目指すのは三つの“C”――Change、Challenge、Create
人財を通じて改革を推進する「レナウン元気塾」の挑戦
川口 輝裕さん(管理本部 人事部 人材開発課 課長)
篠崎 巳奈さん(管理本部 人事部 人材開発課)
なぜ“元気”塾? ネーミングに込めた改革への思い
海外展開が進めば、どこの国のどんな現場でもタフに活躍できる、まさに“元気”な人材の確保・育成が求められます。「レナウン元気塾」にかかる期待は大ですね。
川口:「レナウン元気塾」の人材開発体系では、「Change(変革)/Challenge(挑戦)/Create(感性創造)」という三つの“C”をコンセプトに多様な施策を実施しています。「元気塾」というネーミングを考えたのは、彼女(篠崎さん)なんですよ。
「元気」という言葉をあえて冠したのはなぜですか。
篠崎:何よりも人に元気がないと良い商品は創れません。商談もうまくまとまらないし、店頭でお客様を気持ちよくお迎えすることもできません。近年の当社は正直なところ、厳しい市況のせいだけでなく、先ほどお話しした企業統合や構造改革に伴う影響から、会社全体がやや元気を失くしていました。職場環境の激変によって現場に混乱や動揺が生じ、従業員のモチベーションも落ちていたのです。何とか元気を取り戻したい。沈滞気味の現場を変えたい。そんな思いを込めて「元気塾」と名付けました。
「元気塾」の主な施策と人材育成プログラムについてお聞かせください。
篠崎:研修体系は大きく社内スタッフ(総合職)を対象とするプログラムと、店頭スタッフ(販売職)向けのプログラムに分かれます。流れとしては、両者共通の新人研修から始まって、それぞれ節目となる年次にはフォロー研修を実施しています。更に社内スタッフには入社時、5年目、10年目ごとにキャリア面談を含めたキャリア形成支援研修を実施します。
一般的に「3年3割」といわれるとおり、とりわけ3年目は若手の離職率が高まりやすい時期ですから、何とかそれまでに一人前のレナウンマン、レナウンウーマンとしての基礎を確立して自信を持ってほしい。ここを乗り越えられたら、次は5年ぐらいで中堅に成長し、10年を目安に管理職を目指すというようなイメージですね。その10年の間に複数の職種・職場を経験する「ジョブローテーション制度」も、元気塾の立ち上げと同時にスタートしました。営業・企画・商品という基幹部署を異動し、1部署に3年程度。10年でいずれかの部署に配属されるしくみです。
川口:最低、2部署は経験してもらうことで、本人の潜在能力の開発を支援すると同時に、会社も本人を複数の視点から見て、より適正に評価することができるわけです。
篠崎:ジョブローテーションが導入される以前は通常の人事異動があるだけで、人材育成制度として定期的に人を異動させるようなことはしていませんでした。
川口:部署によっては、優秀な人材を手放すことに難色を示し、ジョブローテーションが滞ることありました。またメンズの担当者とレディスの担当者との相互交流もなかなか難しかったのです。だからこそ若手にはさまざまな職種を経験することで、早いうちから組織の壁を乗り越えて活躍してほしい。自分自身の視野や可能性を広げると同時に、社内をどんどん活性化させてほしいと思っています。
“組織の壁”は、歴史の長い企業の低迷要因としてよく指摘される問題ですね。
川口:当社の場合は、旧レナウンとダーバンという二つの会社の統合によって、誰もが“見えない壁”を痛感するようになりました。その壁は独自の経営路線を歩んできた双方の会社の歴史そのものだったかもしれません。
近くて遠いグループ会社の統合で“見えない壁”を痛感
どういうことですか?
川口:先ほども申し上げたように、旧レナウンとダーバンは出自が同じとはいえ、40年近くそれぞれ別の道を歩んできており、しかもかたやレディス、かたやメンズですから、仕事上の交流はまったくありませんでした。
篠崎:似ているように見えて、実際は社風が違っていましたので、双方の出身者とも「ルーツは同じ」という意識を持っている人はほとんどいなかったと思います。
川口:グループ会社ですから、たとえば社内で使われる用語などは昔からほぼ同じでした。ところが、その意味はそれぞれ独自に使われていました。いざ合併してみると、そういうことが現場のコミュニケーションに混乱を招いてしまったんです。
篠崎:当初は書類の作り方やデータの出し方ひとつとっても、メンズではこう、レディスではこう、このブランドではこうと、細かい部分ほど部署によってバラバラでした。
川口:企業統合の難しさはよく言われることですが、当社のようにグループ会社同士の場合でも、現場に見えない壁ができてしまうのかもしれませんね。
そうした組織の壁を打ち破るという意味でも、元気塾では「ジュニアボード制度」や「yeyeプロジェクト」といった社内横断的な取り組みに力を入れています。
篠崎:ジュニアボードは、若い世代の経営的視点を育てるためにスタートした制度です。公募で選ばれたメンバーがプロジェクトチームを結成、「会社力をアップさせる」という視点から経営に関する諸課題についてグループワークを重ね、最終的には経営層に向けて具体的な施策などをプレゼンするところまでもっていきます。既存ブランドのリファインやイメージキャラクターに関する企画が出てきたり、身近なところでは、効率的なコピー機の使い方などコスト削減の取り組みを提言するチームがあったり。実際に施策として採用されたものも少なくありません。男女問わず、入社3~10年前後の人材が対象です。
なるほど。「3年3割」といわれるキャリアの節目をひとつ乗り越えれば、若手にも企業経営に参画するチャンスが与えられるわけですね。
川口:20歳代で社長に向けて提案するなんて、私たちの頃だったらまずありえません。すごく貴重な機会ですよ。
篠崎:当然、論理的で説得力のあるプレゼンテーションが求められるわけですから、本人たちもすごく頑張りますよね。やり遂げれば、自信も力もすごくつくし、何よりも日常の業務や部署を超えた新しい仲間とのつながりが生まれます。若手にとっては、それがその後の社内コミュニケーションの礎となり、かけがえのない財産になっていくのではないでしょうか。東京と大阪のメンバーがチームを組んだこともありました。彼らが普段なかなか使う機会のないテレビ会議システムを、ここぞとばかりにフル活用していましたね(笑)
川口:ちなみにジュニアボード制度は現在、施策としての効果の検証段階に入っています。若手育成から次世代リーダーの選抜養成に重点を移した、本来のジュニアボードの趣旨に近い制度へのレベルアップも視野に入れて、見直しをかけているところです。