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「インディペンデント・コントラクター」活用で企業は伸びる

インディペンデント・コントラクター

秋山 進さん

組織から独立して複数の企業と業務単位の契約を結び、採用業務や株式公開など専門性の高い仕事を期限付きで請け負う――そんな「インディペンデント・コントラクター」(IC)という新しい人材が注目を浴びています。経営の環境が大きく変わりつつある時代、企業は派遣や業務委託など非雇用の社員を積極的に採用していますが、このIC人材もうまくマネジメントして成果につなげることができないでしょうか。「ホワイトカラー職人」とも呼ばれるIC人材はアメリカでは広く活用されていて、日本でもプロフェッショナルな能力を持つICが少なくありません。「IC協会」(NPO法人)の理事長・秋山進さんが、企業がICを活用するメリットとその際のポイントについて語ります。

Profile

あきやま・すすむ●1963年奈良県生まれ。87年京都大学経済学部卒業後、リクルート入社。事業・商品開発、戦略策定などに従事。98年からインディペンデント・コントラクターとして、エンターテイメント・人材関連のトップ企業においてCEO補佐を、その後、日米合弁のIT関連企業の経営企画担当執行役員として経営戦略の立案と実施を行う。現在は、複数企業の経営企画、事業開発・マーケティング戦略の立案と実行、コンプライアンス教育、CEO補佐などを請け負っている。NPOインディペンデント・コントラクター協会理事長(http://www.npo-ic.org)。著書に『インディペンデント・コントラクター』『社長!それは「法律」問題です』(ともに共著、日本経済新聞社)『転職後、最初の1年にやるべきこと』(日本能率協会マネジメントセンター)『愛社精神ってなに?』(プレジデント社)などがある。秋山進さんが理事長を務めるインディペンデント・コントラクター協会では、ICを探す企業への人材紹介や、ICを目指す人の支援セミナー開催などを行っています。詳しくは、同協会ホームページ(http://www.npo-ic.org)へ。

必要なときに必要な分野のプロを活用する

秋山さんは、「インディペンデント・コントラクター(IC)」(→キーワード参照)という新しい働き方を日本でいちはやく実践しています。また互助団体の「IC協会」というNPO法人も設立して、セミナー開催など活動を始めていますね。秋山さんが唱える「IC」とは、具体的にはどんな働き方、就業形態ですか。

「IC」という英語を直訳すると「独立契約者」という意味になると思います。わかりやすく言葉を付け加えれば、「高い専門性を武器に独立し、複数の企業と業務単位の契約を結んで、ビジネスを遂行するプロフェッショナル」ということになるでしょうか。IC本人にとっての働き方という側面に注目すれば、「雇われない、雇わない」存在と言ってもいいでしょう。

企業の社員となるのでもなく、また自分で起業をするのでもなく、実質的に個人単位で企業と期間・業務内容を規定した契約を結んで働く「ホワイトカラー職人」。これがICです。ICは、一つの企業に縛られることなく、自分のスペシャルな能力を活用していきたい「仕事志向」の職業人にとって魅力的なワークスタイルということができます。

なぜ今、ICが注目されているのでしょうか。またICは実際にどのような領域で仕事をしていますか。

その質問については、企業の側から見て「ICを活用するメリットは何か」を考えるとわかりやすいと思います。

秋山 進さん Photo

企業にとって、IC人材の活用でメリットがある仕事というのは、「必要とされる専門性や遂行能力のレベルが高いにもかかわらず、そのためにフルタイムの正社員を抱え込んで担当させるほど密度と量がない仕事」です。社内で別の仕事を担当している正社員に兼任させたり、専門の業者に一括委託したり、そうした対応もできますが、しかし前者では満足な成果が期待できないでしょうし、後者の対応では高いコストがかかるでしょう。

もし、IC人材から適任者を探して、その仕事を任せたらどうなるでしょうか。必要な期間――その仕事に目処がつくまで、必要な部分にだけ、ICという専門人材を活用すればいいわけです。コスト面のメリットもあるし、期待の成果を得られる可能性も高くなるのではないでしょうか。

現在、IC協会には約150人の会員が登録していますが、専門にしている仕事はさまざまです。IT関連のエンジニア、知財、営業、経理、人事、広報など、多彩なジャンルのプロが集まっています。契約の形態も、いわゆる顧問契約的なものから、より突っ込んだコンサルティングを含むもの、あるいは特定業務の請負などバリエーションがあります。

プレスリリースの効果を最大限にする広報IC

ICがどのように活躍しているのか。企業はどのようにICを活用しているのか。具体例を教えてください。

たとえば、中堅メーカーが満を持して新商品を出すことになった、とします。当然、それについてプレスリリースをつくって、新聞や雑誌などメディアへPRの働きかけをすることになりますが、でも、そのためだけにフルタイムの正社員――新しい広報マンを採用することができるかというと、経営的な体力面から中堅企業では難しいのが現実でしょう。

そうしたケースでは、仕方なく総務の人などが見よう見まねでプレスリリースを作ったりメディアへ流したりしているんですね。結局、メディアはほとんど反応してくれず、せっかくの新商品は売り上げが伸びない。新商品のプレスリリースというのは、短期間で成果を上げなければならない非常にむずかしい仕事なのに、社内に適任者がいなくて何ともならないんです。

このメーカーが新商品の広報活動のノウハウを熟知したICを活用したらどうでしょう。実際にICがそのメーカーに出社するのは、月に数回の会議とプレスリリース直前の仕込みの時期ぐらいで済むでしょうから、ICに支払う契約料=コストは、フルタイム社員を新しく雇うよりもかなり抑えることができるはずです。

秋山 進さん Photo

その一方、ICが中心になって作成するプレスリリースは、今いる社員がつくるものに比べて質が高くなるはずですし、またそのICがこれまで蓄積してきたメディア担当者などとの人脈を生かせれば、新商品のテレビ・新聞などへの露出が格段に増えて、消費者にアピールする期待値も高まるはずです。

IC本人は自分の強みとする能力を十分に発揮して伸び伸びと仕事を行うことができます。それを活用する企業にとっても、これまで困難を抱えていた業務領域で、コストパフォーマンスの高い成果が上げられる。ICという働き方が、双方にとって大きなメリットをもたらすことになるし、大きな企業にとってだけでなく、中堅企業にとってもICの活用が機能する可能性があるんですね。

固定化された企業文化にICが新風を吹き込む

ちなみに、秋山さんはICとしてどのような仕事をされているのでしょう。

私の場合、企業の経営戦略全体にさまざまな角度からかかわる業務を行っています。その中でも、新規事業の立ち上げなどが得意分野と言えるでしょうか。

たとえば、ある研究開発系の企業とは、こんなお付き合いをしています。研究開発というのは、ある日ひょっこりとおもしろい技術が生まれたりするものなんですね。しかし、実際にその技術をどういうかたちで製品やサービスに落とし込めばビジネスになるか、そのアイデアがないとダメで、せっかく開発した技術が宝の持ち腐れになってしまう。そこで私の出番となるわけです(笑)。ICとして企業が開発した技術を具現化し、利益をあげるビジネスにつなげるコーディネーターみたいな仕事をすることになります。

で、どうするかというと、そのおもしろい技術について、別の外部の人――私が知っている、その分野にふさわしい、優れたセンスを持つ人に相談するんです。幸い、私はいろいろな分野の優秀な人と一緒に仕事をした経験があるので、「この技術を生かすなら、A社のBさんやC社のDさんと話をすれば、きっといい知恵が出てくるぞ」と、ピンときます。その技術が試作段階で粗の目立つものであっても大丈夫なんです。新しい価値の萌芽を未完成のものの中から引き出す。そこをうまく接続することが私の役割ということになりますね。

情報のつなぎ目にいる人がICとしてかかわることは、企業を活性化するうえでさまざまな効果がありそうです。

秋山 進さん Photo

まさにその通りで、これは私のケースに限らずIC活用のもう一つ重要な効用なんです。企業には、長年の歴史の中でさまざまな知識やノウハウ、技術などが蓄積されています。それはそれで重要な財産ではあるのですが、同時にそれらが陳腐化し、固定化し、社内の文化がよどんでいくリスクも抱え込むことになるわけです。そういう意味で、まったく違う情報回路を持つICが企業の組織に加わり、新風を吹き込む意味は大きいんですね。

「その会社の常識」が外部の目から見ると何の合理性もないということも、けっこうあるんです。ひとつの企業文化の中で、メンバーみんなが絶対にできないと思っていることが、ICの「いや、ここをちょっとこうしたらいいんじゃないですか」「よその会社ではこうやっていますよ」という一言のアドバイスで、「なんだ、簡単にできるじゃないか」という新発想につながるケースがものすごく多い。ICを使うことで、そうした経験をした企業はたくさんありますよ。

企業とICをつなぐプロデューサーが必要

ICの存在は、これまでのビジネス社会で当たり前と考えられてきた個人の仕事観、企業の人事政策を揺るがすインパクトがあるように思います。

日本の企業社会では、ある程度のキャリアを積んだ人が進んでいくコースがマネジメント職と専門職に分かれ、ややもすると前者のほうが「出世」とみなされるところがあったように思います。「仕事人」として幸福になろうとすることが、「企業組織人」として恵まれた処遇を追求することより低く見られる雰囲気とでもいいますか。

でも私には、そうした職業人生に対する価値観が多くの人の納得を得ていたと思えないんですね。本音の部分では、自分の仕事をきわめることで、会社の枠など突き抜けてどこまでも活躍の場を広げていきたい、と考える人も少なくなかったのではないでしょうか。ICというのは、まさにそうした志向をそのままかたちにした働き方なんです。

IC協会を立ち上げ、本を出したり講演をしたりして痛感するのは、とくに若い世代にIC的キャリア観に憧れを持つ人がものすごく多いということです。企業の人事担当者の方、人材ビジネスにかかわる方には、この現象の意味をよく考えていただきたいと思います。

これからICを活用してみようかと考える企業に対するアドバイスがあればお願いします。

これはICの活用に限らず、中途採用の転職者の受け入れ、業務のアウトソースなどについても言えるのですが、日本の企業はある価値を実現する仕事の全体像を設計し、その中に外部からやってきた人の力を取り込むことが下手です。要するにプロデューサーがいないんですね。

社内の人材だけで仕事を進めているときには、ある程度まで「あうんの呼吸」が通じる部分があったかもしれません。しかし、スピーディーに大きな変革を行うときなどには、どうしても外部の力が必要になる局面が出てきます。そこではまずゴールを明確にし、さらにそこに至るプロセスを明確にしたうえで、「あなたの役割はこれですよ」ということをすべての参加者に示すことが大事なんです。

秋山 進さん Photo

最悪なのは、「実績のあるICを呼んでくれば、それだけで何かが変わるのではないか」という甘い期待を持っている企業です。依頼を受けたICがいざ出かけてみると、ビジョンは共有されていない、組織体制も整っていないという企業がたまにあります。これではいくら優秀なICでも力の発揮のしようがありません。

組織を機能体として動かすには何が必要で、何が足りていないか。ICというフィルターを通してみると、多くの企業の人事・組織が抱える問題点が浮き彫りになってくるという側面もあるように思います。

(取材・構成=松田尚之、写真=塚崎智晴)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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