職場のモヤモヤ解決図鑑【第40回】
会議で発言が出ない、みんなの士気が低い……
職場の心理的安全性をつくるには[前編を読む]
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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志田 徹(しだ とおる)
都内メーカー勤務の35才。営業主任で夏樹の上司。頼りないが根は真面目。
自分の中のアンコンシャスバイアスに気付いた志田さんは、より良いチーム作りのためメンバーに働き掛けますが、反応は思わしくありません。会議で発言が少なく、議論も活発ではない様子です。メンバーの話を聞くうちに志田さんが気付いたのは、チームに安心して発言できる雰囲気がないこと。鍵となる「心理的安全性」について見てみましょう。
心理的安全性とは?
「心理的安全性」とは、どのような発言や指摘をしても、周りから批難されたり、自分の評価が下がったりする恐れのない状態を示す言葉です。Google社の生産性向上を目的としたリサーチプロジェクトが、チームの生産性と心理的安全性が深く関係すると発表したことにより、世間で注目されるようになりました。
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心理的安全性の高い職場の特徴
心理的安全性の高い職場には、以下のような特徴があります。
- どんな発言をしても大丈夫という安心感から、会議での意見交換が活発になる
- 多様な意見が認められる雰囲気の中で、新しいアイディアが生まれる
- 不安が少ないため、失敗やアクシデントが速やかに報告され、事態の解決・改善につながる
心理的安全性が保たれることで発言へのハードルが取り除かれ、コミュニケーションが活性化することにより、組織成長にさまざまなプラスの影響をもたらすのです。
逆に心理的安全性の低い職場では、発言が控えられ「話し合いをしても提案が出てこない」「失敗やトラブル報告が遅い」「情報共有が乏しい」など、業務が滞りやすくなります。個々に持っている知見がシェアされなかったり、特定の人だけが発言する状況が常態化したりすると、イノベーション創出のチャンスが減ってしまうかもしれません。
「心理的安全性=ルール」ではない?
では発言を促すために、「会議では一人一回は意見を言う」など、ルールを設ければ良いのでしょうか。
心理的安全性は、他者の意見を聞くときの姿勢や、アイコンタクト、発言のトーン、フィードバックの仕方など、さまざまなコミュニケーションによって育まれます。単にルールを定めただけで、つくられるものではありません。
心理的安全性と「ぬるま湯」との違い
「何でも発言できる」と聞いて、波風を立てないような「ぬるま湯」の雰囲気を連想する人もいるかもしれませんが、むしろ、心理的安全性はぬるま湯とは対極にあるものです。
心理的安全性という言葉を、最初に組織論で用いたハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授は、心理的安全性を以下のように定義しています。
"A shared belief held by members of a team that the team is safe for interpersonal risk taking." (このチーム内では、対人関係上のリスクをとったとしても安心できるという共通の思い)
Edmondson (1999) Administrative Science Quarterly. 44(2)
「ぬるま湯」とは、現状に甘んじ、問題があっても指摘しない状態を指します。心理的安全性が保たれた職場では、「リスクをとっても大丈夫」という安心感から、問題への指摘や改善の提案が活発になります。失敗しても、成功するために何を解決したら良いのか。指摘から改善へとつながるサイクルが生まれるのです。
職場の心理的安全性を高めるための取り組み
職場での心理的安全性を高めるには、従業員同士がつながるための積極的な場づくりや、肯定感を伝えるコミュニケーション、挑戦を歓迎する風土などがポイントになります
リモートワークでは「つながり」が心理的安全性を生む
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、リモートワークが急速に普及しました。常に同僚が近くにいる職場とは違い、リモートワークでは「発言に対する相手の反応がよくわからない」「質問したいけど、話しかけづらい」といった不安から、コミュニケーション不全に陥ってしまうリスクもあります。
このような不安に対応するため、Google社では社員のつながりを促進する取り組みを実施。「Google-to-Googler」と呼ばれる従来から実施していた学び合いの場を利用し、「今さら聞けない〇〇」といったテーマでセッションを開くなど、学ぶことで社員同士がつながる機会を増やしています。
業務だけではなく、チームワーク向上につながる取り組みや、従業員満足度を高めるためのコミュニケーションを促す機会を積極的に作ることが、リモートワークで心理的安全性を高めるために効果的だといえます。
小さな「変換」が心理的安全性をつくる
全社的な取り組み以外でポイントとなるのが、マネジャーやリーダーなどによる、メンバーへの接し方です。心理的安全性は、自然に生まれるものではありません。組織を引っ張る立場にいる人々からの積極的な働きかけに加え、相手を尊重する姿勢や肯定的なリアクションといった、日々の言動が心理的安全性を育みます。
たとえば、会議でメンバーが新たな提案をしたとします。内容には粗があり、完璧とはいえません。経験豊富なマネジャーからすれば、他部署からの反発も容易に予測できます。そんなとき「それは無理だな」と返す場合と、「良い視点だね」と肯定的に受け止めたあと「もっと詳細を詰めてみよう」と具体的なフィードバックを返すのとでは、メンバーの印象も大きく変わるはずです。日常のコミュニケーションにおける小さな「変換」が、心理的安全性が保たれた関係を作ります。
現場の挑戦を歓迎する姿勢が心理的安全性を生む
心理的安全性には、「何を言っても大丈夫」という「話しやすさ」のほか、「困ったときはお互いさま」といった「助け合い」の姿勢、「とりあえずやってみる」という「挑戦」を応援する環境など、新しいアイデアや個性を歓迎する風土が重要です。
営業部門の改革を行ったクレディセゾンでは、既存顧客へ注力すると共に、新規顧客開拓にも取り組みました。目標における営業数値のウェートを半減させ、新規ビジネスなどのウェートを上げたほか、営業のトップが「会議の場は評価を気にせず自由に発言することができる100%安全な場である」と根気強く伝えました。
その結果、新規顧客の営業実績も増加。リーダーが挑戦を応援し、会議での自由な発言を促したことが、心理的安全性の確保につながったといえます。
リーダーの行動の変化が職場の心理的安全をつくる
心理的安全性を提唱したエドモンドソン教授は、個人ができる取り組みとして「仕事を実行の機会ではなく学習の機会と捉える」「自分が間違うことを認める」「好奇心を形にし、積極的に質問する」という3点を挙げています。
これら3点は、他者を変えようとするのではなく、己の考え方をあらため、行動に移していくプロセス。リーダーとして、メンバーとどのように接するのか。自社にとって、メンバーが安心して発言できる職場とはどういうものかを考えながら、取り組むことが重要です。
心理的安全性を理解する上で役に立つ書籍
心理的安全性のつくりかた
著者:石井遼介/出版社:日本能率協会マネジメントセンター
恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす
著者:エイミー・C・エドモンドソン/翻訳:野津智子/解説:村瀬俊朗/出版社:英治出版
【まとめ】
- 心理的安全性とは、どのような発言や指摘をしても大丈夫だと思える状態や雰囲気のことを指す
- 「心理的安全性=ぬるま湯」ではない。むしろ心理的安全性はどのような指摘をしても大丈夫だという安心感から、問題の改善や失敗の共有を促す
- 他者との関わり方を変えることが、心理的安全性につながる
会議でのやり取りなど、僕も実践できていないところがあるなあ……。まずは相手の目を見て話を聞いたり、肯定的な返事をすることから始めてみよう
「心理的安全性」にいち早く着目したグーグルの人事トップを交えたパネルセッションを収録。基本理解から実践の方法までを網羅したお役立ち資料です。
【お役立ち資料】心理的安全性を職場で作り出すヒント│無料ダウンロード - 『日本の人事部』
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!