人はいくつになっても成長できる――
トヨタファイナンスが取り組む“本気”のシニア活用とは
トップと人事部の“本気”が人を変え、組織を変える
ここまでの取り組みの成果をどう評価していますか。
矢田:いまはまだ初期段階で、一人ひとりの価値観を変えることやシニアに求められる役割への理解を深めることに重点を置いているのですが、そういう部分が実際にどの程度浸透しているかをインタビューで調べてみました。所属長を対象に部下のシニア社員のマインドが高いか、普通か、低いかを聞いたところ、施策を始める前は「高い」の割合が35%程度だったのですが、ここ最近は50%ぐらいまで上がってきています。また、シニア社員に自分の内面を深く掘り下げる作業の成果について聞いてみると、ワークショップを行った直後には自分の本質や課題を認識できたと答えた人は1~2割でしたが、その後、職場での「対話」を継続する中で、いまでは6割ぐらいのシニアが分かったと答えています。
人事として、シニア社員の変化や組織全体の活性化を実感した、具体的なエピソードがあればお聞かせください。
鈴木:私たちから見て、すごく変わったなと思うシニア社員と話してみると、皆、異口同音に「楽になった」と言います。それはきっと、自分自身のとがった部分や突出したところをきちんと主張し、それを周りに活かしてもらうことで、変化を楽しめるようになってきたということではないでしょうか。だから「楽になった」という感覚が出てきたのだと思います。
矢田:私は、シニア社員の背中を見ている、若い世代への波及効果も少なくないと感じています。話を聞いてみると、以前は若手も将来に閉塞感を抱えていました。同じ職場に、ラインを外れて覇気を失っているシニア社員がいると、自分たちの先が見えてしまうわけですからね。そこへ会社が、本気でシニアの活躍推進に乗り出してきた。シニアになっても、こうすれば会社で輝いていられるんだという新しい価値観が示されたことで、若手はすごくやる気が湧いてきたと言っています。
人事部としてシニア活躍を推進する中で自分自身の変化、例えば人や組織に対する見方が変わってきたということはありますか。
矢田:ありますね。最初は「シニアの能力は上がらない、下降曲線をたどるだけだ」という声も多く、みんな半信半疑だったのですが、やはり相手に関心を示し、期待をかけることがすごく大事で、人は期待をかけられれば、本当にイキイキとしてくるんです。思いを持って自ら仕事をしますし、それによって能力が発揮され始める。人が成長する可能性を、あらためて実感していますね。人事部を含め管理部門はともすると官僚的になりがちですが、そうではなく、もっと人のいいところに着目し、それを本気で活かしていきたい。最近はメンバーに「頼れる人事部になろう」とよく話しています。
鈴木:同感ですね。私自身、女性活躍にも取り組んでいて、そういうことは分かっていたつもりでしたが、シニアを対象にしたワークショップに立ちあい、人はいくつになっても変われるし、成長できることを痛感しました。その可能性やプロセスをもっときちんと、丁寧に受け止めなければいけないと、いまあらためて肝に銘じているところです。
藤田:私が人事部のメンバーにいつも言っているのは、「偉そうにしてはいけない」ということ。自分にそんなつもりがなくても、人事部というだけで周囲はそう見てしまいます。会社を変えたければ、偉そうに指示をするのではなく、まず人事自らが本気で変わろうとする姿を見せることです。彼らは、それを行ってくれていると思いますよ。
ありがとうございます。お話の中に何度も「本気」という言葉が出てきたのがとても印象的でした。やはりそれが、取り組みを進める際の一番のポイントでしょうか。
藤田:その通りです。本気で取り組んでいることが、どれだけ伝わるかですね。社員に「本気度」を感じてもらうためには、経営陣が本気でコミットすること、繰り返し現場をフォローすることはもちろん、いったん決定した方針は絶対に変えてはなりません。最低十年はかかる、息の長い仕事だということを覚悟して、プロジェクトを立ち上げるべきでしょう。私たちも、これからが改革の本番だと思って取り組んでいきます。
(取材は2014年2月25日、東京・千代田区のトヨタファイナンス 東京分室にて)