日本企業の課題を解決する特効薬
多様な人材が活躍する時代に欠かせない
「組織開発」の学び方と実践方法
立教大学 経営学部 教授
中原 淳さん
大切なのは「型」を身につけて「破る」こと
『日本の人事部 人事白書2019』 で、人事担当者に組織開発の重要性について聞いたところ、「大変重要である」「重要である」と回答した割合は85.6%にのぼりました。一方、組織開発を担当する部門について聞くと、「組織開発部門がある」は5.0%、「担当者がいる」は2.6%にとどまり、「担当部門・担当者はいない」が44.0%、「人事部が組織開発を担当している」が32.3%、「組織開発部門はないが別の部門が担当している」が5.7%という結果となりました。「組織開発の重要性は感じているが、組織開発の専任者はいない」というのが、多くの組織における実状のようです。
以前に比べると、「組織開発」「人材開発・組織開発」と書かれた部門名の名刺を持っている方が増えている印象はありますが、実状はその数値くらいだと思います。ただ、組織開発という言葉は使っていなくても、組織開発を担っている人はいます。
先日も、ある企業の営業マネジャーに「自分が所属する組織を活性化させるために、部下と一緒に課題をアンケート調査し、対話をしながら、これからどうしていくかを決めています。私が行っていることは、組織開発でしょうか」と問われて、「間違いなく組織開発ですね」と答えました。その方は組織開発の専門家ではありませんが、自身が任されている組織の成果をあげるために、組織開発を行っているわけです。
自組織の課題を解決するための武器として使われる組織開発がいちばん問題意識が強くてパワフルだし、組織開発ができるリーダーが増えることが最も本質的だと思います。
企業の経営者や人事担当者が組織開発の必要性を感じたとき、何から始めればいいのでしょうか。
解決したい「組織の課題とは何か」をまず考えることでしょう。顕在化している問題の背後には、必ずチームが抱えるより大きな問題が隠されていますから、これまでに見えていなかった深層の問題や原因も含めて「見える化」していくことです。
組織開発を円滑に推し進めていくスキルを身につけるためには、やはり、学ぶことが欠かせません。組織開発の基礎文献を読んだり、大学の公開授業を受けたりして、「型」を知ることです。『組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす』が、組織開発の100年の歴史をひもといているのも、組織開発を行っていくうえでの「背骨」となる知識、「骨髄」となるような思想を知って欲しかったから。流行や他社の事例に惑わされずに、悩んだら立ち戻れる「型」を持っておくことが大切です。
ただ、この本の最大の皮肉は、読んで知識を得るだけでは組織開発をできるようにはならない、ということです。組織開発は、実際にやってみて成果をふりかえり、人からフィードバックをもらいながら、トライアンドエラーを繰り返すことでしか学べないのです。
実践とは「型を破る」こと。書籍や文献を読んで「型」を持っておきながらも、実践するときには、知識を意識的に捨てる。そうしなければ、刻一刻と変化する現場の状況や課題についていけません。頭のなかで考えることと、実践することは違います。ビジネスの現場では、プランどおりに進まないことがたくさんありますよね。組織開発を学び、「型」を徹底的に身につけたあとは、目の前にいるチームメンバーと共に、今この瞬間、現場で起こっていることを見つめ、即興的に対応していくマインドが大切です。
ちなみに、私の勤務する 立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コースでは、「人材開発・組織開発」の専門家を養成しています。金曜日の夜と土曜日の開講で、人材開発・組織開発のプロジェクトを実施し、「修士(経営学)」を取得できます。さらにプロフェッショナルを目指そうという方におすすめです。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。