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株式会社セブン-イレブン・ジャパン:
商売の“現場”からはじまるキャリアパス

人事部 マネジャー

眞野義昭さん

全国34都道府県に12021店舗(2008年6月末現在)を展開するコンビニエンスストア「セブン-イレブン」。売上・利益・店舗数ともに業界トップを堅持し続けるその強さは、約1700人の縁の下の力持ちによって支えられている。フランチャイズ本部の「セブン-イレブン・ジャパン」(以下、セブン-イレブン)と各地の加盟店を結ぶ役割を果たす、店舗経営相談員(OFC)だ。セブン-イレブンでは、新卒・キャリア採用ともほぼ全員が、OFCとしてキャリアをスタートさせる。そこにはどんなねらいがあるのか――自らもOFCのキャリアをもつ人事部マネジャー、眞野義昭さんにお話をうかがった。 (聞き手=ライター・平林謙治)

Profile
眞野義昭さん
眞野義昭さん
株式会社セブン-イレブン・ジャパン 人事部 マネジャー

まの・よしあき●早稲田大学法学部卒。1994年に入社、入社時研修を経て店舗勤務。95年から約2年にわたって副店長、店長として勤務。入社3年目からOFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー/店舗経営相談員)に就任する。2000年に上位職であるDM(ディストリクト・マネジャー)に昇進。03年からは人事部へ異動し、マネジャーとして活躍中。

OFCになるにはオーナー夫婦の“擬似体験”が欠かせない

社員の成長を促し、戦力化していくためのキャリアパスは、営業なら営業専任、経理なら経理専任というふうに概ね職種別に設定されているのが日本企業の一般的なイメージです。しかしセブン-イレブンにおけるそれは、かなり趣が違うようですね。

眞野義昭さん

眞野:仕事柄、他社の人事部の方と話す機会も多いのですが、たとえば新卒を数千人規模で採用する大手の銀行さんなんかは、彼らをどの部署に、どう配属するかで大変苦労されているようです。学生時代の情報を集めて、適性を見きわめて……と、頭を悩ましていらっしゃる。当社には、その種の苦労はありません。配属で悩む必要がないんですよ。というのは新卒採用であれ、キャリア採用であれ、入社したほぼ全員がOFC候補として採用されるからです。OFCは、フランチャイズの加盟店に対して経営コンサルティングを行う当社の基幹職種。今年も447名が入社し、事務職を除く約9割の新人がOFCへの道を歩み出しました。現在、社員5000人のうち1700名がOFCです。フランチャイズ本部である当社の利益の源泉は、加盟店の売上以外にありません。だからこそ、いかに組織を挙げて加盟店をバックアップするか。人事制度も社員教育も、すべてのねらいはそこに収斂されるのです。OFCを軸としたキャリアパスは、セブン-イレブンのビジネスの成り立ちと分かち難く結びついています。その意味では、よそと違っていて当然でしょうね。

なるほど。全員がOFCを目指すというキャリアパスに則して、人材を採用し、教育されているわけですね。その流れをもう少し細かく教えてください。

店舗に立ち、商売の“現場”を肌で知ること――当社におけるキャリアはそこから始まります。採用したらまず3ヵ月から1年間、トレーニング部で座学などを通じて店舗勤務に必要な知識と技術を学ばせます。そのうえで全国に約600店ある直営店に配属。新入社員は副店長として勤務し、1年先輩の店長と2人だけでお店を切り盛りしなければなりません。これは、加盟店のオーナー夫婦の“擬似体験”をさせるためです。店舗経営のノウハウを実地で学ぶのはもちろんのこと、何よりもオーナー夫婦と同じ体験をさせて、その苦労と喜びを知ったうえでOFCを目指してもらいたいのです。店舗でのトレーニングは副店長職から店長職を経て約2年半、みっちりと行われます。

それが済むと、いよいよOFCとしてデビューですか?

いえいえ。その前に、OJTと座学からなる「フランチャイズ基礎トレーニング」を実行します。現場の優秀なOFCにはりつかせて、OFCの実務に必要な専門知識とノウハウを学ばせるのです。そして自分でも業務を体験して、その結果を座学で発表しあう。座学では店舗経営に不可欠な損益計算書や貸借対照表の読み方なども教えます。こういう基礎的な数字が読めないと、経営アドバイスはできませんからね。この研修が約2ヵ月。さらに数ヵ月のアシスタント期間を経たあと、晴れてOFCとしての発令が出るんです。ここまで最短で2年、新卒の平均は2年半から3年。採用した人材が利益を生み出すようになるまでに3年もかかるわけですが、逆にいえば3年かけて育てた人材でないと加盟店の役には立てない。私たちはそう考えています。そこからはOFCとして1人で平均7、8店舗を担当、各店の売上・利益を上げるべく実際に経営アドバイスをしていくことになります。入社して、OFCとして貢献できるようになるまでのこの数年間が、当社におけるキャリアの最も重要な部分といっていいでしょう。現に社長をはじめ、ほぼ全社員が同じキャリアパスを踏んでステップアップしているわけですから。

オーナーを本気にさせ、売る気にさせるOFCの役割とは

加盟店のオーナーの多くは商売のベテランです。3年間研修を積んだとしても、若いOFCがコンサルティングを行うのは大変ではありませんか?

眞野義昭さん

親子ほど歳の離れたオーナーも多いですからね。でも、商売のキャリアが長いからこそ、経験則に縛られて行き詰まっているという場合も少なくありません。OFCはそういうオーナーを説得して変えていかなきゃいけない。そのための大きな裏づけとなるのが店長勤務の経験です。たとえば夫婦2人でお店を切り盛りしていて、休みが全然とれない。そんな悩みに対して店長経験のあるOFCなら、「私も新入社員のときに2人だけでお店を経営しましたが、ちゃんと休めましたよ」と言えるわけです。オーナーにとっては目からウロコですよ(笑)。トレーニングで実際に現場を体験させることは、年長のオーナーにもアドバイスできるだけの自信の裏づけを持たせるという意味で、きわめて重要だと考えています。

独立した経営者である加盟店オーナーに対して、OFCにはいっさい命令権がないとうかがいましたが。

そのとおりです。OFCのコンサルティングは品揃えから従業員のマネジメント、経費の管理まで、店舗経営に関するあらゆる事柄におよびますが、それを実行するか否かはオーナーしだい。OFCは、どうしたらオーナーが「自ら取り組んでみよう」という気になってくれるか、たえず考えながら行動しなければなりません。オーナーを本気にさせる、売る気にさせるのがOFCの役割なんです。だから私は、採用説明会でよくこう言うんです。「机上で数字だけをいじって解決するような仕事をイメージしていたら、まったく違いますよ」と。

どういうことですか?

私自身の経験でいうと、実際のOFCは“泥臭い”仕事なんです。ときには、オーナーのプライベートな問題にまで首を突っ込まざるをえない。それが、オーナーのモチベーションを下げている原因であることも少なくないからです。なかには独身のOFCが、オーナーから夫婦関係のことで相談をもちかけられたケースもあります。ただそこまで深くオーナーの懐に入り込んで、家族同然と言ってもらえるぐらいの信頼関係が築ければ、大変だけど、やりがいも大きいと思いますね。そういう経験や人との絆がこの仕事を続ける上での財産ですから。

現場の“痛み”を知らずしてキャリアパスの先はない

OFCから先のキャリアパスについては、どうなっていますか?

あくまで当社の中心となる職種はOFCですから、全員がそれ以外のキャリアへと転じるわけではありませんが、それでも約1700名のOFCのうち、年間100名程度に他部署への発令が出ています。100人中40人と最も人数が多いのが、OFCの上司にあたるDM(ディストリクト・マネージャー)。担当地区の責任者としてOFCをサポートする職種です。次に多いのが新規加盟店の開拓を推進するRFC(リクルート・フィールド・カウンセラー)で30名。以下、独自商品の開発を手がけるMD(マーチャンダイザー)が15名、その他の部署が15名となっています。キャリアパスと連動した施策としては、2002年から「立候補制度」を導入しました。行きたい部署、やってみたい仕事の希望を直属の上司を通さずに自己アピールしてもらうしくみで、これまでに累計で約200名の社員がこの制度を使って希望する職種に進んでいます。

図:セブン-イレブンの職種とそれぞれの関係 (セブン-イレブン・ジャパン ホームページより)
セブン-イレブンの職種とそれぞれの関係 (セブン-イレブン・ジャパン ホームページより)

眞野さんは人事部に異動されたわけですが、OFC以降どんな職種に進んでも、それまでに培った「現場」の経験は活きてくるものでしょうか?

活きてくるというよりも、私は個人的に、それが私たちの仕事のすべてだと思っています。現場の経験、いや、現場の「痛み」といったほうが近いでしょうか。お店という販売の現場に携わるオーナーの痛みや苦しみを、組織の全部門が共有できなければ、セブン-イレブンのビジネスは成立しない。だから全員が店長経験を経て、OFCになるというキャリアパスを設定しているのです。仮に店舗経営の苦労を知らない人が商品開発をしたりすると、「いい商品さえつくれば売れるんだ」という独善に陥り、社内にあつれきやセクショナリズムが生まれかねません。OFCとOFCを支えるスタッフ部門との間に共通の現場体験があるからこそ、社内の価値観が一致し、共通の会話ができるのです。幸いわれわれ人事部も、現場の社員から“敵視”はされていないようです。もちろん味方と思ってくれているかどうかはわかりませんが(笑)。

「5000分の1」ではなく「1×5000」の気概を持ってほしい

社内の価値観の一致といえば、セブン-イレブンでは2週に1回、本部で行うFC会議に全国のOFC1700名が集まり、情報の共有化を図っています。若いOFCにとっては、このFC会議が重要なOJTの場にもなっているようですね。

OJTとして重要なポイントは大きく2つあります。一つは午前中の全体会議で経営トップ(会長、社長)の話を直接聞けること。他社ではせいぜい年に1回、年頭の朝礼のときぐらいでしょう。当社は2週に1回、ここで会社の方向性と自分の方向性をすりあわせ、価値観の共有化を徹底しています。自分がOFCだった頃は1週間を越えると仕事にマンネリを感じたものですが、それをリセットしてくれる機会でもありました。FC会議の後、午後は各ゾーン・各地区に分かれてミーティングを開き、より地域に密着した情報交換を実施します。もう一つOJTとして重要なのは、こうした会議においてそれぞれの社員に発表する機会が頻繁に与えられること。これも当社の大きな特徴です。発表のために考えをまとめたり、資料をつくったりすると、自分の考え方のズレに気づかされる。そのズレをくりかえし修正していくことで、正しい価値観や判断力が磨かれるのです。それに人事の目から見ると、発表することによって、その人の能力が透けて見えるということもありますね。その意味でもこうした会議での発表はまさにOJTそのものだといえるでしょう。

OFCとして、そしてセブン-イレブンの社員として求められる条件とは?

眞野義昭さん

オフィシャルには、「コミュニケーション能力」や「変化に対応できる力」などを求める人材像として挙げていますが、もっと端的にいうとしたら「元気で素直で誠実」。私個人は、これに尽きると思っています。「元気」は言うまでもありませんね。「素直」は物事の原因を他人ではなく、自分に求めることができる姿勢。うまくいかないときにお店のせいだと思ったら、事態は何一つ変わらない。とりあえず自分に矢印を向けてみる、それが私の考える素直さです。「誠実」とは? そうですねえ……ときに恥もプライドも捨てて、相手の懐に飛び込める覚悟でしょうか。

最後に、ご自身がセブン-イレブンで歩んでこられた14年のキャリアを振り返って、一言お願いします。

私はOFCを3年しか経験していません。その後DM職を3年勤め、人事に異動、4年が経ちました。当社の一般的なキャリアパスに比べると、OFCの期間が少し短い。その分経験不足で苦労している面は少なからずありますね。ただ人事部に来て、私はあることに気づいたのです。OFCとして現場にいるときは、自分のことを社員5000人の中の1人、単なる「5000分の1」に過ぎないと思っていました。私に限らず、現場の社員はみんなそういう感覚でしょう。しかし人事に来て、社員全体を見渡してみると、あらためて本当は「1×5000」なんだと確信したのです。でも、みんなはそう思っていない。そう思わせるためにどうするか。この春採用した447人の新入社員の中から、未来の社長が出るかもしれない。役員も出るかもしれない。人事にいるとそういうふうに見えるけれど、おそらく一人ひとりはそんなことを思ってもいないでしょう。しかし当社は、幸いみんなが聞く耳を持っていますから、自分がこうしようと思って動き出した瞬間から、会社は確実に変わり始めるはずです。人事の立場に立って、はじめて個人と組織の関係がそういうふうに見えてきました。現場で働く若いOFCや研修中の店長にも、「1×5000」であることをわかってもらいたい。それが、会社の将来につながる私自身のやりがいです。

取材を終えて 平林謙治

とにかく「人が好き」という印象を強く受けた。自分のOFC時代を振り返って「普通よりも短くて経験不足」と謙遜するが、実際にはかなり濃密な3年間だったようだ。担当した加盟店オーナーとの交流は深く、波乱万丈のエピソードもうかがったが、本稿ではあえて記さずにおく。人事という立場から現場を支え、セブン-イレブンのさらなる飛躍と革新に貢献したいという熱い意気込みが伝わってくるインタビューだった。
(取材は2008年6月18日、東京・千代田区のセブン-イレブン・ジャパン本社にて)

ひらばやし・けんじ●大阪府高槻市生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、外資系広告代理店勤務などを経て、フリーランスのライターとして活動を開始。ビジネス、雇用問題、ものづくりなどをテーマにインタビューや取材記事を執筆するかたわら、書籍の企画編集構成も手がける。主なタイトル(共著/部分執筆)に『10年後の日本』(文藝春秋)、『10年後のあなた』(同)などがある。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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