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一人の時間がイノベーティブな発想を生む
あえて「孤独」を選ぶ社員が、企業にもたらす効果とは

明治大学 文学部 教授

諸富 祥彦さん

「自由」は強制しなければ生まれない

日本人には長らく、「周りと同じであること」「群れをなすこと」をよしとする風潮がありました。しかし社会の情報化やグローバル化が後押し、同調圧力が弱まってきています。その意味では、孤独力が問われる時代ともいえそうです。

同調圧力が弱まることは、多様な生き方を受け入れる社会になるということです。分かりやすいところでは結婚ですね。近年では歳の差婚や週末婚も珍しくありませんし、“結婚しない”という選択も認知されつつあります。日本の社会もそれだけ成熟したということでしょう。組織においても多様性を取り入れるのは、自然な流れではないでしょうか。

では、企業のダイバーシティ&インクルージョンが進んでいるかというと、まだまだ入口だといえます。女性、外国人、障がい者、LGBTといった属性に目がいきがちになっています。こうした多様性も、もちろん大切にすべきです。しかし本来の多様性とは属性といった表層的なものではなく、一人ひとりの個性を認めて初めて成り立つものです。つまり、内側とのつながりによる多様性です。

一人ひとりが自分の内側と深くつながれば、それぞれ違った個性が開花します。言い換えれば、多様にならざるを得ないのです。創造性高く、イノベーティブな組織となるには、企業は、個々の多様性ともっと向き合う必要があるでしょう。

一方で、「同調圧力の強い環境は、考えなくていいから楽だ」と思う人がいるもの確かです。

諸富祥彦さん(明治大学 文学部 教授)

人間は環境に大きく影響されます。感情と場所はワンセットであり、環境によって特定の感情を抱くことも珍しくありません。ですから、一人でいることがおかしくない環境をつくり出すこと、一人で集中できる場所を設けることが、まず第一歩だと思います。

そのうえである程度、一人になることを強制してもいいでしょう。特に日本人は一人で判断する、行動することに慣れていません。そうした経験や教育をほとんど受けてきていないからです。自由になるには時間がかかります。ある種、自由というのは、強制からしか生まれません。

新フロイト派のE.フロムが『自由からの逃走』で説いたように、人間は自由から与えられる孤独や責任に耐えられず、逃走してパターンにはまりたがるものです。それを避けるには、ある程度自由の強制が必要になってくるでしょう。フォーカシングも、ぜひ皆さんで始めてほしいものです。

あえて一人にならざるを得ない環境を、会社が用意することも大切なのですね。

最近は、仕事内容に応じて席の種類を選べる職場も多くなってきましたよね。その一環として、一人になれる場所を設けてもいいと思います。環境を整えなければ、孤独にはなれません。旧来型の島型オフィスは、監視に適した形とされています。そこでフォーカシングをやろうとしても、難しいでしょう。

運用も大切で、仮に一人用のスペースを設けても「あそこにいたらさぼっているように思われる」となっては意味がありません。例えばみんなが毎日1時間ずつ利用するなど、ある程度義務化すればいい。一人になることが当たり前の環境を整えることです。

一人になることの重要性は、よく分かりました。しかし個性を尊重し過ぎると、チームとしての力が損なわれる場合もあるのではないでしょうか。

確かに単独行動が過ぎるチームはよくありません。しかし現状は、個人の力をつぶしてしまっている組織も多いように思います。これでは、一緒にいる意味がありません。大切なのは、個が活きるつながりです。自己を深く認識できている人は、他者を認めることもできます。逆に「みんなと一緒がいい」という人は、自己が未成熟で、不安が強いために個性を認められません。チーム力の向上には、実は個の尊重が大事なのです。

とはいえ、常に一人でいることを推奨するつもりはありません。チームでわいわいと取り組むことで、インスパイアされることもあります。要はバランスが重要で、Implicit Knowingに触れる一人の時間と、周囲に触発されるチームの時間を行き来するダイナミズムがいい仕事につながります。個の空間と組織の空間の両方を確保し、バランスよく使いこなす設計が、リーダーには求められているといえます。

キーパーソンが語る“人と組織”

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この記事ジャンル 能力開発関連制度

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