「その人材はやめておきましょう」とは言えない、
企業と人材の間に立つ人材紹介会社の立場
「この人材は採るべきか」と企業に相談されても 推薦した以上「その人材はやめましょう」とは言えない
自信を持って紹介した人材がなぜか不採用になってしまう。逆に、少し気になる点があった人材が予想外の高評価を受けることもある――。たとえつきあいが長くても、外部の人材紹介会社が、企業の採用基準や社内事情を完全に把握するのは難しいということだろう。従って、あまり固定観念にとらわれず、可能性がありそうな求職者を幅広く推薦していくのが人材紹介の基本だ。それだけに、企業側から「この人材は採るべきか」と相談されても答えようがない時もある。
ニューヨークからの転職
「今、御社の近くまで来ているんですよ。急ですが少しだけ時間をいただくことは可能ですか。ご相談したい件がありまして」
電話は取引先のM部長からだった。M部長の所属は人事ではなく、事業開発部だ。海外と交渉する仕事も多く、外国人スタッフも複数在籍しているやや特殊な部門であるため、採用についても責任者である部長が直接人材紹介会社との窓口になっている。そんなM部長とはこのところずっと「Pさん」という人材の件でやりとりをしていた。
Pさんはニューヨーク在住のアメリカ人だ。私たちは外国人の紹介も行うが、基本的には日本に住んでいる外国人が対象となる。そのため、「日本で働きたいアメリカ人がいる」といって人づてに紹介されたPさんはかなり特殊なケースだった。
「金融か不動産の会社を紹介してください」
インターネットを使ったテレビ電話で挨拶したPさんは流ちょうな日本語を操るが、送ってもらった職務経歴書などはすべて英語だった。いくつかの企業に打診したところ、ちょうどM部長の事業開発部が増員を考えているという。最初はテレビ電話で面接を行い、その後、Pさんの来日する機会に合わせて、M部長や同部門所属の外国人スタッフも交えた2次面接を実施。ここまではかなり順調だった。
日本企業ならこのあたりで「内定」(または内々定)ということになり、入社日の調整などが行われる。ところがPさんはアメリカ人だけあって、「契約書」をつくってほしいという要望を伝えてきた。年収や詳しい職務内容、勤務条件だけではない。ニューヨークからの引越費用を会社側が負担すること、日本での住居も用意してほしく、広さや地域はこのあたり……など、実にこと細かい内容を詰めて、英文の契約書にしていく。
さらに、Pさんは宗教上の理由で、週末以外に絶対に休まなくてはならない日があった。しかも、その前日は「日没」までしか仕事ができない。それも契約に盛り込んでほしいという。このあたりになると、日本ではかなり異例である。
「ニューヨークにはこういう人も多いんですよね」
M部長は自身も海外経験が長く、そのあたりには柔軟だった。ニューヨークでのPさんのキャリアを評価し、多少イレギュラーな勤務形態になってもPさんを採用したいと考えていたようだ。
ただ、そういった細かいやりとりを経て、作り直された契約書が日本とニューヨークを何往復もすることになるから、当然時間もかかる。そんな時にM部長からの電話があったのだった。