採用活動に表れる企業風土
採用活動には企業それぞれのスタイルがある 「手書き履歴書」の提出を求められた求職者の反応は?
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ミスマッチにつながったかもしれない
「作っている時間がないんです。まずは一度、ワープロの書類で応募してもらえませんか」
応募先企業が「手書き履歴書」を求めていることを知ったTさんの反応だった。Tさん自身が希望している企業でもあり、募集要項とTさんの経歴を照らし合わせてもマッチングの相性はかなり良さそうだったので、順調に進むはずの話の腰をつまらないことで折りたくない。
「そこを何とかお願いできませんか?」
何度も依頼したのだが、本当に仕事が忙しそうな雰囲気が伝わってくる。本人の意向でもあるので、やむなくTさんがワープロで作成した履歴書を企業に送ってみた。
すると、なんと企業から「書類選考通過」という連絡が来たのである。手書きでなくてもよかったことにホッとしながら、企業から来たメールをよく読むと、「面接時には必ず手書きの履歴書を持参してください」とある。やはり、妥協はしてくれなかったようだ。
ひとまずTさんに書類選考合格を伝え、同時に手書き履歴書の件も再度打診してみる。返ってきたTさんの返事は意外なものだった。
「改めて考えてみたのですが、ご紹介いただいた企業は自分には向いていないと思います。書類選考の後で申し上げるのは誠に恐縮なのですが……」
Tさんからのメールによると、最初に手書き履歴書が必要だと言われた時から違和感があったそうだ。多くの企業が合理的だと判断し、中途採用ではワープロで作った応募書類で選考を行っている。Tさん自身もそうしたいと思っているが、企業側では手書きにこだわっている。もしかすると、本質よりも形式を重視する企業かもしれない。また、社内にそのことを疑問に思う人がいてもその意見が通らない、あるいは言い出せないような風通しの悪さがあるのかもしれない――。
「本来であれば、面接時に自分の目で見て判断すべきことかもしれません。しかし、あいにく現職の仕事が多忙であり、できるだけ効率のよい転職活動を行いたいのが本音です。今回は、応募を取り下げてもらえますか」
採用活動にはそれぞれの企業のスタイルがあり、絶対的に正しい方法や間違った方法があるわけではない。手書きを求める企業はすべて体質が古いとか、風通しが悪いと決めつけることはできない。
ただ、そこに表れる企業風土や文化も、転職希望者にとっては一つの判断材料になる。Tさんにとっては「手書き履歴書」を求められたことで、入社後のミスマッチを避けることができたかもしれないのだ。私はTさんの選考辞退を、企業側に伝えることにした。
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