株式会社 学研ホールディングス
次世代を担う社員の成長と挑戦を支援
――学研の「経営人財」育成に向けた取り組みとは
“重要度は高いが緊急性は低い”課題を探して解決
その数少ない女性経営人財の一人である小袋さんはジュニアボードの第1期生。この施策が輩出した初代の役員(学研パブリッシング取締役)として活躍されています。
小袋:選ばれるまでは、ジュニアボードという言葉さえ知りませんでした。研修みたいなものだろうと思って、最初のレクチャーを受けてみたら、そうじゃないと。自分たちで施策を作って実行し、会社に対してきちんと数字で示せる定量的な結果を出しなさいといわれたのが、やはり印象的でした。
小林:彼女たちの時は初めてでしたから、みんなとまどっていましたよ。エース級の社員はただでさえ忙しい。そこへいきなり「5年後には経営を担うんですよ」と言われて、ジュニアボードの活動が加わるわけでしょう。もちろん通常業務はそのままですからね。
前例もない中、小袋さんはどのようにして課題を探し、解決に取り組んだのですか。
小袋:ジュニアボードでは、各社から選ばれた三人がチームを組んで、自社の経営課題の解決にあたります。課題を選ぶ際、「重要度は高いが緊急性は低い」という条件とともに私たちが意識したのは、1年で成果が出せるか、出しやすいかということでした。単なる研修とは目的が違う以上、結果をきちんと出すことが重要だと考えたからです。
私たちが選んだテーマは自社の人事制度の改革でした。弊社は出版の事業会社ですから、社員はみんな本づくりが大好きでモノづくりが大好き。だけどマネジメントには興味がないという人がわりと多いんです。それなのに、当時はマネジメントのラインしかなかったので、例えば編集者としてスキルを磨き続けられるような専門職のコースが作れないかと、適材適所を実現するための新しい人事制度の構築を提案し、トップの了承を取り付けました。当時はようやく黒字転換したばかりで、経営の喫緊の課題は、人財より目先の数字をどうするかにあったんです。しかし弊社の場合、利益を生むのは人であり、人財しか経営資源はありません。そこに経営陣が手をつけられないのなら、私たちが切り込むべきではないかという結論に至ったのです。
小林:実はいまグループ全体でも人事制度改革を進めていて、今秋から複線型人事システムの導入を予定しています。そのきっかけとなったのが、キャリアパスの拡充を自社の経営課題として抽出し解決した、小袋たちの取り組みでした。
個々のジュニアボードの成果が、自社の経営課題を解決するだけにとどまらず、学研グループ全体に広がっているわけですね。
小林:そうです。各チームは自社の経営陣だけでなく、グループ全社のトップの前で、こういう課題に取り組みますと約束しますし、最終的な成果発表もグループ全体に向けて行います。途中の進捗報告では、チーム同士が互いの活動について意見を述べ合い、切磋琢磨します。“タテ・ヨコ・ナナメ”のチェックが働くので、それぞれが自社の課題に取り組みながら、出した成果はグループ全体の財産として共有されていくわけです。あのチームが行ったことを私たちもやってみよう、という具合に波及して広がっていくのが弊社グループのジュニアボードの強みかもしれません。また、そうした強みを活かすためにも、次代を担う経営層候補には自社だけでなく、グループ全体を俯瞰(ふかん)できる視野の広さとリーダーとしての視座の高さを求めています。
1年間の取り組みの中で、小袋さんにはどのような学びの経験がありましたか。
小袋:同じグループなのに、他社の業務内容から何から、初めて知ることがたくさんありました。この会社はこういう事業をしていて、だからこんなことが経営課題になるのかと。例えば同じ出版事業でも、雑誌が中心の学研パブリッシングと、辞書・参考書・児童書が中心の学研教育出版とでは営業面ひとつとっても抱える問題が違う。そういうことがすごく勉強になりましたし、横の人脈も広がりました。多様な事業を展開しているからこそのメリットでしょう。
また施策を練り上げて実践するにあたり、周囲の人をいかに巻き込んで動くかを、実地で体験し学べたことも、私には大きかったですね。多くの社員にインタビューを行ったり、社員全員にアンケートをとったりしたのですが、私たち三人だけでは当然手に負えません。一人ひとり説得して協力者を集め、かかる時間やコストなどを明確にした上でグループ各社の経営陣に了解を取り付けていきました。そうした経験がいまの仕事にも役立っていると実感しています。