株式会社クレディセゾン:
がんとともに生きていく時代
社員が治療と仕事を両立するために人事ができることとは(後編)[前編を読む]
株式会社クレディセゾン 取締役 営業推進事業部長 兼 戦略人事部 キャリア開発室長 武田 雅子さん
真のダイバーシティはがんが教えてくれた
企業の置かれた環境も複雑化していますが、人事としても社員一人ひとりへの対応力が求められているようですね。
ただ、これは自省も含めてなのですが、人事はがんばればがんばるほど、制度を作って、施策を行って、トゥーマッチになってしまいます。しかしそれは、社員から思考を奪っている、ということなんです。制度はシンプルなほうがいい。現場の力を信じるべきです。事態は刻々と変化しますが、人事ができることは限られています。全部門に通用する最大公約数のフォーメーションを組んで、どんなレベルのサポートをすればみんながいきいきと仕事ができるのか、その潮目を読むのが人事の仕事だと思っています。
現場の力を信じながらも、「丸投げ」にならないように、どうバランスを取ればいいのでしょうか。
組織をマネジメントする上で、マニュアルとガイドラインがあるとすれば、前者は既に決まっていて、そこに書いてあることしかできないけれど、後者は価値観であり、優先順位なので、ありとあらゆるパターンに対応できるはず。想像以上に現場にはドラマがあり、小宇宙があるんです。とてもマニュアル的な制度では対応できません。大切にするべき価値観を伝え、現場を尊重することで、社員の経験値が上がり、「自分たちはどんな仕事をしているのか」が明確になって、自らの言葉で語れるようになる。そうすれば、みんなが元気に働いていけるのです。
私にとって、ダイバーシティを教えてくれたのは、がんでした。「平凡な人」なんて、誰一人としていない。がんという人生の中でも大きなイベントに際して、みんな変わっていきます。がん患者の方のカウンセリングをする中で、もともと職場との関係がうまくいっていなくて、治療との両立は難しいんじゃないか、というような人が、「武田さんのアドバイス通りにやってみたら、うまくできました」と報告してくれることもあります。私はこれを「うれしい裏切り」と呼んでいます。それで、人を型にはめるのはやめることにしたんです。誰ひとり同じ人はいなくて、それぞれ個性が強くて、みんなが素晴らしい。そんな目で社内を見てみたら、「宝の山だな」と。そんな彼らがいきいきと働くための環境づくりが、人事の仕事だと思います。
がんという病を経て、武田さんご自身の価値観も変わったんですね。
切ないけれど、他の人よりも「人の死」というものに触れる機会が多いのは確かです。だからこそ、生きているうちにさまざまな人と関わり、いろいろなことをしていたい。せっかくなんだから、楽しく働きたいじゃないですか。
同じ組織で働く仲間ががんにかかった時、会社がどんな対応をするのか、多くの社員が実はしっかりと見ていると思います。そこで人事部の価値観や、社員に対するスタンスが問われます。人事として、「こんなに社員を大切にしている。だからこそ、こういう判断をする」という姿勢を見せることが大事なのではないでしょうか。
(取材は2017年7月12日、東京・豊島区のクレディ・セゾン本社にて)