人事部だけでなく社員全員が参加して現状を変えていく
働き方改革を自分ごと化するオカムラの「WiL-BE」
株式会社オカムラ 執行役員 コーポレート担当 CHRO(人事部・人財開発部・お客様相談室・サステナビリティ推進部)
佐藤喜一さん
働き方改革は、誰が旗振り役を担うべきなのか? そう問われれば多くの人は「人事だ」と答えるでしょう。しかし現実には、人事が知恵を振り絞って制度を導入しても、現場ではうまく運用されず機能しないというケースが少なくありません。こうした壁にぶつかったとき、参考にしたいのが株式会社オカムラの働き方改革の取り組み「WiL-BE(ウィル・ビー)」です。従来の施策を再整理し、経営トップが推進リーダーとなって、「Work in Life」をコンセプトに部署を超えた活動を進めています。なぜオカムラではこの大規模な取り組みを実践できているのでしょうか。執行役員 コーポレート担当 CHRO・佐藤喜一さんへのインタビューを通して、同社の働き方改革の現在地と、ウィズコロナ時代に向けた展望をうかがいました。
- 佐藤喜一さん
- 株式会社オカムラ 執行役員 コーポレート担当 CHRO(人事部・人財開発部・お客様相談室・サステナビリティ推進部)
さとう・よしかず/1982年、株式会社岡村製作所(現:オカムラ)経営情報システム研究所に入社。経営企画部、1999年労働組合中央執行委員長、2009年総務部長を経て、2015年人事部長に。定年延長・賃金制度などの人事制度改革、採用(新卒・キャリア)、労務、健康経営推進、D&I、働き方改革の推進などを担当。2019年からCHROとして人財開発も含めた戦略人事に従事する。
社員に自らの生き方を考えてもらい、会社はそれぞれの生き方を受容し実現させていく
貴社は働き方改革の根幹をなすメッセージとして「Work in Life」を提唱されています。このコンセプトが生まれた背景をお聞かせいただけますか。
まずは「オカムラ」という現社名に至った部分からお話できればと思います。当社は1945(昭和20)年に創業して、2015年に70周年を迎えました。ちょうどその頃から、社内では「“岡村製作所”という社名は現在の事業に合っているのだろうか」という議論が起きてきました。当社は、ものづくりからスタートし、業種としては製造業に位置づけられていますが、現在の事業は「オフィス環境」「商環境」「物流システム」の3分野におけるソリューション提案をメインとしています。このビジネススタイルに“製作所”は、マッチしなくなったのでは、という声があったんですね。
そのような議論を経て、2018年に社名を以前からブランド名として定着していたカタカナの“オカムラ”に変えました。あわせて「豊かな発想と確かな品質で、人が集う環境づくりを通して、社会に貢献する。」というミッションを定め、「人を想い、場を創る。」というコーポレートメッセージも発表しました。これまでのモノ売りからコト売りへと歩みを進め、お客さまには新しい価値を提供していくのだという意志を込めました。当社が働き方改革をお客さまに提案する以上、まずは私たち自身が働き方を変えていかなければなりません。そのような背景から「WiL-BE」の活動が生まれました。
働き方を考えるにあたり、従来は「ワーク・ライフ・バランス」という言葉がよく聞かれました。仕事とプライベートのバランスを取ることが大切だという考えですが、仕事の時間は人生の大部分を占めるものであり、家族や友人、趣味、休みなどの時間と同じように人生の大切な一部分です。あえてそれらを分ける必要があるのだろうか、という疑問にぶつかりました。仕事を一生懸命やるのもその人の人生だし、逆もまた然りです。一人ひとりが自身の働き方をデザインしていく時代には、社員へ仕事とプライベートのバランスを取ることを一律に求めていくのではなく、自らの生き方そのものを考えてもらい、会社はそれぞれの生き方を受容し、実現できる環境であることが大切です。こうした考え方が「Work in Life」のコンセプトにつながっていきました。
直近では当社も、新型コロナウイルスの影響を大きく受けました。好むと好まざるとにかかわらず強制的に在宅勤務へ転換することになりました。家で仕事をしていると、ワークとライフは混在しているものだということを強く感じますよね。今後はますます、Work in Lifeの考え方が大切になっていくのではないでしょうか。
各部門の管理職任せにはしない「1on1」の取り組み
働き方改革「WiL-BE」では、どのような取り組みを行われているのでしょうか。
社員の健康増進をベースに置いた上で、四つのアクションを進めています。
一つ目は、一人ひとりの成長に向けた「Human Development」。働き方改革の中核となる人材育成とモチベーション向上のための施策です。人財開発部が中心となり、1on1の場を通じてコニュミケーションを促進し、自らが主体的に学ぶ姿勢を促しています。
多くの企業で現在1on1を重視していると思います。当社の場合、かつては部門別に見ると上司と部下との面談をしっかりできているところもあればできていないところもありました。それを100%へ持っていくため、各部門の管理職任せにするのではなく、人財開発部が主導して1on1を促進しています。この取り組みは、一人ひとりと向き合うことの重要性を管理職へ改めて伝えることにもつながっています。
人材育成とモチベーション向上という観点では、新入社員への向き合い方も非常に重要です。昔から「3年目までに30%が離職する」と言われるように、特に入社3年間は大切な時期だと位置づけています。この期間は先輩社員をインストラクターに任命し、一人ひとりの新入社員に付いてもらうことやフォローアップ面談を実施することで離職率低下につなげています。
新入社員については、今年は新型コロナウイルスの影響で対応に苦慮している企業も多いかと思います。
そうですね。当社では、緊急事態宣言下では全社員が原則、在宅勤務としていたため、新入社員にも5月中旬までリモートで研修を行っていました。しかし若い世代はZoomなどをすぐに使いこなし、リモート研修にも特に抵抗感はない様子でしたね。5月中旬以降は緊急事態宣言解除の動きに合わせて、出勤日数を制限しながら対面での研修に徐々に変えています。
また、多くの社員が在宅勤務期間中に、以前から用意していたeラーニングを受講しました。いつでもどこでも、好きなときに学べる環境を作っていくことが重要だと再認識しましたね。