転職活動でストレスを解消する人材
採用活動でネガティブ情報を提供する企業

気軽にできるから…と確実に増加中
転職活動でストレスや不安を解消する人々


転職活動をしている人たちのほとんどは、転職を真剣に考えている。しかし、中には別の目的で活動をしている人もいるようだ。たとえば、仕事での不満やモヤモヤを、転職活動をすることで解消しようという人。また、将来が不安だから、「とりあえず転職活動でもしておこう」という人。いずれも真剣ではあるのだろうが…。

会社への不満をぶちまけたら気が済んだ…

「本当にウチの幹部の頭っていうのは古いんですよ。いろいろ企画や提案を上げているんですけど、ほとんど実行されることはないんです。僕も同僚もいい加減モチベーションが下がってきましたよ…」

転職を考えた理由を聞いたところ、Kさんの説明が止まらなくなってしまった。有名な大手メーカーに勤務しているKさんは、まだ30歳になってない。しかも、会社費用で半年前まで米国に2年もMBA留学していたというのだから、世間一般の目で見れば十分に「若手エリートビジネスマン」ということになる。

「MBAコースで経営学を学んでいましたから、帰任後はそれを活かせるような経営企画部などを希望していました。ところが、今所属しているのは営業管理部。せっかく勉強したことをまるで活かせません。会社としても、安くない費用をかけて留学させているのだから、無駄になるじゃないか…という話をかなりしているのですが…」

口を挟むところがないくらいの勢いでKさんは話し続けている。普通、こうした転職相談は1時間程度ですべて終わるのだが、Kさんとの相談は転職動機を聞いただけで2時間近くが経過してしまった。

「お話は詳しく分かりました。ただ、転職先でどういったことをしたいのかが、まだKさんご自身の中で固まっていらっしゃらないような気もします。そのあたりを今後も一緒に考えていきませんか。もちろん、経営企画の仕事はご紹介させていただきますよ」

Kさんも話し疲れたのか、その日は何枚かの経営企画職の求人票を受け取って帰っていった。その後、「ご相談の続きをいかがですか…」と何度か連絡を取ろうとしたのだが、Kさんからは何の反応もなかった。

こういうケースは時折ある。おそらく、Kさんは同僚とグチるくらいしかなかった心の中のモヤモヤを誰かに話して、案外すっきりしてしまったのではないだろうか。また、渡された求人票を見て、どこに行ってもそう劇的な変化はなさそうだと感じたのかもしれない。中には、相談だけでなく、企業の面接を受けた後に、そのことに気づく人もいる。Kさんは、事態を理解するのが早い方だったのだろう。

もしもの時の受け皿がないと心配で仕方ない…

「いやいや、もう最近は精神的に参ってしまってますよ。私自身はまだ営業成績が順調なので良いのですが、将来的に保証されているものじゃないですから、それを思うととても心配で…」

Dさんは、2年ほど前にある企業に入社したのだが、最近、その会社が外資に買収されてしまったのだという。

「やはり外資は無駄を嫌いますよね。確かに、私から見てもウチの組織にはさらにスリム化できる余地はあると思うんですよ。でも、目の前で同僚がどんどん配置転換や転籍になっていくのを見たら、ちょっと神経が持たない…といいましょうか」
「それで再度転職をお考えになっているわけですか」
「ええ、そうです。少なくとも準備だけはしておかないと…と思いまして」

参考までにDさんの年収をお聞きすると、入社して2年で100万円以上アップしたらしい。

「お給料は悪くないですよね。そう考えると、あまり早まって転職しない方がいいかもしれないですよ。ただちにDさんが不必要だと言われたわけでもないんでしょう?」
「もちろんそうです。ただ、私はあまり神経が図太い方ではないので、もし何かがあった時のための受け皿がないと、精神的にとても不安なんです。それで転職活動をしたいと思っているのです」
「求人票を見て情報収集しておくだけではダメですか。いざという時にはすぐにご紹介させていただきますよ」

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Dさんはちょっと考えて言った。

「それでもいいのですが…、やはり具体的に動いておかないと不安ですね。できたら、このP社さんの面接を受けてみたいと思います。紹介していただくわけにはいきませんか?」

Dさんのケースはもちろん単なる「ひやかし」とは違うだろう。しかし、面接をする企業側は、真剣に採用を考えて面接・選考を行うのである。自分が不安だから、落ち着きたいから…という理由で転職活動をしているDさんを紹介してもいいものだろうか、という気もしながら、やはり希望があれば紹介しないわけにはいかない。

「承知しました、さっそくご紹介させていただきます」

なんとなく割り切れない気分だが、このように転職活動というガス抜きをすることでストレスや不安を解消している人たちは確かに存在しているのである。

好調企業だけが採用しているのではない
ネガティブ情報の提供こそが採用成功の秘訣かも


日本経済の好調ぶりが連日伝えられているが、すべての企業が好業績をあげているわけでもない。中には、売上が思ったほど伸びてない企業、利益が対前年で下回っている企業も多いはずである。あるいは、新興企業などの場合、投資段階だから赤字というケースもあるだろう。しかし、自分が入社する予定の企業が「赤字」「減収減益」と知ったら、人はどういう行動に出るだろうか。

先行投資で「赤字」と言われても…

「よく考えてみましたが、やはり今回のお話はなかったことにしていただければと思います。業務内容はとても魅力的なのですが、やはり私もこれから長く働いていきたいと考えていますので、将来に不安のある企業には、なかなか前向きな気持ちになることができません…」

Aさんからのメールを読みながら、「まあ仕方がないな」という気分であった。T社からAさんに内定が出たのは、ちょうど一週間ほど前だ。最初、Aさんはかなり喜んでいた。

「うれしいですね。マネジャーのポジションで採用していただけるということで、希望がかなった気分です。さっそく会社に辞表を出します」

ところが、数日後、深刻な口調でAさんから相談の電話がかかってきた。

「実は、T社に内定したことを証券会社に勤務している知人に話したところ、企業信用調査のデータを取り寄せてくれたんですよ。それを見て初めて知ったのですが、昨年、今年と赤字が続いているのですね。最終面接で社長からは、まだまだ発展途上中の企業だとは聞いていましたが、まさか赤字とは…」

「そうですか。社長も赤字と言うと、Aさんに嫌われると思ったんでしょうかね。しかし、社長が言われる通り、T社さんは今積極的な先行投資を行っていますから、決して理由のない赤字ではないと思うんですが…。一緒に会社を育ててほしいということだと思いますよ。本当に経営が苦しければ、新規でマネジャーの採用なんてしないでしょう」

「たしかにそれは分かるんですけどね…」

Aさんは「少し考えさせてほしい」と言って電話を切った。そして数日後、冒頭のメールが送られてきたのである。後で第三者から聞くネガティブ情報というのは、どうしてもマイナスの影響を及ぼしてしまう。そんな典型的な例になってしまった。

悪い情報ほど隠さないほうがいい結果に…

逆に、すべてをオープンにしてしまって成功したのがN社の事例だろう。

「N社さんは上場していますから、ネット上でも詳しい財務資料を見ることはできますよ。それによると、昨年は減収減益になっています…」

株式を公開している場合、財務情報もオープンになっているので逃げも隠れもできない。N社の面接を受けることになったCさんから、予備知識として会社の業績を知りたいと言われた時もすべてを知ってもらった方がいいだろうということになった。

「減収減益ですか…」

最初、Cさんも驚いたようだ。面接を受けようという企業が減収減益…というのは、あまり気持ちのいいものではないだろう。

「はい、減収減益ですね。規制緩和などで主力製品の値下げ競争が厳しくなってきたことが影響したそうです。ですから、N社だけの話ではなく、業界全体の問題かもしれません。でも、残業も少なく働きやすさには定評がある企業です。Cさんとしても希望の業界へ飛び込む第一歩としては良い条件だし、そのあたりも加味してお考えになって下さい」

「そうですか…」

「面接の時に、詳しい話を聞いてみたらいかがですか。将来のビジョンなども含めて、ちゃんと説明してくれると思いますよ。その上でこの会社は無理だと感じたら、お断りすればいいわけですし…」 「なるほど、分かりました。一度お話をお聞きしてみたいと思います」

Cさんはまだ20代である。面接の結果は内定だった。

「ぜひN社さんにお世話になりたいと思います。まずはこの業界での経験を積みたいので…。製品の特性から考えても、数年ですぐに会社がなくなるようなことはないでしょうしね」

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面接の時に、なぜ減収減益なのか、それに対してどのような対策を実行しているのかについて、人事担当者が詳しく説明してくれたのだそうだ。

会社規模によって違いもあるだろうが、ネガティブな情報ほど事前に公開してしまった方があとあと良いようだ。もちろん、縁がなくなるケースもあるかもしれない。しかし、隠してあとで分かるよりも挽回できる可能性ははるかに高くなるのではないだろうか。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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