人はいくつになっても成長できる――
トヨタファイナンスが取り組む“本気”のシニア活用とは
10年後の経営環境の変化を予測することは非常に困難ですが、それでも確実なのは、多くの企業で“組織の高齢化”が進行するということ。特にいわゆるバブル期大量採用世代がシニア層となって膨れ上がるため、その処遇を誤ると組織全体のパフォーマンスに深刻なダメージを与えかねません。シニア社員の活躍推進が叫ばれるゆえんです。喫緊の課題と言われながら、なかなか本格的な対応が進まないこの問題に“本気”で取り組み、着実に効果を上げている企業があります。「人を大切にする」を組織運営の根幹に据えるトヨタファイナンス。トップ自ら企業風土改革をリードする藤田社長と、プロジェクトの企画・実施を担う人事部の矢田部長、鈴木主査にお話を伺いました。
- 藤田泰久さん
- トヨタファイナンス(株)代表取締役社長
(ふじた・やすひさ)● 2003年トヨタファイナンシャルサービス(株)顧問 2004年トヨタファイナンス(株)専務、副社長を経て、2007年より現職
- 矢田真士さん
- トヨタファイナンス(株)人事部長
(やだ・まさし)● 2003年入社。総合企画部を経て、2008年より人事部にて人事制度改革、企業文化改革を推進。2013年より現職。
- 鈴木昌子さん
- トヨタファイナンス(株)人事部 主査
(すずき・しょうこ)● 2005年入社。カスタマーサービスセンター センター長、事務センターセンター長を経て2010年ポスト定年。2011年より現職。
「人を大切にする」は、社員を甘やかすことではない
トヨタファイナンスは「人を大切にする会社」を標榜しています。シニア社員の活躍推進に向けた取り組みもこの基本理念に基づく人材マネジメントの一環ですが、そもそも「人を大切にする」を提唱されたのは、藤田社長ご自身だそうですね。
藤田:社長に就任した時、まず企業文化変革に取り組もうということになり、役員とオフサイトミーティングを何度か重ねました。そこで私が話したのが、「人を大切にする会社を作りたい」ということ。「『人を大切にする』と言えば、社員は甘えてしまうのではないか」と、懸念する声もありました。
でも、違うんです。私が言う「人を大切にする」とは、人を甘やかすのではなく、一人ひとりの持つ資質を最大限に活かすということ。個性や持ち味など、それぞれの一番尖がった部分を活かしてチーム化すれば、一部の“とてもできる人たち”だけで引っ張るより、組織全体としてのパフォーマンスはずっと良くなります。ただ、個人の側も会社が活かしてくれるのを待っているようではいけません。自分で自分の持ち味を考え、主体的に発揮して会社に貢献するという発想に転換しないかぎり、その人は本当の意味で活かされない。「人を大切にする」というのは、甘やかすどころか「自立」と「自律」を厳しく求められるので、社員にとってはむしろ大変なことなのです。
「人を大切にする」という思想は、社長ご自身のキャリアを通じて培われたものなのでしょうか。
藤田:そうだと思います。私はトヨタグループの外から来て、たまたまこのポジションに就いたわけですが、もともとは銀行マンで、ありがたいことに国内外のいろいろな部署を経験しました。そう言うと、とても順調なキャリアだったように聞こえますが、実際は決してそうではない。コーポレートラダーを昇ることだけにこだわって、優劣を競うより、せっかくの職業人生ですから自分が楽しむことを優先したほうがいいと思います。
私自身、職業人生を楽しんできた自負があるので、何も後悔していません。社員によく言うのは、誰かに楽しませてもらうのではなくて、自分で楽しむ姿勢が大切だということです。楽しむためには先ほど言ったように、自分をどう活かすか、自分に何ができるのかを自ら考えて行動すること。これに尽きます。人は活かされてこそ、やりがいに目覚め、人生を楽しめる。だから私は、人を大切にする集団を作りたい――そう言って議論を重ねているうちに、社内でもだんだん理解が広がっていきました。でも、実践という意味ではまだまだです。人事部も頑張っていますが、目指す姿からすると3割ぐらいでしょうか。
“3割”とは厳しいですね。逆にいうと、企業文化改革に着手する以前は、それだけ問題が多かったということでしょうか。
藤田:私が就任してまず初めに行ったのは、全社員にメールを送ることでした。「いまのトヨタファイナンスに、社会に存在する価値がありますか」と厳しく問いかけたんです。十数年前、カード事業を始める際に即戦力人材を大量に採用して、社員数が一気に膨れ上がりました。何百という会社から人が集まり、それぞれのやり方を持ち込んだため、現場に一体感や目標意識がなかったのです。
それともうひとつ。当時は赤字でしたが、赤字そのものよりも、その現状に社員の大半が危機感をもっていないことが問題でした。