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人材採用“ウラ”“オモテ” 
企業・求職者・人材紹介会社の「転職」三角関係

優秀だが転職には向いていないキャリアの求職者
あまり勧めたくないグレーな求人企業

「良い人材」の定義で考える

転職に向いているキャリア、向いてないキャリア

転職に成功した方から知人を紹介してもらえるのは、人材紹介会社にとっては非常にうれしいことである。提供したサービスに満足してもらい、信頼してもらった証明だからだ。「とても良い方なので、ぜひお願いします…」と紹介されれば、ぜひその期待、信頼に応えたい…とは思うのだが、実は良い人材でも転職がスムーズに進むとは限らない。転職に向いているキャリアとそうでないキャリアがあるからである。

その業界では優秀な人材なんです

「先般はありがとうございました。ところでお願いなんですが、私の知人で一人転職を考えている方がいるんですよ。ぜひ相談に乗ってあげてほしいのですが…」

無事転職が決まったKさんと電話で話していると、最後にこんなことを頼まれた。もちろん人材紹介会社としては、「喜んで!」と言いたくなる話である。しかも、Kさんは外資系企業での経理の経験が豊富な方である。そんなKさんの知人なら、当然優秀な方に違いない。会う前から期待が高まった。

「ええ、大歓迎ですよ。ぜひお待ちしていますとお伝えください…」

後日、そのKさんから紹介してもらったUさんに会った。予想通りというか、折り目正しく、それでいて人に好かれるタイプである。「履歴書を書いたのは久しぶりなので、何か不都合がありましたらご遠慮なくご指摘ください…」と言いながら差し出す履歴書なども、要点を押さえた書き方で見やすい。とても転職が初めてとは思えないくらいである。

ところが、その職務経歴書を見てすぐに気がついた。有名大学を卒業して、新卒で就職した企業でずっと勤務している。転職回数が少ないのは良いことなのだが、その働いていた企業が「有名百貨店」なのである。

「○○百貨店でご勤務されていたんですね…」 「はい、いくつかの部門を経験しましたが、一番長いのは婦人服売り場でしょうか…」

人物的にもすばらしく、キャリアもしっかりしたUさん。ぜひ転職活動のお手伝いをしたいのだが、この「百貨店のみの経験」というのは、ネックであった。というのも、百貨店と似たビジネスモデルの業界は意外に少ないからだ。若手であればポテンシャル採用でいくらでもつぶしが利くのだが、Uさんはリーダークラスである。

私は、Uさんがこれまで蓄積してきた百貨店での営業のノウハウが欲しいという企業があまりない現状を率直に説明した。なおかつ、ジョブローテーションで、いくつもの部門を経験しており、それぞれが短いのも、転職する上では強みにならない。一番長いという婦人服の部門でさえ3年ほどなのである。幸いUさんはまだ百貨店を退職してはいなかった。

「経験豊富な方の場合、どうしてもその業界の経験に特化していますよね。そのため転職に時間がかかる場合があります。じっくりいきましょう…」

私はUさんにそう声をかけた。

長期戦を覚悟、じっくり探していきましょう

Photo

「その後、Uさんには良いお仕事がありましたでしょうか…」

しばらくしてKさんからお電話をもらった。新しい会社で働きはじめているKさんだが、友人の転職の様子も気になっているらしい。もちろん、私どもの人材紹介会社を勧めた責任も感じているのだろう。

「正直まだあまりご紹介できていないんです…」

そう答える私も心苦しい。

「Kさんのような経理職などは、日系・外資系問わずどの企業でも必要とされています。しかし、百貨店での経験をダイレクトに生かせる業界は、やはり百貨店くらいしかないんですよ。残念なことに百貨店業界は企業統合などが進んでいて、あまり中途採用の募集は出ていないのです。また、Uさんご自身もできれば異業種で活躍したい、というご希望ですし…」 「そうですか…良い方なんですけどね…」

Kさんも残念そうだ。しかし、「良い人材かどうか」と「転職において有利かどうか」、あるいは「人材紹介会社で紹介しやすいかどうか」はまったく別物なのである。

良い人材とは、能力があって人柄・性格も良い方ということになるだろう。しかし、転職に有利で、特に紹介しやすい人材は、それに加えて多くの求人が出ている業界や職種の経験者であるということなのだ。

「そう考えると、最初にどういう業界や職種に就職するかというのも、とても大事なものなんですね…」

Kさんがしみじみとつぶやいた。もちろん、20代など若手のうちならば一からやり直すことも可能だから、どのような職種に就いていてもそれほど影響はないだろう。しかし、30代以降、学校を出てから10年以上たつような段階にさしかかると、どうしても「転職に向くキャリア、そうでないキャリア」の差が出てくるのは間違いない。Uさんのような百貨店も特殊だし、日系の生命保険会社での営業管理、官公庁や財団法人の仕事などもそうだろう。

「もちろん、可能性がまったくないといっているのではありません。事実、百貨店や生保でのキャリアを生かして別業界で活躍されている方もいらっしゃいます。ただ、少し長期戦になる可能性があるということなのです…」

その後、Uさんの百貨店での経験を生かせる仕事の情報が少しずつ集まるようになってきた。もちろんまだ安心はしていないが、近いうちに朗報が聞けるのではと思っている。

正直お勧めしたくない

実際にあった“微妙な企業”からの求人

人材紹介会社経由の求人情報というと、その紹介会社が自信を持ってお勧めしている優良企業の求人だ…と思っている人も多いのではないだろうか。しかし、必ずしもそうではない。人材紹介会社には、さまざまな企業からの求人情報が集まっている。人材採用に対するニーズは優良企業もそうでない企業も同じようにあるからだ。

拒否できない企業からの求人依頼

「大変ご無沙汰しています。ええ、昨年無事転職しましてね。今はその会社で採用を担当しているんですよ…」

電話をくれたFさんは、ちょうど1年前に転職活動をしていた方だった。たしか自分で探した企業に入社したはずで、どうやらその会社が中途採用を計画しているらしい。今回は、人材紹介会社を利用するということになり、採用担当のFさんは、かつて自分が利用していた何社かの人材紹介会社にも声をかけているのだという。

「そうなんですか。ありがとうございます。御社とはまだお取り引きはないようですので、こういった機会をいただけるのはうれしいですよ…」

人材紹介会社は常に求人企業、求人情報の開拓を行なっている。転職情報を探している方々により多くの選択肢を提供するのが役割だから、転職情報が多すぎて困ることはない。人材紹介会社の中には、こうした求人企業の開拓を専門に行なう営業担当を配置している会社も珍しくない。そういう意味では、Fさんのように直接声をかけてくれるケースはとてもありがたいのである。

「ぜひ一度訪問させてください。良い人材をご紹介できるよう頑張りますよ…」

数日後、私はFさんが現在勤務している企業を訪問した。家庭用の家電製品を扱うという外資系企業でオフィスの内部は広々としている。ただ、もらったパンフレットを見ても社内を見ても、製品の写真などがあまり見当たらない。普通、メーカーなら自社製品を前面に押し出しているはずなのだが…。

「ここは本社なんであまり製品は置いてないんですよ…」と、Fさんもどうも歯切れがよくない。

「カタログのようなものはないのでしょうか?」と聞いても、「今はないですね…」というばかりである。ロビーの一部に製品サンプルがあったが、古いものらしくデザインも垢抜けず、はっきりいって魅力を感じない製品である。しかも、それを訪問販売スタイルで「掃除機1台が30万円…」などの高額で販売しているという。

「なるほど…」

こういうケースは時折あるので、大体私も分かってきた。もらった募集要項を見ると、成績上位の営業員に対する豪華な表彰式や、インセンティブとしての海外研修などの写真が大きく掲載されている。どうやらFさんの会社は、会員組織をつくって新規会員を募りながら家電製品を売っていくというスタイルの事業を行っているようである。

次々と寄せられる新たな募集情報

「では、この募集要項に従って適任の方をお探ししてみます。少々お時間をいただけますでしょうか。どうもありがとうございました…」

私は求人票など一式をもらうとFさんの会社を後にした。もちろん人材を紹介するつもりはない。こうしたなんとなくあやしい企業のことを「グレー」な企業と私は呼んでいる。以前登録者だった、面識のあるFさんからの依頼なので、一応求人情報はもらったのだが…。

人材紹介会社は、基本的に企業からの求人依頼を断ることはできない。それは法律で決められている。だから、実にいろいろな企業からの求人が集まっている。Fさんのように面識のある方からの場合でなくとも、企業から依頼の電話があれば話を聞きにいくのが基本なのである。

振り返ってみれば、これまでにもさまざまな企業から求人依頼をもらっている。ある会社を訪問すると、がらんとした応接室にとびきり豪華な革張りのソファが置いてある。すでにこの段階で要注意である。出てきた総務部長という人がこれまた、妙に凄みのある人物だ。もらったパンフレットを見て、「御社の資本はこの○○社とご関係があるのですか?」と聞くと、「その件はいいでしょう…」と有無を言わさず話の流れを変えてしまう。一応求人はもらって帰るが、この段階でもう紹介は無理である。

製品やビジネスモデルに問題があるケースも多い。中には後々ニュースにもなり、幹部が逮捕されたような詐欺商法の会社からも求人をもらったことはある。

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実は、こうした「微妙な企業」(悪徳商法の会社でもつかまるまでは黒とは断定できない)ほど求人に対するニーズが高かったりする。とても熱心に、「ぜひ人材を紹介してください…」と依頼してくるのだ。

後日、Fさんからは、「今回の採用計画人数は充足しました。また次回よろしくお願いいたします」というメールをもらった。どこかの人材紹介会社が人材を紹介したのだろうか。その後、Fさんの会社とは取り引きがないので詳しいことは分からない。しかし、似たような微妙な企業からの求人依頼は、今日も人材紹介会社に寄せられているのである。



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