研修教材生成AIの衝撃
~AIが教える未来! 企業における研修教材生成の新時代が到来~
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 主席研究員 柏村 祐氏
1.研修教材作成の難しさ
企業における研修は、新入社員の基礎知識の習得から、ベテラン社員のリスキリングまで多岐にわたり、企業の成長に大きな役割を果たす。研修を通じて、社員は専門的な知識や技術を身につける。また、企業文化や組織の価値観を理解し、共有することも可能である。これらの意義をもつ研修を成功させるためにも、適切な教材は不可欠である。
研修教材作成の難しさは、実際の業務や現場のニーズを的確に捉え、それを教材に反映させなければならない点にある。教材は単なる情報の集合体ではなく、その情報をどのように伝えるか、どうすれば受講者が理解しやすいかという点も考慮しなければならない。また、時代の変化や技術の進化に合わせて教材を更新し続けなければならないため、教材作成は常に進行形である。
近年、生成AIを用いて研修教材の草案を作成できるようになってきている。研修の目的や内容に合わせた教材の草案をAIは短時間で作成することが可能だが、完璧な教材をAIのみで完結させることはまだ難しい。以下では、研修教材生成AIの現状を概観し、その価値について述べる。
2.研修教材生成のための2つのステップ
研修教材生成AIは、研修したいコンセプトを入力することで、ビジュアライズされたプレゼンテーション資料を瞬時に生成してくれる技術である。このAIの主要な目的は、教育者やトレーナーが迅速かつ効率的に高品質の教材を取得できるよう支援することである。初期の研修教材生成AIでは、生成される教材の質は必ずしも高いとはいえなかったが、近年のAI技術の進化と深層学習の進歩により、その能力は大きく向上している。現在では、プロフェッショナルによって手作業で作成されたかのような高品質の教材をAIが自動生成できるようになってきている。これにより、研修の質の向上や時間の節約が期待されている。
以下、このAIの実際の使用例を2つのテーマに基づいて示す。ここでは、現代のAI技術の代表例である「ChatGPT」と、中高年層へのキャリア支援が重要とされる現代背景を反映した「50歳からのキャリア研修」という2つのテーマを取り上げ、研修教材生成AIの実力を試してみた。
まず、生成AIによる「ChatGPT企業向け研修講座」のプロセスは、研修教材コンセプトを生成するステップと高性能な研修教材生成AIを利用するステップに大別される。1つ目の研修教材コンセプトを生成するステップで、生成AIに対して「ChatGPTの企業向け研修講座を開催します。メニューを作成ください」と入力したところ、生成AIはChatGPT企業向け研修講座のメニュー案を生成した(図表1)。
その後、2つ目のステップでは、さらに高性能な研修教材生成AIを使用する。生成AIの出力した情報をこのAIに入力し、30ページの教材を生成する設定で実行したところ、数秒でビジュアライズされた教材資料が生成された(図表2)。
生成AIによって提示されたChatGPT企業向け研修講座の教材資料は、ChatGPTの基本的な概要から具体的な利用方法、事例紹介、実践ワークショップ、そしてセキュリティや倫理に関する内容まで幅広く網羅している。特に、実践的な利用方法や事例研究を取り上げることで、参加者はChatGPTをビジネスシーンでどのように活用できるのか、具体的なイメージをもつことができる。また、実践ワークショップを設けることで、実際にChatGPTを用いた問題解決の手法を体験することができる点も評価できる。セキュリティと倫理に関するセッションは、AI技術を実際の業務に導入する上で非常に重要なテーマであるため、この点を研修内容に盛り込むことは妥当であると思われる。
次に、「50歳からのキャリア研修」のテーマについて確認すると、こちらのプロセスも、研修教材コンセプトの生成と高性能な研修教材生成AIの利用の2つのステップに大別される。1つ目の研修教材コンセプトを生成するステップでは、生成AIに対して「50歳からのキャリア研修の講座内容を作成ください」と入力したところ、生成AIは50歳からのキャリア研修の講座メニュー案を生成した(図表3)。
そして、2つ目の高性能の研修教材生成AIを利用するステップでは、生成AIの出力した情報を研修教材生成AIに入力し、20ページの教材を生成するよう指定し、実行ボタンを押したところ、数秒でビジュアライズされた教材資料が出力された(図表4)。
生成された教材資料を確認したところ、50歳以上の人が現代の労働環境で直面する課題や機会に焦点を当てて各セッションが構築されていることがわかる。特にセッション3の「デジタル時代のスキルアップ」やセッション5の「現代の労働トレンドへの対応」は、テクノロジーの進化と変化する労働環境に対応するための必要なスキルを身につけることの重要性を示している。また、セッション7の「金融リテラシーとリタイアメントプランニング」は、経済的な安定を追求するための知識やスキルを身につけることの重要性を強調している。一方で、セッション9の「個人ブランドの構築」やセッション11の「継続的な自己投資とキャリアの成長」は、自分自身の価値を最大限に活かし、キャリアを持続的に成長させるためのアプローチを提案している。これらのセッションは、50歳以上の人が新しいキャリアのステージで成功を収めるための戦略的な考え方やスキルを習得するのに役立つであろう。
3.AIを活用した研修教材の未来
以上のように、最近の技術進化により研修教材の草案やたたき台をAIが自動で生成することが可能になった。そのため、従来かかっていた時間やコストが大幅に削減されるだろう。複雑なテーマや分野に関する研修教材を作成する際、最初の段階での情報収集や構成の作成は非常に時間がかかっていた。しかし、AIの助けを借りることでこれらのプロセスが短縮される。また、従来は人がスライドを1枚1枚手作業で一から作成していた研修教材の作成工程は、時間も労力もかかるものであった。しかし、AIの活用により、そのような手間が大幅に削減される。事前にデータや情報をAIに入力するだけで、AIがそれを基に最適なスライド構成やデザインを生成し、研修の目的やターゲットに合わせて適切な教材を提供することが可能となる。このようなAIの活用は、研修教材の生産性を大幅に向上させるとともに、教材の品質や一貫性も確保することができる。
しかし、AIが生成する研修教材や資料は、会社独自のものでない一般的なもの、あるいはマニュアルのように感じる場合がある。そのため、そのままの教材を使用すると、参加者や学習者が単調で独自性のない内容だと感じるかもしれない。特に、企業の文化や特定のターゲット層に合わせてパーソナライズされた内容が求められる場面で、AIの生成する標準的な内容だけでは十分ではない。
ここで、人間の役割が重要になる。人はその企業独自の情報や経験を有しており、これらの要素を取り入れて研修教材をカスタマイズすることで、より実践的な教材を作成することが可能となる。たとえば、実際の業務経験やエピソードを取り入れることで、教材に深みやリアリティをもたせることができる。また、学習者の背景やニーズに応じて、具体的な事例や演習を追加することで、実践的な学びの場を提供することもできる。将来的には、人間とAIの連携により、より高品質で効果的な研修教材を生み出すことができると考えられる。
さらに、研修教材の作成にAIを活用すれば、教材の作成に関する担当者の負担が軽減され、よりクリエイティブな業務や高度なタスクに集中することができるようになる。
今後、この研修教材生成AI については、草案生成の精度を高めることに加え、人間が独自性や実践性を加えてカスタマイズできるような進化が求められる。このような人間との連携を取り入れることで、受講者のニーズや背景に合わせた最適な教材を提供することができるようになる。特に、実際に経験したことを講師が話すような研修教材に仕立てられれば、教材のクオリティをさらに向上させ、研修の価値をより高めることができるだろう。技術進化を活用し、AIと人間が協働する新しい研修教材の作成の形を追求することが、今後の企業研修において重要な取組みの1つになっていくと考えられる。
第一生命経済研究所は、第一生命グループの総合シンクタンクです。社名に冠する経済分野にとどまらず、金融・財政、保険・年金・社会保障から、家族・就労・消費などライフデザインに関することまで、さまざまな分野を研究領域としています。生保系シンクタンクとしての特長を生かし、長期的な視野に立って、お客さまの今と未来に寄り添う羅針盤となるよう情報発信を行っています。
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