内定後に「雲隠れ」する転職者の心理
辞退を伝えるとどうなる――? 紹介会社と転職者の信頼関係
複数の企業から内定が出た場合、入社する会社以外はすべて辞退しなくてはならない。転職活動ではよくあることだが、せっかく内定をくれた会社に辞退を伝えるのは、やはり気が重いものだろう。しかし、人材紹介会社を経由して転職活動を行う場合は、基本的に紹介会社に辞退を伝えればいいだけだ。「そこが気楽だから人材紹介を利用する」という人もいるが、中には「紹介会社に辞退を伝えるのもつらい」と感じる人もいるらしい。
ある日、突然途絶えた連絡
「Tさんの入社承諾書、あと何日くらいかかりそうでしょうか?」
最終面接で内定が出たH社の人事担当者から、連絡がきた。言い方は穏やかだが、企業からこのような催促がくるのは、相当待たせている証拠でもある。
「申し訳ありません。急いで確認して連絡します」
そうは答えたものの、もう数日間Tさんとは連絡が取れていなかった。携帯電話にかけても留守番電話の応答があるだけで、メールに対する返事もない。人材紹介の仕事をある程度続けていると、こういう場合はかなりの確率で内定を辞退することがわかってくる。そこで、この日からメールに「辞退の可能性があるなら教えて欲しい」という内容を付け加えることにした。
「もし他社でTさんのご希望にかなう募集があり、今回H社をご辞退される場合は、遠慮なくご連絡ください。H社には、私からTさんのご意向をお伝えします」
普通は人材紹介会社を通して辞退する方が、内定者にとっても気が楽なはずだ。最近では、新卒の内定者が企業に辞退を伝えたところ、人事から辞退の理由を問い詰められたといったことがメディアでニュースになっている。中途採用でも、同じような事態を心配する人にとって、紹介会社がかわりに辞退を伝えてくれるのであれば、心の負担はかなり減るはずだ。
ところが、入社の意向を確認する段階になって、急に「雲隠れ」してしまう人がいる。紹介会社としても、そのままにはしておけないので、何度も連絡を取ろうとする。電話やメールだけでなく、書留で封書を送ってみたり、電報を打ってみたりという段階までくると、ほとんどあきらめの心境だが、いずれにしても企業側に最終的な報告をしなくてはならないから、紹介会社側も必死である。
結果的には、かなり時間が経ってからメールが一通送られてくるパターンが多い。他社に決まったという予想通りの内容のこともあるが、それ以外の辞退理由もある。一番多いのは下記のようなパターンだ。
「実は家族が病気で倒れてしまい、その面倒を見なくてはならなくなりました」
だから転職は出来なくなったということである。本当なのかどうかはわからないが、家庭の事情では文句をつけられない。こちらは慣れているので、「ああ、またか……」と思うのだが、内定者としては、誰からも反論されないような辞退理由を一所懸命に考えたのだろう。
本来気楽に辞退を伝えればいいはずの人材紹介会社に対して、なぜこのような手間のかかることをするのだろうか。