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企業が勝ち残るための「経営品質」

財団法人 社会経済生産性本部 経営品質推進部部長

柳本 直行さん

柳本 直行さん

企業が長く存続し、発展していくためにはさまざまな要素が必要ですが、そのひとつに「経営品質」という考え方があります。社会経済生産性本部・経営品質推進部部長の柳本直行さんは「企業が勝ち残っていくために追求し続けなければならないもの」だといいます。ビジネス環境が大きく変化する中で、企業が競争力を高め、経営革新を進めていくにはどうしたらいいのでしょうか?

Profile

やなぎもと・なおゆき●1962年生まれ。85年(財)日本生産性本部入職と同時に(社)社会経済国民会議出向、研修、マーケティング研究会、セミナーの企画・運営・講師担当。94年(財)社会経済生産性本部産業経済政策室で日本経営品質賞創設事務局。以降、普及活動の総括。2004年同経営品質推進部長。

「経営品質」は企業の本当の競争力

経営品質とは、どのような考え方なのですか?

製品やサービスと同様に、経営にも品質というものがあります。経営品質とは、企業の長期的、持続的な成長のための必要条件です。効率性や個々の製品・サービスの品質のみならず、CS(顧客満足)を追求することで高めることのできる、本当の競争力といえます。こうした企業価値を高めるための経営革新を支援するのが、経営品質向上プログラムです。

主な活動には、経営革新のモデルとなる組織を表彰する「日本経営品質賞」、企業・組織が経営の仕組みを自ら評価し変革する「アセスメント基準」、経営革新を推進する「人材育成プログラム」があります。

日本経営品質賞は、1995年に創設され、今年で12年目になります。毎年12月に受賞企業が選定され、これまで23組織が表彰されています。

アセスメント基準は、あらゆる組織に共通する経営要素と、要素間の相互関連性を示したものです。この基準書に基き、各組織がセルフアセスメントを行えば、経営目的の実現に向けた戦略策定、製品サービスの企画・生産・提供、人材育成から、顧客との接点までのさまざまな活動について一貫性が確保されているか、効果的に実施できているかを検証できるようになっています。2007年度版もこの3月に発行される予定です。

人材育成プログラムは、経営革新の推進者を育成するものです。経営品質について初めて学ぶ方、さらに知識を深めて活動を推進したい方、これまでの知識や経験を再整理したい方など、目的に応じたプログラムがあります。

この経営品質向上プログラムが作られた背景には何があるのでしょう?

柳本 直行さん  財団法人 社会経済生産性本部 経営品質推進部部長

始まりはバブル崩壊後の1993年でした。それまでCSを謳っていた企業の多くが、景気が悪くなるにつれて、目先の利益追求に走るようになり、CSを軽視し始めたのです。そのような状況に疑問を抱いた大手製造業・サービス業の幹部20名が集い、CS経営のあり方について考える研究会を発足させました。

当時、アメリカで注目されていた「マルコム・ボルドリッジ国家品質賞」(略称MB賞:日本の優れた企業や製品の品質、それを生み出すプロセス、さらには「デミング賞」の効用を学び、米国産業の競争力復活をめざして、1987年に創設した国家表彰制度)を中心に研究を重ね、1994年にその活動が当財団に引き継がれると同時に、さらに多くの企業が参画するようになりました。この研究会の成果から生まれたのが、「日本経営品質賞」であり、「アセスメント基準」であり、「人材育成プログラム」なのです。

現在、各地域で多くの企業がこの考え方の下、経営革新に取り組んでいます。企業だけでなく自治体などさまざまな組織でもこの経営品質向上プログラムに取り組んで組織改革を行っています。

組織のメンバーが一つにまとまるための軸

このプログラムでは、経営革新はどのような枠組みでとらえられているのですか?

経営品質向上プログラムには、基本理念として「顧客本位」「独自能力」「社員重視」「社会との調和」の4つの要素があり、7つの重視する考え方(顧客から見たクオリティ、リーダーシップ、プロセス志向、対話による「知」の創造、スピード、パートナーシップ、フェアネス)をベースとしています。その上で、『組織プロフィール』と『8つのカテゴリー』を用いて、経営の状態を捉えていきます。

『組織プロフィール』では、組織の目指す方向性はどこかということについて問いかけます。『8つのカテゴリー』には、「経営幹部のリーダーシップ」「経営における社会的責任」「顧客・市場の理解と対応」「戦略の策定と展開」「個人と組織の能力向上」「顧客価値創造のプロセス」「情報マネジメント」「活動結果」があり、20のアセスメント項目が設定されています。

アセスメント項目は60の記述範囲に分かれます。経営を構造としてとらえようとしているために、細かいところまで設定していますが、もちろん基本理念の4要素の段階で経営の状態を見ることが出来ますし、より体系的に経営を把握したい場合は、組織プロフィールや8つのカテゴリー、20のアセスメント項目、という詳細にわたって見ることもできます。

本年度、日本経営品質賞の地方自治体部門で、経営品質向上活動に2000年から取り組んできた岩手県の滝沢村が受賞したことからもわかるように、同プログラムはどの業種・業態の組織にも適用が可能な枠組みです。

経営品質向上プログラムによる経営革新で、どのような成果が挙げられますか?

柳本 直行さん  財団法人 社会経済生産性本部 経営品質推進部部長

最大の成果は、プログラムに基づいて自分たちの活動を振り返り話し合う中で、誤った考え方や行動、さらにはその背景にある企業風土や文化に気づくことです。

また、今の組織の状態を成果から振り返ることもできます。売上、利益、キャッシュフローにまったく問題はないかという点から考え、十分でないところはどこか、製品やサービスなどの価値が顧客に十分受け入れられているか、という点を確認します。問題がある場合には、それを生み出すまでの「プロセス」が原因だと考えられますが、どこに問題があるのかは「8つのカテゴリー」から振り返ります。

自ら振り返ることを「セルフアセスメント」と考え、自分たちは社会や顧客にどのような価値を提供しているのか、よりどころはどこなのか、という原点を見直します。やり方を少しずつ変えていくことが、経営品質向上プログラムによる経営革新の考え方です。

この過程では、組織のメンバーと話しながら考えを共有して変えていくことが大切です。実際にこのプログラムに参加した企業の方たちからは、アセスメントを実施する過程で、「社内で随分考え方の違いがあることに気がついた」「必要だと考えているデータが部門ごとに違っていて、知らなかったり、取っていなかった」といった声がありました。同じ組織内でも、仕事の性質や顧客の区分は違います。メンバーの動機づけも異なりますが、一つの組織としてまとまるための軸こそ、経営品質といえるのではないでしょうか。

一人ひとりの見方が変われば組織も変わる

この十数年で、ビジネス環境は大きく変化してきましたが、求められる経営品質の考え方も変わってきているのでしょうか?

経営品質という考え方を一言で説明するならば、「企業が勝ち残っていくために追求し続けなければならないもの」といえるでしょう。瞬間的な売り上げ向上を目指すのではなく、企業が長く存続し、発展していくためには、何が必要か。きわめてシンプルに言えば、それは「よい会社」であり続けることです。

では、「よい会社」とはどういう会社なのか。それは、社会の構成員として正しい企業活動を行い、きちんと売り上げを計上し、社員が生き生きしていて、顧客から支持を得ている会社に尽きます。「よい会社」であり続けるために必要なものこそ、経営品質なのです。経営品質という考え方はある意味、普遍的なものだと言えるのではないでしょうか。

経営革新を進めるために、一番大切なものは何でしょうか?

最も大切なのは、現在の自分たちの姿を正しく認識し、そこから少しでも良くなりたいというマインドを持つことだと思います。「うちの会社は今までのやり方でいいんだ」というなら、それ以上の革新は期待できないでしょう。時には経営の中核にいる人たちさえ、組織が根本的な問題を抱えていることに気づいていない場合もあります。大きな会社ほど、メンバーが組織の目的を共有するのは難しいことです。

こういう場合こそ、企業活動の目的は何か、実現までのプロセスに何か問題はないか、振り返ることが必要になります。問題意識を持ち続けること、そして一歩でも高めていくために地道な活動を行うこと。この2点はとても大切です。一人ひとりが動かなければ、組織の状態を高める経営革新はできません。

今後、経営品質についての意識を広めていくために、どのようなことをお考えですか?

まず、大事な点を再度確認しておきますが、組織革新に向けた実践活動を行わない限り、経営品質を高めることは出来ないと思います。現状を「とりまとめる」ことで気づくこともあるでしょう。しかし、少しでもよくするには、「とりまとめる」だけではなく、これまでの見方や考え方を変えることが必要で、見えなかったものが見えてきます。その見方や考え方を提示したものが「経営品質」で、関わる一人ひとりの見方が少しずつ変わることにより、組織の状態も良くなっていくのです。

このように経営品質が高まることを、「組織の成熟度が高まる」といいます。子供が大人に成長する段階ごとに、必要な経験や知識が異なるのと同じように、組織でもその段階が子供の状態か、義務教育の状態かを正確に把握していないと、必要な知識や経験にギャップが生じてしまいます。状態にそぐわない知識や経験は、「わかったふり」や「役に立たずにむしろ悪い経験」にもなってしまいます。

そうならないためには、組織の状態を客観的に把握することが重要となります。本質的な問題をとらえる努力をせず、比較的解決が容易な問題ばかり見ていると、大きな変化に対応することが難しくなります。組織一人ひとりの小さな努力の積み重ねが経営の革新です。

一人ひとりの人生観がはっきりしていなければ、自分で物事を考えることが出来ません。私たちの求めるものは、一人ひとりが自ら考えることです。どういう目的があって、何を実現しようとしているのかについて明確な人々が、その内容を言葉や活動のように形式化して、会社の中で共有することで、経営品質が高まるのではないでしょうか。

米国では、6年前からこうした民間での活動を学校や医療に応用する動きが始まっていることから、日本でも期待が高まっています。しかし、米国との制度の違いが大きいため、そのまま応用するのは難しいと思います。日本の学校や医療の現状を把握し、適切に進めていくことが必要だと考えています。

(取材は2007年2月20日、財団法人社会経済生産性本部にて)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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