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となりの人事部
第30回 株式会社 ロフト

「全員がロフト社員」
――働き方の“壁”をなくしたら現場が元気になった!

人事部 人事課 課長 駒場信剛さん
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全国で54店舗(フランチャイズ含む)を展開する大手生活雑貨専門店の「ロフト」は、2008年3月から本社員・パートタイム社員・契約社員という従来の社員区分を撤廃しました。この新しい人事制度は導入当時、「非正社員の正社員化」として大いに注目され、非正規雇用の増大が社会問題化する現状に一石を投じました。それから1年――改革の真のねらいとその成果について、人事部人事課の駒場信剛さんにお話をうかがいました。
(聞き手=ライター・平林謙治)
プロフィール
駒場信剛さん プロフィール写真
駒場信剛さん
人事部 人事課 課長
こまば・のぶたか●1989年に(株)西武北海道(現札幌西武)入社。97年3月にロフトへ転籍。宇都宮ロフト店長、コンパクトロフト事業部、渋谷ロフト販売促進担当などを経て2006年9月より現職。「現場の役に立ちたい」をモットーに、職場環境の改善に力を尽くす。

1,700人採用して1,700人辞めた――パートタイム社員制度の限界

―― ロフトといえば「雑貨」。店頭にありとあらゆる生活雑貨が並ぶ様子はいつ見ても圧巻ですが、いったいどれくらいの商品が置いてあるのですか。

弊社全体でいいますと、現在はおよそ30万SKU(Stock Keeping Unit:在庫管理を行う場合の単位)。つまり絶対単品で30万種類の商品を取り扱っています。

―― それだけの数の商品を扱う売り場の第一線を、以前は主に“非正規雇用者”が担っていたわけですね。

形の上ではそういうことになります。弊社は1996年に西武百貨店から分社・独立して設立されましたが、従来は西武からの転籍組がいわゆる本社員としてマネジメント職やバイヤー職などの基幹業務に就き、各店舗の商品陳列やレジなどのフロント(売り場)業務はパートタイム社員に割り振られていました。フロントを束ねるリーダーにはパートタイム社員の中から優秀な人材を選び、月給制の契約社員として雇用。2008年3月に制度が変わるまでは、本社員、パートタイム社員、そして契約社員の三つの社員区分があり、全従業員の約8割をパートタイム社員が占めていました。

―― 流通業は一般にそうですが、人材マネジメントにおいてもやはりストックを持たず、フロー経営を追求していたということですか。

ええ、私たちの業態はとくに売り場の繁閑の差が激しいですから。年間の売り上げの大半が集中するクリスマスなんて、もう戦争です(笑)。その都度適正な人員で体制を組まないと、現場はとても回っていかない。その意味で、パートタイム社員制度は非常に有効だったわけです。

―― にもかかわらず、あえて従来の社員区分を撤廃し「ロフト社員」に統一する、新しい人事制度(図1参照)を導入されました。そこにはどんな理由があったのでしょうか。

株式会社 ロフト 駒場信剛さん

2004年のことでした。それまで右肩上がりに伸びてきた弊社の業績が、設立以来はじめて減益に陥ったのです。もちろん当時の経済環境の影響も少なくなかったのですが、私たちはそのとき、組織の外よりもむしろ内側に目を向け、問題の原因が現場の働き方や人事のあり方にもあるのではないかと考えました。要は、フロントの戦力を高めるのに、パートタイムオペレーションというものが本当に正しい方法なのかどうかを問い直したのです。

―― 単なるコストカットで利益を捻り出すのではなく、働き方の見直しという根本的な部分に打開策を見出されたところが興味深いですね。

現場に人がなかなか定着しなかったことが、最大の問題でした。06年度のデータでいうと、1年間にパートタイム社員を1,700人採って、1,700人が辞めていました。1年未満で売り場の顔ぶれがガラッと入れかわってしまい、補充もままならない。そういう時期が続きました。はじめに申し上げたように、弊社では30万SKUの商品を扱っています。それだけの数を本部のバイヤーだけでハンドリングするのは難しい。当然、現場の力が必要になります。フロントは非本社員といえども本社員並みに、業務に精通していなければなりません。そこが次々に辞めていくわけですから、人手不足に陥るのはもちろん、営業のノウハウやスキルといった暗黙知も蓄積されることなく、流出するばかり。弊社にとってそれは、まるで傷口から血が止まらないような深刻な事態でした。そうなると、現場のモチベーションも上がりません。お客様を驚かせ、楽しませるロフトらしい売り場づくりのアイデアは、気心が知れた仲間同士の、ある種のノリから生まれる部分も多分にあるのですが、頻繁に人が入れ替わったのでは、みんなで何かアイデアを考えようという気持ちも萎えてしまいます。

図1:ロフトの社員制度
図表:ロフトの社員制度

無期雇用契約でありながら短時間勤務も認める理由

―― 人が定着しないことが、働き方を見直す直接のトリガーになったわけですね。

では、辞める理由は何か。なぜロフトという職場にやりがいを感じられないのか。 退職者に対して面接調査を実施したところ、辞める理由の1位は「正社員として就職が決まった」「正社員として就職活動をする」でした。つまり多くのパートタイム社員が、先の見えない働き方に不安や不満を感じ、正社員という雇用形態を志向していることがわかったのです。

たしかに当時はパートや契約社員というだけで、雇用期間が限られ、賃金も本社員より低く抑えられていました。本社員登用試験があるにはありましたが、その道はきわめて細いものでした。全従業員約3,000名のうち、旧パートタイム社員からの登用組はわずか50名ほどですから。実際には意欲も能力もあるパートタイム社員の方はいたんですよ。私自身たくさん見てきましたし、人事担当になる前は組合にいたので、そういう人材をもっと活用すべきだと経営陣に提言したこともあります。でも、なかなか実現しなくて……。本社員と非本社員との間に「壁」があったのは事実ですね。

―― そこで制度を変えて、「壁」そのものを取っ払ってしまおうと。

図2:ロフト社員のステップアップ
図2:ロフト社員のステップアップ

はい。本社員やパートタイム社員、契約社員といった雇用形態の区分を廃し、契約期間を定めない「ロフト社員」にすべて一本化したわけです。会社はロフト社員を60歳の定年まで雇い続ける前提で、昇進・昇格の機会も平等に用意しています。意欲とスキルさえあれば、誰でもフロントからリーダー、リーダーから基幹業務へとステップアップ(図2参照)できるのです。

―― しかも「ロフト社員」制度が画期的なのは、原則無期雇用である上に、短時間勤務が可能だという点です。従来、無期雇用はいわば“正社員の特権”と見なされ、それを得るには法定労働時間である週40時間の勤務に就くのが常識とされていました。

ロフト社員は、週20時間以上(職務によっては32時間以上)であれば、個々の価値観やライフスタイルにあわせて自由に勤務時間を選ぶことができます。週5日8時間のフルタイムで働いてもいいし、週末に重点的に働く形でもいい。要は、社員が自分自身で働き方を選択して、契約できる制度にしたわけです。

―― 新制度を構想するにあたって、実際にそういったニーズをつかんでいたわけですか。

そうなんです。07年春に全従業員に対して「就労ニーズアンケート」を実施し、勤務時間についても個々の考え方を聞きました。調査前、パートタイム社員はみんなフルタイム勤務を希望しているだろうと思っていたのですが、実際はそこまでではなかった。働きたいときに働きたい、フルタイム勤務で得られるお金より自分の時間を大切にしたいと考える人も少なくないことが分かったんです。定着率を上げるためにはそうしたニーズにも対応し、多様な働き方を認める制度にしなければいけないと痛感しましたね。

―― 新制度が導入されて1年が経ちました。当初はメディアに「非正社員の正社員化」という文脈で取り上げられることが多く、とまどわれたそうですね。

株式会社 ロフト 駒場信剛さん

そもそも「正社員化」という言い方は、正社員と非正社員の区別があることを前提とした表現でしょう。私たちは逆にその区別をなくしたつもりですから、「正社員化」といわれて、違和感を覚えましたよ。同じロフトで働くのに、正規も非正規もない。あくまでも「全員がロフト社員」――これが、弊社の人事制度の根幹をなす思想なんです。

格差社会の進行や非正規切りが世間で問題となっているだけに、そうした風潮に絡めて「正社員化」と報じる意図もわからなくはありません。しかし極論すれば、私たちはけっして社会正義のためにこの人事制度をつくったわけではないのです。ひたすら自社のことを考え、試行錯誤したらこうなっただけ。現場の力をもっと引き出すためにはどうすればいいのか、その答えのひとつにすぎません。もっとも「正社員化」と大々的に報じられたおかげで、善くも悪くも採用活動には大きな反響がありましたが。

―― というと?

応募者は確実に増えましたね。しかも以前はラフな服装で、フリーター風の若者が多かったのですが、ネクタイにスーツ姿の人も応募してくるようになりました。ところがそういう応募者の場合、いきなりマネジメントやバイヤーに就けると誤解しているケースが少なくないんです。世間一般でいう「正社員」採用のイメージを持っているんですよ。だいぶ減りましたが、マスコミで新制度が紹介された当初は対応に困りました(笑)

「現場の暗黙知」は長く働き続けることでしか伝わらない

―― 人事部としては、制度改革の手ごたえをどのように感じていらっしゃいますか。

目に見える変化としては、第一に定着率の改善が挙げられます。年間で1,700人もいた退職者数が半分にまで減りました。フロントの社員のモチベーションが上がってきたという話も、各店舗のマネジャーからよく聞きますね。でも、けっして満足はしていません。雇用のしくみや働き方を変えること自体がねらいではなく、それによって現場の営業力を高め、お客様の支持を得ること、つまり企業として結果を出すことこそが改革の成果だと考えているからです。お店よりも人事が注目され、こうして私が取材を受けているようではまだまだでしょう(笑)。いまは制度の枠組みをつくり、まずは現場に着地させた段階です。

―― 旧本社員の方たちの反応はいかがですか?

そのご質問の裏には、旧本社員は“既得権”を奪われて不満や反感を募らせているだろうという想像が働いているのだと思いますが、残念ながら(笑)、そういう声が私の耳に入ってきたことはありません。もともと弊社では本社員とパートタイム社員、マネジメントと現場との一体感がすごく強かった。旧制度のもとで、働き方には壁があっても、現場で働く意識には壁も、溝もなかったのです。実際、社外の人にも「ロフトさんはどうして社員同士でそんなに仲がいいんですか」とよくいわれますよ。

―― お話をうかがっていると、風通しのいい企業風土があったからこそ、改革が実現したという側面もありそうですね。

株式会社 ロフト 駒場信剛さん

たしかにそれはあります。とにかく組織がフラットで、フランクですから。渋谷店のような大規模店の館長が第一線の若い社員と自然にコミュニケーションをとりますし、役員クラスからもぽんぽん冗談が飛んでくる。私が見る限り、弊社のマネジメント層の、現場に対するコミュニケーションはかなりマメだと思いますね。その証拠に、現場もそれをちゃんと感じているんです。先ほどの「就労ニーズアンケート」は新制度導入後も継続して実施しているのですが、その最新版を見ると、職場環境について「上役と話す機会がある」「上役が相談に乗ってくれる」「上役が明確に指示をしてくれる」などの項目で社員の評価が非常に高い。ここに、私たちの企業風土の一端がはっきりと表れています。

―― 全員が原則無期雇用となれば、今後の課題として、人材のストック化に対応した教育制度の拡充も求められるのではないでしょうか。お考えをお聞かせください。

ロフトの企業DNAをきちんと伝える人材教育の柱は、OJTをおいてほかにありません。もちろん昇格したときなどには、ステップアップ研修という形で座学形式の研修を実施することもありますが、現場の暗黙知やノウハウを継承し、組織内に蓄積させるためにはやはりOJTが不可欠でしょう。だから現場にしっかり定着して、できるだけ長く働いてほしいんです。長期雇用でしか鍛えられない能力こそがロフト社員の強みであり、競合他社にはまねのできない部分、ロフトをロフトたらしめているDNAの核なのですから。

―― 人件費の変化も気になるところです。

新制度の導入によって、たしかに1割ほどアップしました。しかし私たちはコストカットよりも、現場力を回復して収益を上げる道を選んだのですから、負担増はもとより覚悟の上です。

―― 「攻め」の戦略を貫いているわけですね。

うちはどうも“守るよりも「攻め」”の方が得意な会社のようで…。じっと耐えたり、切り詰めたりしてもうまくいかないだろうと。

―― それもロフトのDNAですか?

そうかもしれませんね(笑)

株式会社 ロフト 駒場信剛さん

(取材は2009年5月28日、東京・新宿区のロフト本部事務所にて)


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