「人」が介在することで成功するマッチング
まず会ってもらうことの重要性 普通の会社と普通の人材を結びつける
「上場企業」「シェアナンバーワン企業」「成長企業」など、各社とも採用にあたっては自社の魅力を伝えることに懸命だ。対する人材の方も、「専門知識が豊富」「資格所持」「海外勤務経験あり」など、思い思いにキャリアをアピールしようとする。しかし一方で、そのようにアピールできるものを持っていない企業や人材も多い。そういった「普通の会社」や「普通の人材」の良さをみつけてマッチングしていくのも、人材紹介会社の大切な役割となる。まさにキャリアアドバイザーの腕の見せどころだ。
人材紹介に向かない?
「うちは採用に際して転職ナビサイトを使っていますし、ハローワークにも依頼しています。けっこう多いのは社員の紹介ですね。人材紹介はあまり実績がないんですが、絶対に使わないというわけではありません。いい人材がいたら、どんどん紹介してください。採用枠はありますから」
その日は初めて訪問したS社は、建築資材の商社。公共事業の拡大などの追い風を受けて業績は悪くないようだが、いかんせん一般消費者向けのビジネスではないので知名度は低い。しかも、建築業は昔ながらの業界でビジネス慣行に古いものが多く、「仕事がきつそう」というイメージもつきまとっているため、採用にはずっと苦戦しているのだという。
「募集されるとしたら、どんな人材がご希望でしょうか」
採用担当のT係長はさばけた人柄だ。用意してあった求人票を示しながら、てきぱきと答えてくれる。
「まず常に募集しているのは営業。若手限定で、業界経験は問いません。それと不定期ですが管理部門。今は経理だけの募集ですが、こちらも若手でお願いします」
なんとなく、オフィスの雰囲気が「昭和」っぽいS社。若手を中心に採用しようとしている方向性にも、新卒重視の名残を感じる。正直「人材紹介よりもハローワークかな」という気がしていた。しかし、世の中にはこういう雰囲気の会社がまだまだ多い。いやむしろ、これが「普通の会社」なのだろう。
それからしばらくの間、若手人材を中心に声をかけてみたのだが、なかなか「S社に応募したい」という人が出てこない状況が続いた。
そんな時に転職相談を受けたのがBさんだ。中堅メーカーで何度か部署を異動し、さまざまな経験を積んでいる。それが強みでもあり、弱みでもあるという。
「それほど大きい会社ではないので、いろいろな業務を経験してきました。生産管理、営業、人事、経理……。ジョブローテーションといえば聞こえはいいのですが、一貫性がないことが弱点ではないかと自分では思っています。ぜひ、良いアドバイスをお願いします」
30代ではあるが、どこかの部門に長くいたわけではないから、確かにスペシャリストという印象はない。人材紹介会社に求人を依頼してくるような企業の採用基準からすれば、専門性が低いということになってしまう、いわゆる「普通の人材」である。同時にBさん自身も、転職先選びには慎重だった。
「年齢を考えると失敗できないですからね」
営業ならけっこう話はあったそうだが、業界経験不問のような営業は使い捨てではないか……と警戒して応募していないのだという。かなり堅実そうな人柄も垣間見えた。