職場のモヤモヤ解決図鑑【第39回】
その言い方、メンバーの成長機会を奪っていない?
自分の中のアンコンシャスバイアス
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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志田 徹(しだ とおる)
都内メーカー勤務の35才。営業主任で夏樹の上司。頼りないが根は真面目。
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児玉 夏樹(こだま なつき)
社会人3年目の25才。志田の部下。ネットとサブカルが好き。
新規事業プロジェクトのメンバー選定を、年齢や学歴を基準に進めてしまった志田さん。それを聞いたメンバーは、上司の一存で選定されたことだけではなく、彼のアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)に、働くモチベーションが削がれているようです。アンコンシャスバイアスとは何か、管理職はどのように自己の偏見と向き合うべきなのか、見ていきましょう。
アンコンシャスバイアスとは
アンコンシャスバイアスとは、「無意識」(アンコンシャス:unconscious)と「偏見」(バイアス:bias)からなる言葉で、「無意識の思い込み」や「無意識の偏見」を意味します。
周囲の意見や日々触れる情報から形成されるものであり、誰もがアンコンシャスバイアスを持っています。
「女性が身体的にハードな仕事に就くのは難しい」など、偏見と指摘されやすいものはもちろん、「女性は細やかだから事務仕事に向いている」といった、人によっては「誉め言葉」と認識している考え方も、アンコンシャスバイアスに含まれます。
このように偏ったものの見方やゆがんだ認知は、時に人材育成や組織成長にネガティブな影響を与えます。まずは「自分の中にもアンコンシャスバイアスがある」という前提に立ち、どのような偏見や認知を抱いているのか、気づくことがアンコンシャスバイアスに向き合う第一歩です。
「アンコンシャスバイアス=悪」ではない?
「アンコンシャスバイアス=全て悪」と捉えるのは、正しい見方とはいえません。
私たちは、日々多くの「無意識」に基づいて思考しています。たとえば、警察官の制服を着た人を見て「警察官である」と瞬時に連想できるのは、無意識のなせる技です。無意識の思い込みは、さまざまなシチュエーションで物事を迅速に判断する高速思考を可能にしています。
アンコンシャスバイアスとは、年齢や身体的特徴、肌の色などの「目に見えるもの」や、社会的背景、国籍、職位などの「目に見えないもの」に基づき、フィルターをかけた状態で物事を無意識に判断してしまうことです。アンコンシャスバイアスを全て無くすのではなく、組織を円滑に運営する上で妨げとなる「排除すべきバイアス」を見分けて、対応の仕方を学ぶことが重要です。
- 【参考】
- アンコンシャス・バイアス|日本の人事部
アンコンシャスバイアスがもたらす影響
アンコンシャスバイアスは、時に組織において人材の成長を妨げたり、人間関係を悪化させたりするなど、マイナスの影響をもたらします。
アンコンシャスバイアスが部下の可能性を狭める?
何気ない上司の一言や、日頃から目にする管理職の態度が、部下のモチベーションを低下させたり、成長チャンスを奪ってしまったりすることがあります。
アンコンシャスバイアスの種類 その①
自分に都合の良い「確証バイアス」
自分にとって都合の良い情報だけに目を向けるような考え方を「確証バイアス」といいます。たとえば、「残業してこそ成果が出る」と思い込んでいる上司が、定時早々に帰宅するメンバーに「さぼっている」「もっと熱心に仕事に取り組もう」と働きかけたとします。そのような職場では、短時間で効率良く成果を出そうとする業務効率化や省力化の芽を摘むことになりかねません。
アンコンシャスバイアスの種類 その②
年齢や性別の属性で判断する「パフォーマンスバイアス」
年齢、性別、国籍などの属性を、無意識に能力と結びつけることを「パフォーマンスバイアス」と呼びます。たとえば、新しいプロジェクトでは「大卒」「独身」「若手」「男性」の従業員が「優秀である」と抜てきされ、「子持ち」「女性」従業員は経験年数に限らず、業務負荷の軽い部署に異動になる。こうした職場では、女性従業員はキャリアアップを困難に感じ、モチベーションが低下してしまうでしょう。
職場の人間関係や組織の成長にも悪影響が
アンコンシャスバイアスがもたらすマイナスの影響は、個人にとどまりません。チームの士気を下げたり、事業を停滞させたりするなど、組織に大きなインパクトを与えます。
アンコンシャスバイアスの悪影響 その①
決めつけが組織を停滞させる
組織運営ではさまざまな意思決定が働いています。中には「決めつけ」が組織の停滞を招いているかもしれません。
たとえば新しいアイデアが出ても、経営層が保守的で「前例がないものは実現できない」という考え方であれば、形にはならないでしょう。「〇〇大学卒は優秀だ」などといった思い込みも、採用や評価の公平性を妨げる要因になります。
アンコンシャスバイアスの悪影響 その②
「ジェンダーバイアス」が職場の人間関係の不和に
「男性は外で働き、女性は家庭を守るものだ」など、性別で役割を分けることも無意識のバイアスです。
たとえば、子育て中の女性従業員は出張の対象から除外するが、同じく子育て中でも男性従業員には出張させている場合、本人の意向を確認せずに性別によって仕事を割り振ることで、不満がたまり、ぎすぎすした人間関係につながります。
つい口にしてしまう、アンコンシャスバイアスが表れている言葉
日常の言動にアンコンシャスバイアスは表れます。冒頭の志田さんの言動で、何が問題なのかを具体的に見てみましょう。
「子育て世代の30代は候補から外そう」
「子育て世代」という属性と、仕事の能力を無意識に結びつけています。子育て世代には責任の大きな仕事は任せられないと思い込んでおり、結果として、子育て世代の社員からキャリアを伸ばす機会を奪ってしまっています。
「有名大卒で20代、これからもっとバリバリ働いてくれるよ」
「普通は喜ぶものだけれどなあ」
学歴で優秀さが分かると思い込み、かつ大卒の若手従業員は誰もがハードに仕事をして、出世を望んでいると決めつけています。
「細かい事務作業はA型の人」
A型は几帳面だと決めつけて、仕事を割り振っています。血液型と性格を結びつけるのは、「確証バイアス」の典型的な事例です。
「酒の席によく付き合う人が出世するんだ」
自分の経験から、評価される人材を決めつけています。また、自分と同じようにお酒を好む後輩に対してつい評価が甘くなってしまう事例は、「ハロー効果」というアンコンシャス・バイアスの一種が働いています。
まずは自分の無意識の偏見に気づくこと
昨今は、同じ組織の中にさまざまな雇用形態の人がおり、副業に取り組む人もいるなど、働き方が多様化しています。「知らない世界や価値観がある」という前提に立ち、フィルターを外した視点で物事を理解する姿勢が求められます。「無意識」を変えるのは簡単ではありません。だからこそ、まずは「無意識の偏見」に気付く努力が重要と考えられます。
アンコンシャスバイアス研修は、無意識の偏見への理解を深め、自分の考え方や認知を振り返るきっかけになります。
【まとめ】
- アンコンシャスバイアス=悪ではない。誰もが持っている無意識の偏見のこと
- 学歴や年齢、性別など、日常にあるさまざまな要素がアンコンシャスバイアスにつながる
- 日頃から使っている言い方やものの考え方が、個人の成長機会を奪ったり、職場環境を悪化させてしまう可能性がある
- 「自分のなかにもアンコンシャスバイアスはある」と気づき、学び、変えていくことが重要
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自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!