労働力不足を乗り越え、人材の活性化を実現
「ミドル・シニアの躍進」を実現するために人事が行うべきこととは
立教大学 経営学部 助教/パーソル総合研究所 フェロー
田中 聡さん
ハイパフォーマンスを引き出す「年下上司の接し方」
逆に、活躍しているミドル・シニアにはどんな特徴があるのでしょうか。
ミドル・シニアの中で、ハイパフォーマーといわれる層は約20%。伸び悩んでいる層とは逆で、先ほど紹介した五つの行動特性をいずれも高いレベルで備えています。ただし、実践できている人が少ないことからもわかるように、決して簡単なことではありません。
特に多くの管理職が経験する役職定年以降は、必ずしも自分の強みが生かせるポストに就けるとは限りません。これまでのような仕事の裁量権も期待できません。そういう状況の中で、仕事のやりがいや意義を自分で意味づけることはなかなか難しいものです。また、ミドル・シニアは経験や知識が豊富であるがゆえに、どうしても行動の前に結果を先読みしてしまい、一歩踏み出すことに及び腰になりがちです。怖いもの知らずの若手のようにまずはやってみる、というわけにはいかない。課長クラスになると、後輩の目を気にして、失敗できないというプレッシャーもあるでしょう。
「これまでの経験を評価してほしい」という意見も理解できますが、変化の激しい現代では、過去の経験をそのまま適用できるケースはほぼありません。大事なのは経験から何を学んだか。つまり、経験を抽象化・持論化して、新たな仕事場面に応用できる学習能力が求められているのです。
そういった行動特性を身につけられる人とつけられない人では、何が異なるのでしょうか。
特に成果に大きく影響するのは、先ほどご紹介した「学習能力」に加えて、年下をはじめとする考えや意見の異なる他者ととうまくやっていく「多様性への対応力」であることがわかってきました。こうした能力は、同質な人ばかりがいる職場の共同体ではなかなか高まりません。有効なのは、社外などまったくコンテクストの異なる場所に自分を置いて、そこで自らの経験を棚卸しすることです。越境学習がミドル・シニアの学び直しに有効と言われる所以(ゆえん)です。
また、先ほどもお話ししましたが、キャリア意識の差も大きいでしょう。仕事のパフォーマンスを年代別に見ると、40代・50代でそれぞれ大きな「谷」があります。大手企業の40代は、一定の選抜が終わり、自分のキャリアの天井が見えはじめる時期。また、50代は役職定年の手前。いずれも自分の昇進・昇格の限界を認知する時期という点で共通しています。そのため、それまで昇進・昇格を軸に仕事をしてきた人ほど、出世の壁に直面したときに停滞しやすくなる。逆に仕事の意義ややりがい、専門性の向上に重きを置いてきた人は、そうした局面でも比較的しなやかに対応できることが分かっています。
越境学習やキャリア意識の持ち方にしても、やはり、人事が制度や研修で対応していくべきでしょうか。
ミドル・シニアの躍進には、人事だけでなく、職場の上司の働きかけも重要です。日本企業ではジョブローテーションが一般的なので、上司が部下のキャリアに踏み込んでいくのは構造的に難しいという面もあるでしょう。ただ、その一方で、上司だからこそできる、ミドル・シニアの躍進の促し方があることもわかってきました。
まず、40代では上司の存在はプラスにもマイナスにもあまり大きく影響していないことがわかりました。40代の仕事のパフォーマンスは仕事環境など他の要因に左右されることが多いようです。しかし、50代以降になると上司の働きかけによる影響が一気に強まります。権限を委譲して、裁量を持たせるようなマネジメントが非常に効果をあげます。特に社内の人間関係をベースにした調整業務などは、上司が先回りしてやってしまうと逆効果でパフォーマンスを落とします。年下上司が善かれと思って振る舞う年齢上の配慮も仕事の成果に負の影響を与えがちで、他の世代と平等に扱うことが重要です。
60代ではさらに異なり、傾聴よりもマネジャー自身が自己開示していった方が効果的です。この年代になるとほとんどの場合、自分より上司のほうが年下です。上司が自らのマネジメント方針などを年上の部下に積極的に伝え、時には弱みも見せて協力してほしいといったスタンスで接することが効果的です。課題はこうした「部下の世代別に異なる年下上司の接し方」についての知見が、マネジメントの現場にまだまだ生かされていないことでしょう。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。