「休み方」をどう考える?――年次有給休暇を中心に
働き方改革関連法によって年5日の有給休暇取得が義務付けられたことで、「休むこと」に大きな注目が集まっています。
休み方に関しては、「企業が用意する制度」と「従業員の生活」という二つの視点から考えなければなりません。本記事は「法定休暇」「法定外休暇」に関する制度、特に「年次有給休暇」についての情報をまとめました。「オフィスを離れても休めているか」「ワーケーション」などの新しい観点もご紹介します。
「法定休暇」把握していますか?
まず、法律によって労働者の取得が認められている休暇を見ていきましょう。
- 年次有給休暇(有休)
- 生理休暇
- 産前産後休業(産休)
- 育児休業
- 介護休業
- 子の看護休暇
- 介護休暇
- 時間外労働に関する代替休暇
人事パーソンはこれらについて、きちんと理解していなければなりません。各制度に関する公的資料を以下にまとめました。労働条件を整える際にご利用ください。
◎生理休暇の規定……労働基準法第68条に規定されています
◎『育児・介護休業法のあらまし』より「法定外休暇」のさまざまなバリエーション
「法定外休暇」は、法律で付与する義務は定められていませんが、社員の福利厚生のために導入する制度です。『日本の人事部』ではこれまで、さまざまな休暇制度を解説してきました。
上記を参照することで、休暇制度に関するアイデアを蓄積できます。さらに下記の記事では、法定外休暇を整備する際にどのような点に気をつけるべきなのかを解説しています。
年次有給休暇の現状は?
有給休暇の取得率の現状
厚生労働省やエクスペディアホールディングス株式会社が行った調査では、年次有給休暇の取得率は約50%となっています。
しかし、勤怠管理システム「ジョブカン勤怠管理」を提供するDonuts株式会社の調査では、50%を大きく下回る34.95%という数値が出ています。この結果は勤怠管理システムの利用履歴に基づいていますが、アナログな調査方法だった前述の二つの調査と異なる結果となっていることが注目されます。
年次有給休暇の付与日数 | 年次有給休暇の取得日数 | 年次有給休暇の取得率 | |
就労条件総合調査 | 18.2日 | 9.3日 | 51.1% |
エクスペディアの調査 | 20日 | 10日 | 50.0% |
「ジョブカン勤怠管理」による調査 | (公開なし) | (公開なし) | 34.9% |
エクスペディアの調査を見ると、世界的に見ても日本企業の年次有給休暇の取得率は低く、取得率が低いアジア各国の中でもさらに低いという結果が出ています。
取得率の低さの原因は?
エクスペディアの調査によると、日本人が休みを取らないのは、下記のような理由が上位となりました。
「緊急時のために取っておく」という問題は、年次有給休暇以外の法定休暇や、法定外休暇などによって解決することも可能でしょう。「人手不足」や「仕事する気がないと思われたくない」という理由の裏側には、「採用に苦戦している」「職場の風通しが悪い」といった、根深い問題がありそうです。
法知識が広まる中、無策は危険?
職場の風通しとともに、もう一つ必要な要素が「法知識の有無」です。高橋(2008)は、職場の風通しのよさと法知識の有無が合わさることによって、年次有給休暇の取得を促進し、休暇の満足度を上げると示しています。
また、法知識があっても職場の風通しが悪ければ、むしろ休暇の満足度は下がってしまうとも分析されています。法知識があるからこそ、「もともと休暇が取れるはずなのに取れない」と失望してしまうからです。
働き方改革関連法の施行によって、休暇に関する法知識へのニーズが高まり、政府による広報も進む中、企業が休暇制度について何も対策をとらなければ、従業員の不満が募ることになるかもしれません。
- 採用難に対応した、人手不足の解決策を練る
- 法知識の啓発と職場風土の改善を平行して行う
年次有給休暇の基本をケーススタディとともに
2019年4月から義務付けられた有給休暇の年5日の取得。「人事のQ&A」では、年次有給休暇の付与・取得に関する質問が多数投稿されています。そこで『日本の人事部』では、「年次有給休暇」の基本を実際の「人事のQ&A」の質問とともに学べるコンテンツをご用意しました。
目次例- 2019年4月からの、有給休暇「義務化」のポイント
- 「有給休暇」を取得する理由を聞く時の注意点とは?
- パート・アルバイトの有給休暇は?~年休付与の要件となる出勤率とは~
詳細はこちらからご確認ください。
オフィスを離れても休めていますか?~持ち帰り残業と日々の「休み時間」
政府・企業が休暇・休業制度を整える究極の目的は、十分休むことによる生産性の向上です。休暇・休業中にきちんと休めなければ、その目的を達成できません。
働き方改革の施策により残業削減が推進される中、注目されているのが「仕事の持ち帰り」です。平成27年度に厚生労働省の委託によって行われた調査では、「持ち帰り仕事」がある人の割合が正社員全体で34.5%、非正社員全体で17.4%となりました。また、仕事を持ち帰る頻度が週1回程度以上である割合は、正社員・非正社員ともに4割を超えています。
もちろん、仕事だけが人を縛るのではありません。「週単位」「日単位」の余暇時間をいかに確保するのかが重要です。下記参考記事では、長時間労働や生産性、余暇活動について研究する早稲田大学 教育・総合科学学術院教授の黒田祥子さんにお話をうかがいました。
何よりも、従業員一人ひとりが自分の生産性を自律的に考えられるようになることが理想です。そのために企業は、「健康経営」の面から従業員にアプローチすることが求められます。その際、行き過ぎた管理にならないよう、マネジメントスキルを育てることも重要です。
「働く」と「休む」を再考する「ワーケーション」という言葉
ここまでは「働くこと」と「休むこと」を分けて考えてきましたが、その状況に一石を投じるような言葉があります。「ワーケーション(workation)」です。”work”と”vacation”を組み合わせた造語で、旅先で休暇を楽しみながらテレワークも行う、といった働き方を言います。2017年に行われた日本航空の「ワーケーション」制度のトライアルをきっかけに、地方自治体や旅行会社を中心に推進されています。
約10年前には「ワーク・ライフ・インテグレーション」という言葉が登場し、「働くこと」と「生活」を両立することで充実感と幸福感を得るという考え方が示されました。「ワーケーション」は10年越しに実現された「仕事と生活の統合」の一つの形ともいえるでしょう。
ただし、労働時間と賃金は密接に結びついているため、「ワーケーション」を導入するには、しっかりとルールを定めなければなりません。企業には「働くこと」と「休むこと」を柔軟に捉え、新たな「働き方」を探っていく姿勢が求められています。