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本当のIT革命を生き抜く
「個人尊重の組織論」とは(後編)
“やってもやらなくても変わらない”社会と組織を変えるために[前編を読む]

同志社大学 政策学部 教授

太田 肇さん

異質とホンネ――日本人はなぜチームワークができないのか

太田先生が「個人尊重の組織論」として、個人を起点に組織や社会を問い直すというユニークな研究を始められたきっかけは、何だったのでしょうか。

農村出身で、大人になるまでサラリーマンとはまったく縁がなかったんです。それでも就職し、公務員として働いていると、役所は組織の論理で動きますから、なぜこんな無駄なことをするのか、なぜ個人をもっと表に出さないのか、いろいろ疑問を持つようになりました。そういう思いを引きずって研究の道に入ったとき、組織や会社というものを思い切って個人の視点から見てみようと決意したのです。

個人と組織を対立関係と捉えるステレオタイプの組織論を超えて、私たちは、組織と個人のあるべき関係をどう考えていけばいいのでしょう。

これからは、個人と組織の“統合”が大きなテーマになります。会社に入ったら、組織の人格を取り入れて、組織の一員として振る舞うというのが伝統的な考え方でしたが、個人と組織の“統合”はそうではなく、組織の一員でありながら、市場や顧客のニーズにどう応えるかを最優先するということです。そうしないと、会社も生き残れないわけですから、組織内はバラバラなように見えても、間接的にみんなが同じベクトルで統合されている。そういうイメージですね。

また、個人と組織を統合するためにはもう一つ、組織は個人が思う存分仕事をするための“インフラ”として機能しなければなりません。従来のように個人を囲い込んだり、縛ったりするのではなくて、場を与え、支援して成果を出させる。これが、組織のこれからの役割だと思いますね。

太田先生は「海外の進出先では『日本人は本当のチームワークができない』と言われている」ともおっしゃっていますが、とても意外なご指摘です。

太田肇さん Photo

私も最初は驚きましたが、口を揃えてそういわれました。たしかに日本人が従来、得意としてきたチームワークは、ひと言でいうと“人海戦術”。同じような知識や能力を持った人たちが力を合わせて、みんなで同じ方向に引っ張る綱引きのようなものですね。単なる「がんばり」の足し算で、個人個人の貢献がはっきり表に出てこないから、逆に手抜きをして、チームにぶら下がっていてもわからない。確固たる個をもつ欧米人には、とくにそういう部分が奇異に映るのかもしれません。

では、いま求められている“本当のチームワーク”とは何かというと、それは、異質な能力や知識、経験を持ったメンバーが各自の個性や専門性を活かして、チームに貢献するというスタイルです。基本はあくまで「異質」であること。違いがなければ貢献できないし、他人と同じ方向を向いてがんばるのではチームに参加する価値がない、という考え方に現場の支持が集まっています。

では、そうした異質な個人を尊重し、組み合わせて活かす組織のリーダーは、どうあるべきでしょうか。

第一に、メンバー一人ひとりの本音に敏感であること。そしてその個人の本音と組織の目標を、うまく調和させられる人でなければならないと思います。個人の本音に敏感であるためには、社員が本音を出しやすい雰囲気を醸成することも重要でしょう。いままでの日本の組織の中では、本音を吐くのはなかなか難しかったですからね。はっきり言うと、個々人が腹の中でたとえ何を考えていようと、会社の利益のために働いて、貢献してくれさえすればいいと、リーダーがそこを割り切れれば、むしろ“できる社員”ほど、心を開いてくれると思いますよ。無駄な忠誠心とか、周囲との同調性を求められるから、なかなか本音が出せないのではないでしょうか。

それで、組織はまとまりますか?

私はまとまると思います。たとえば社員に本音を聞いて、5年後に転職しようと思っています、独立しようと思っています、という話が出てくれば、会社も「わかった、それなら5年間でこういう成果を上げてくれ、会社も支援するから」という話ができて、双方win-winの関係になれますよね。本音が表に出てくることで、むしろベクトルが合わせやすくなるんですよ。企業にも当然、本音がありますから、それと個人の本音をどうやって統合するか、率直に話し合えばいいわけです。本音に耳を傾けてあげて、お互いに話しあう姿勢を示すだけでも、社員のやる気がすごく変わってきた、という話は本当によく聞きますね。

お話をうかがって、日本の組織と個人のあり方が“正念場”を迎えていることがよくわかりました。そうした状況を踏まえた上で、太田先生ご自身の抱負をお聞かせください。

いまの日本を見るにつけ、社会も企業も、はっきり言って「やってもやらなくてもあまり変わらない」ような状況だと思っています。だから、人々のやる気が出ないのではないでしょうか。やったらやっただけの報いがある。「がんばり」ではなく、価値のある成果を出せば、自分で何かを獲得できる。こういう社会に変えていかなければいけません。そうなれば、自ずと意欲が出てくるし、むだな「がんばり」もしなくなるでしょう。そういう視点から企業だけでなく、役所、学校、地域、そういう組織を少しでも変えられたらいいなというのが私の目標ですね。

太田肇さん Photo

(2015年2月23日、東京・港区にて)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

太田 肇さん: 本当のIT革命を生き抜く「個人尊重の組織論」とは(前編) 成果より「がんばり」で評価される組織が社員をつぶす?
キーパーソンが語る“人と組織”

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神奈川県 通信 2015/04/14

チームワークの意味 同感します。

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