社員が笑顔で、生き生きと働くための
「キャリアカウンセリング」
法政大学キャリアデザイン学部教授・臨床心理士
宮城 まり子さん
女性のキャリアについては、上司の意識改革が不可欠
女性のキャリアの問題でも、キャリア相談室なら気軽に相談できます。例えば、育児休業の問題でも、会社としては女性のキャリアを継続して育てるために、育児休業を取ることを積極的に支援していきます。しかし、そのしわ寄せが独身の女性社員にきてしまうと不満が出てくることもあります。女性同士ならそういう点は協力し合うのかと思ったら、必ずしもそうではないようですね。
そういうとき、宮城先生はどのようなアドバイスをするのですか。
まずは、独身女性の意見を受け止めます。「確かに大変だよね」と。でも、独身女性の場合でも、この先、親の介護の問題などが出てきます。また、独身で家族のいない場合に病気になったときには、どうしたらいいのか。介護や自分が病気で休まなければならない状況というのは必ず出てきます。そういう話を彼女たちにすると、理解してくれます。育児で休んだ人たちが、今度はあなたたちを助けてくれると。すなわち、ギブ・アンド・テイク、お互いさまなのです。
こうした問題を解決するためは、どこがポイントになりますか。
上司がどれだけ女性を本気で長期的視点から育てる気があるのかでしょう。育てる気があるのなら、いろいろと手だてはあるはずです。実際、ワークシェアリングを行っている部署などもあります。その気になればできるのです。いずれにしても、女性のキャリア形成については、上司の意識改革が必要不可欠です。
その点については、むしろ、女性の管理職を増やして対応していくほうがいいのではないでしょうか。
ただし、女性管理職も一人だけだと潰れてしまうことが多いので、同時並行で何人かを登用して、育てていかなければならないと思います。
育児休業のときにも、その時から休業中のママさん社員同士の仲間作りをしていく。復職してからもそのネットワークを活用して、どのように育児と仕事を両立しているかを互いに情報交換や支援しあっていくことです。これも、1つの会社内だけでなく、他の会社とのネットワークがあってもいいのではないでしょうか。
女性の場合、メンターとなる人は他社の人でも構いません。自分の会社の中に、ワーキングマザーがいなければ、他の会社のワーキングマザーとネットワークを組めばいい。その点のノウハウは基本的に一緒ですから。
職場における、中高年の人たちについては、どのようにお考えですか。
中高年の人たちが生き生きと働いている姿を見せることが、次の世代へのいいモデルとなると思います。現在はセカンドキャリア、サードキャリアまである時代。社会の中で、他人のためにイキイキ働いている人が身近にいるということが、若い人たちを育てていくことにつながると思います。
60歳以降の人を再雇用する制度はできてきましたが、結果的に、再雇用した人をどう活かすかという具体的な施策ができていません。60歳までのキャリアをどういうところで活かし、伝承し、次の世代を育てていくかについて、人事部はもっと真剣に考えるべきでしょう。
60歳までの経験をもとに、キャリア相談に乗るといった仕事をしてもらってはどうでしょうか。
皆、それなりに自分の培ったノウハウや経験があるわけですから、各部署別にキャリア相談の担当者がいてもいいですね。傾聴などのトレーニングを積めば、メンターに近い存在になれる可能性があります。貴重な人材が活かされないのはもったいないですよね。
会社と個人の、本音の「コミュニケーションの熱量」を上げていく
ところで、キャリアの自立を支援していくと、優秀な人ほど流動化していくように思います。
キャリアを自己管理できる人を育てていくと、他の企業に行ってしまうというのが人事部の心配の種です。個人のキャリアを育てることで、その人たちが他の会社に行ってしまうことは十分あり得ます。しかし並行して、「それでもこの会社が好きで働きたい」と思えるような魅力的な会社にしていくことが大切だと考えます。それには、優秀な人が留まっていたいと思えるような魅力的な会社とは何なのかを、人事部や経営者は考えなければなりません。この点を同時に考えていかないと、何のためにキャリア研修や個人のキャリア支援を行っていくかが分からなくなってしまいます。
その結果として、いかにモチベーションを高めていくかがカギだと思います。例えば、上司はこの人にどういうチャンスを与えれば伸びるのか、どういう仕事でチャンスを与えたら自信を持てるのか、そしてフォローしながら、ポジティブなフィードバックをし、適正な評価をしていく。こうしたプロセスの中で、やりがいを与え、自己効力感を育てていくことが大切です。
時代が変わっても、褒めて育てるというのは、基本中の基本ですね。
自分のキャリア開発を大切にするなら、メンターとなる存在を持つことです。それには、会社の中の人間関係だけで仕事をしていてはダメなのです。積極的に社外に出て、自らいろいろな人と関わりを持つことです。実際、社外の人だと抱える問題などもありのまま話しやすいです。それが精神衛生上とても重要で、これが「放つ」ことにもつながっていきます。
ところで、ある会社の人事担当者の方がキャリア研修の前にこんなことを言っていました。「この研修はあなたにとって、自分の生き方と働き方を考えていただくための2日間です。万が一、あなたがこの会社から出ることが自分のキャリアとしてベストだと思ったら、それもいいですよ」と。そうすると、ここまで本気になって自分たちにキャリアを考える機会を与えてくれる何ていい会社だと、社員は思うに違いありません。
「会社を出てもいいですよ」と言われたほうが、かえって出ないものなのですね。
会社が、これからのキャリアを真剣に考えてくれているのだと分かれば、会社と個人の関係は大きく違ってきます。とにかく大切なのは、会社と個人の本音の「コミュニケーションの熱量」を上げていくこと。それがまさに、両者の信頼関係を作っていきます。お互いに信頼し合う関係が醸成されれば、相互の理解を深めることができます。たとえ意見が異なり、対立する場面があっても、乗り越えていくことができます。個と組織のコミュニケーションが大切です。
キャリア形成では、メンターの存在は大きいと考えます。皆さんもメンターとなる存在を、社内外に持つことをお勧めします。
「会社も個人も、まずはその意味での「チェンジ」が必要ということですか。本日は、お忙しい中、ありがとうございました。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。