人生100年時代をどう生きるか?
ソニーによるベテラン社員の
キャリア支援施策
「キャリア・カンバス・プログラム」
現在、多くの企業が社員のキャリア開発に取り組んでいます。しかし、その多くは若手・中堅社員を対象としたもの。ベテラン・シニア社員のキャリア支援を行っている企業は、まだ少ないのが実状です。そんな中、人生100年時代を生きる社員がライフプランを主体的に考え、実行に移せるよう、ソニーではベテラン・シニア社員のためのキャリア支援施策「キャリア・カンバス・プログラム」を開始しました。同社の創業以来の理念「自分のキャリアは自分で築く」を具現化した取り組みは、「HRアワード2018」企業人事部門 最優秀賞を受賞。その施策の内容と成果を、人事部の大塚康さん、山下弘晃さんにうかがいました。
- 大塚 康さん
- ソニー株式会社 人事センター EC人事部 統括部長
(おおつか・やすし)/1992年にソニー稲沢株式会社(現社名:ソニーグローバル&マニュファクチャリングオペレーション株式会社)へ入社。その後、ソニー株式会社オーディオ人事部、同社HQ人事部を経て、2016年よりEC人事部統括部長を務める。
- 山下 弘晃さん
- ソニーコーポレートサービス株式会社 人事センター EC人事部 キャリアサポート課 キャリアサポートマネジャー
(やました・ひろあき)/ 1983年にソニー株式会社へ入社し、1989年よりSony Electronics Inc (USA) 赴任。帰任後、ソニー株式会社情報システム部、テレビ総合企画部などを経て、2008年に人事部へ配属。2015年より、ソニーコーポレートサービス株式会社EC人事部キャリアサポート課。
残りの「10年」を、社員自身が自律的に描くために
まずは、ベテラン・シニア社員のキャリア支援に取り組まれることになった背景について、お聞かせいただけますか。
大塚:ソニーには、グループ全体で約11万7,000人の社員がいます。ソニー単体での現在の平均年齢は約43歳。新卒採用に加えて中途採用にも力を入れていますが、バブル期に入社した層がちょうど50代にさしかかっていることもあり、ベテラン社員の割合が大きくなっています。技術の進歩が激しく、またお客様の期待も多様化する中、若手・中堅社員にはこれまで以上の役割と責任を担っていただきたいのですが、一方で増えていくベテラン社員の活性化も大きなテーマです。これは、どの組織も抱えているジレンマだと思います。このようなベテラン・シニア社員に対して、会社としてサポートができないかと考えたのが、取り組みのきっかけです。
50代の社員は、どんなことに悩み、何を感じているのでしょうか。
大塚:人によって感じる悩みはさまざまですが、例えば再雇用を選ばず60歳で定年するとして、50歳の時点で残り10年。だんだん終わりが見えてくる中で、残り10年を無難に過ごすのか、新しいことにチャレンジしたいと思うのか。チャレンジするにしても、ソニーの中で別の仕事をしてみるのか、退職して全く新しい場所で再スタートをきるのか。さまざまなことを考える時期だと思います。これまでの経験がある分、20代のころのようには挑戦できないかもしれませんが、50代になっても心の中に「挑戦したい」という願望がある人は、意外に多いと思うんです。
これまでは自分や家族のためにがむしゃらに働いてきた人でも、年を重ねるうちに「後進のために何かしたい」という意識が芽生えることもあります。世の中やこれまで長い時間を過ごしてきた会社、後輩たちのために働くことに、意味を見出し始めるケースも少なくありません。
山下:人事に来る前、私はエンジニアでした。50歳のエンジニアを客観的に見ると、彼らを取り巻く技術は大きく変わり、現在は入社以降に習得した技術や、専門性ではなくポータブルスキルを活かしながら活躍されていると思います。
世の中が激しく変化する時代、10年後に何が起きるかなんて、誰にも分かりません。「人生100年時代」などといわれますが、ベテラン社員に限らず、多くの人が未来が見えないことに不安を感じています。プライベートな内容が含まれていることもあり、職場でも相談しにくく、モヤモヤした気持ちが続く、というのがリアルな50代の悩みだと思います。
そんな悩みを抱えるベテラン・シニア世代に向けて、貴社ではキャリア支援施策「キャリア・カンバス・プログラム」を開始されました。このプログラムには、どのような思いが込められているのでしょうか。
大塚:会社の利益を最大化するためではなく、このプログラムでベテラン・シニア社員の皆さんに充実したライフ・キャリアを過ごしていただきたいと思っています。経験を積んだ社員が、いきいきと働けるよう支援したいのです。「キャリア・カンバス・プログラム」のキーワードは「自律」です。会社に言われたように人生を送るのではなく、自律的にキャリアを広げられるよう、自分の道を自分で考える。100年の人生を楽しく生きるために、会社をうまく使ってほしいのです。会社がそこまで立ち入る必要はないとの意見もありましたが、せっかくソニーに入社して、長年働いてくれたのですから、彼らの人生に積極的に関わっていきたい。こうした思いから、一連の施策を導入しました。