進んでいない「社会貢献型」転職への対応
採用に予算が取れないベンチャー企業・NPO法人 対応しきれない紹介会社のビジネスモデル
この20年ほど、人材紹介は、その取り扱い範囲を拡大してきた。規制緩和によって紹介可能な職種が増えたことに加え、キャリア的にはまだ蓄積の少ない20代の若手人材の転職も飛躍的に増えているからだ。近年では新卒を対象にした「新卒紹介」や「外国人・留学生」の紹介などが注目されるようになってきたことも大きい。その一方で需要はあるにもかかわらず、ビジネス的には紹介が難しい業界も残っている。人材採用にまとまった予算をとれない社会問題解決型のベンチャー企業やNPO法人などだ。
キャリアある人材が求める「新たなやりがい」
「今回転職をお考えになったきっかけから、教えていただけますか?」 私の場合、転職相談はまずこの質問から始めることにしている。これまでのキャリアの確認や転職にあたっての希望をヒアリングするにしても、そもそも何がきっかけで転職を考えるようになったのかで、重点的に聞く部分が変わってくるからだ。
この日相談に来たSさんは、中堅メーカーの財務部門で実務経験を積んできた人材だった。事前に履歴書や職務経歴書を見た限り、Sさんのキャリアに期待する企業は多いことが予想できた。良い転職のお手伝いができそうだな……私はそう考えて、転職相談を楽しみにしていた。
「一番重視したいのは『やりがい』です。今の仕事の内容は十分納得しているんですが、もっと直接的に社会に貢献できる仕事をしたいという思いが強くなりまして」
ここ数年、「社会起業家」といわれる人たちが立ち上げたベンチャー企業やNPO法人などが大きな関心を集めている。社会問題を民間活力、つまりビジネスの力によって解決しようという動きは世界的にも広まっていて、日本でも実績が徐々に出始めている。
「新聞やテレビでそうした企業や法人があるのを知り、とてもやりがいがありそうだなと思ったんです。その後、自分でも本を探して勉強しました。そうすると、特にベンチャーでは、財務など管理部門の経験者が不足していることがわかり、これは自分の経験が活かせるのではないかという気がしたんです」
Sさんの話は、次第に熱がこもってきた。
「ただ、実際にどういうベンチャー企業やNPOが人材を求めているのか、個人ではなかなかわかりません。企業実態や財務内容なども調べるとなると非常に難しいですし。そこで、多くの企業と接点のある人材紹介会社にサポートをお願いしようと思ったのです」
確かに、現在正社員として在職中の人がベンチャー企業やNPO法人に転職するのは、いくら社会貢献が目的とはいっても大きなリスクを伴う決断だといえる。
「人材紹介会社の方なら、そういった企業の代表にも会う機会があるかと思いまして。トップの人柄や裏話などは、転職サイトやハローワークだけではわからない部分ですし」
一般的な企業への転職でも、企業の実態についての情報やアドバイスが欲しいからと、わざわざ人材紹介会社を利用する人も多い。さらに内情がわかりにくいベンチャー企業やNPO法人について、情報が欲しいというのはよくわかる。
「基本的なお考えはよくわかりました。ただ……」
Sさんは真剣な表情でこちらを見ている。私は言葉を選びながら続けた。
「この分野のご紹介先は、非常に限られているのが現状なんです」