョンの動きが進む中で、「おじさんコミュニティ」は変化してきているのでしょうか。

リモートワークが成立するようになり、「おじさんコミュニティ」のような会合自体が減っているのではないでしょうか。オンライン会議ツールは、初対面の人同士が新しいコミュニティを作っていくにはあまり適さないのですが、物理的に会いにくい人同士が顔を合わせる頻度を上げられるため、特定の閉じられたコミュニティだけで意思決定がなされることが少なくなりました。

しかし、コロナ禍以降、「おじさんコミュニティ」だけではなく、さまざまなコミュニティがなくなりつつあり、人と人とのつながりが希薄になっていることには危機感を持っています。

同じフロアにいたとしても基本的な連絡はメールやチャットなどでやりとりし、対面で話す機会が減っています。それ自体はやりとりの記録が残るのでコンプライアンスの観点からは悪いことではありませんが、時々スイッチを切り替えて対面で話す機会を持つことが重要です。「ちょっと会う」ことを面倒がらない人が、これから得をする。優秀なビジネスパーソンはそれができていて、情報が集まってくるし、人から好かれている傾向があります。

コミュニティとは、情報を与え、もらうことのできる関係性です。あげてばかり、もらってばかりでは成り立たない。必ずしも対面だけでコミュニティを構築する必要はなく、社内ポータルなどで緩くつながることで成功している会社もあります。

新時代のリーダーには「自分の考え」を語る力が必要
「相手に行間を読んでもらう」ことを前提としない

高田さんは「同質性だけでは組織が立ち行かない時代には、リーダーの言語化能力が必要だ」とおっしゃっていますが、それはどのようなものでしょうか。

「行間を読み取る力を相手に求めないこと」です。行間を読むことは人間に必要な能力ですが、それを当たり前だと考えてはいけません。同質的な集団で成り立っていた昔は暗黙知があり、それを共有しているのが基本的な前提でした。今はそんなものはありません。

例えば、「あなたが乗り気でないことを、なぜ私が読み取ってあげなければならないのか」と思われてしまうときは、やはり言葉で説明すべきです。

伝統的な日本の企業では、偉くなればなるほど、周りが全部やってくれるので、リーダーが自ら言葉にする必要はありませんでした。自分でパワーポイントを作って講演をする上場企業の社長は限られているでしょう。多くは秘書や経営企画室のメンバーが作り、社長が上手にしゃべるだけです。リーダーが言うべきことを周りが察して作ってくれている。そうではなくて、「私がやりたいことはこうなのだ」と自分の言葉できちんと表現する必要があります。

ビジネスの現場では、自分の中でスイッチを入れて、言葉にするモードにしていくのです。「わかってくれる」と思わずに、一歩踏み出す。「ちょっと確認して良いかな」とか、「こうだよ」と言えるようにする。冷たくなるかもしれないし、はっきりさせないほうが良いこともあるかもしれないけれど、自分の気持ちや「やってほしいこと」、感想やコメントはしっかりと言葉にすべきです。「言わなくてもわかるでしょう」は成り立たない。

もう一つ、言語化能力を高めるには事態を俯瞰(ふかん)して話すことです。目の前のことではなくゴールから話す。なぜこの状態があるのか、後ろにある本質的な問いは何なのかを常に考えて言葉にする。言語化するためにはものごとの核がわかってないと難しいのです。能力のある上司は全体の風景の中でそれぞれの部下がどういう役割を果たしているのか、目立つ部分だけでなく、それぞれを見ることができます。絵画を見るときに目立つモチーフだけに目を向けるのではなく、それを引き立てる構図や背景の工夫まで気づけるかどうか。部下の働きぶりを見るのも同じことです。

先の見えない時代だからこそ、「わが社はこうなっていく」「日本はこうなっていく」という見通しをリーダーは予測して発信していかなければならないし、そうした俯瞰的な立場から物事を決めざるを得ないのです。それには、なぜこうなっているのか、自分はどうしたいのかを常に問い続けることが必要です。

「怒るとき」こそ、言語化能力が大切
感情を伝えることは、上司にも部下にも必要なスキル

「言語化能力」が必要となるのは具体的にどのような場合、どのような状況でしょうか。また、その際に言語化能力が必要となる理由は何でしょうか。

まず、自分のやりたいことを部下に「察せよ」というのは間違っています。「私はこうしたい。だから、こうしてほしい」「こういうゴールに向かってみんなで考えよう」「考えていることを言ってほしい」などとはっきり言うことが必要です。いろいろな人がいろいろなことを言ったほうが予測の幅が広がり、良いアイデアが生まれ、組織は良い方向に向かいます。

高田朝子さん(法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授)インタビューの様子

それから、「怒るとき」こそ、言語化能力が重要です。怒るときほど、罵倒や相手の存在を否定してはいけない。相手に「この人は自分に当たりたいだけだ」と思われてしまってはいけません。まずファクトがあって、それを表現し、それに対して自分はどう思い、どうしてほしいと思っているのかをきちんと伝える必要があります。怒られた部下が、後から「一理あるな」と思い返すような怒り方をすべきです。

部下の側が上司に抵抗するときも、言語化能力は重要です。「私は怒っている」あるいは「困っている」「悲しい」といった気持ちは、言葉で言えなければ伝わりません。自分がそういう気持ちになっているということは、相手は想像力が欠如しているか、忙しすぎてそこまで気が回っていないのです。自分から伝えるしかありません。

どちらの立場にしても長く語る必要はありません。話が長いときは、自己保身のために話している傾向がありますし、長い話をしているうちに相手の意識は離れていきます。

また、リーダーシップで一番大事なのは淡々としていることです。「言語化能力が高い」とは「おしゃべりである」ことではないし、いわゆる「コミュニケーション能力が高い」タイプである必要はありません。端的に言語化できること、全体を俯瞰して前提から疑問を持てるような能力が重要です。

「言語化能力」を磨くために、個人として努力できることや人事部門ができることは何でしょうか。

個人としてできることは、自分の中で脳内シミュレーションをして言語化する習慣をつけることです。例えば「あの人はなんで怒っているのか」を文字や声にしなくとも頭の中で言葉にして考えてみるのです。また、「あのときこういえばよかった」と反省することも効果的です。

人事部門ができることとしては、正解がある前提の研修を多く行わないことです。幹部や幹部候補の選抜を早めて、早いうちから自分なりの答えが出せるようにトレーニングしていかなければ間に合いません。一人の人が長く一つの会社に勤める時代ではないので、必要になる一世代前から教育し、その中で何%が残るかを計算しながら育てなければなりません。年に2、3回は「業務より研修に集中しなさい」といって成果物を作らせることが必要です。

また、これまでの日本の会社は「おじさんコミュニティ」に象徴されるように内向きでした。これからの日本において大事なことは、ある種の集合知です。同業でも異業種でもネットワークがあることが重要で、社員の越境学習は支援すべきだと思います。

マネジメント能力は「知識」と「振る舞い」で構成されます。振る舞いの部分は勉強で身につけるものではなく、自分で考えることであり、やってみないとわかりません。一方的に「こうあるべき」を教える研修では、この能力は育ちません。

上司は「待つ力」を身につけるべし
人事はもっと管理職になる面白さの可視化を

女性管理職が増加するため、また、ダイバーシティ&インクルージョンがもっと進むために、リーダーの「言語化能力」のほかに必要なことはありますか。

評価や判断をする側が、なんでもゼロかイチかで決めないことが必要です。「ネガティブ・ケイパビリティ」という概念があります。これは白黒はっきりさせるのではなくて、グレーの状態を受け入れる力のことです。思い込みにとらわれずに情報を集め、拙速に物事を決めずに思考実験を繰り返した上で自分で判断することが重要です。

この反対は「女性はこうだ」「この大学を卒業した人はこういうタイプだ」などといった決めつけです。考えているようで、実は決めつけることによって自分で考えることを放棄し、楽をしているのです。たとえば「この偏差値以上の大学でなければうちの仕事は務まらない」と決めてしまえば、悩まなくていいから楽になる。

人がたくさんいる時代には、それでも回っていました。しかし、今は予想できない環境の中で、だれがどう化けるかわかりません。人を育てるときには、この人はこうだと決めつけず、「どっちにいくかな」と見守ることが必要です。決定を先送りにするのではなく、検討し続けることです。安易に決めて楽になってはいけません。

最近は、管理職の負荷が増え、管理職が「罰ゲーム化」しているとも言われますが、この状況についての高田さんの見解をお聞かせください。また、そのような時代に女性が管理職を目指したり、周囲がそれを支援したりする際に必要なことは何でしょうか。

まず、「罰ゲーム」と言われるような状況を作ってしまった会社のトップには反省してほしいですね。罰ゲームと呼ばれてしまうのは管理職になることに「うまみ」がないからです。しかし本来、昇進は決裁範囲が広がることであり、大きな仕事、楽しい仕事ができるようになるはずです。会社や人事はその成功例をもっと積極的に見せていくべきです。

人間は得になることなら、自分からするので、「管理職になれば得することがある」と見せていく必要があります。罰ゲームと呼ばれている中身は何でしょうか。自分の時間がなくなる、今よりもっとしんどいことを言われる、給料は上がらない――。

それを改善するには仕事の無駄をなくす必要があります。AIに任せられることはAIに任せることで仕事の量を減らしていくこともできます。経営陣は「罰ゲームと思われているから」と目先を見て決めつけるのではなく、20年後を見据えてAI導入などの方針転換を決めるのが仕事です。罰ゲームと言われているなら、その理由に対処しなければ言われ続けることは変わりません。もちろん、給与も上げる必要があるのはいうまでもありませんが。

人事は今の時代こそもっとネットの社内報の内容を厚くすべきです。そこで「管理職は楽しい」と実感している社員の例を多く見せるべきです。

女性管理職の登用は、「この人」という決め打ちではなく、広く網を広げておおらかに構えていないとリスクが高い。それこそ指名された側が「何の罰ゲームですか」となってしまう。若い男性もそうです。複数の人材、いろいろなリソースがあると考えたほうが良いでしょう。前例踏襲で人材を選んでいたら現状打破はできません。

管理職候補の人たちを教育する上では、やはり解があることを教えるのは無理です。マネジメントをする中で、「絶対5時に帰ります」「お祈りの時間があるんです」など、外国人も含め、これまでと違った背景をもつ社員がたくさん入ってきます。過去の事例をひも解いて持ってくるのはやめたほうが良い。

かつては同じ背景を持つ男性同士が、あうんの呼吸で仕事を進めることができました。しかしこれからは、女性はもちろん、人種も宗教も違う人たちと働くことになってきます。それは少子化という事実により、避けられない展開です。

多様な人材で構成される組織において「察してくれ」は通用しません。それぞれが自分で考えることを放棄せず、前例踏襲ではない道を探っていくことが会社の未来を作っていくことにつながるのです。

高田朝子さん(法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授)

(取材:2024年8月5日)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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