「人」基準から「仕事」基準へ
――日立製作所が取り組む、
グローバル視点に基づく
人財マネジメントとは
株式会社日立製作所 人財統括本部 副統括本部長(グローバル人財戦略担当)
山口岳男さん
変革を進めるためには必要なものとは
まさに今までの日本的な職能的なマネジメントから、グローバルベースの職務的なマネジメントへの大転換ですね。組織風土の変革を伴うなど、非常にハードルの高い作業ではありませんか。
施策として「グローバルグレード」を採り入れましたが、これは人材評価尺度をグローバルで統一しようとするもので、「人」基準から「仕事」基準へと変えることになりました。日本以外の国の多くは「仕事」基準であり、「人」基準である日本はむしろ特殊だからです。これに伴い、仕事のやり方や議論の仕方、組織の作り方、人事異動のさせ方などは全て変わります。また、もう一つは年功を排除する方向に向かうということです。
問題は、「仕事」基準にすればすぐに変わるわけではなく、ましてや自動的に変わるものでもないということです。まずは、人財部門全員が共通認識を持った上で、実際のビジネスに対して問題提起をしていくことになります。それもいろいろな仕組みを入れながら、社員のマインドも変えていきながらという、気の遠くなるような話です。
組織の末端までグローバルの仕組みを浸透させることについて、ゴールはどのくらいの時期に置いていますか。
私が自信を持って言えるのは、2015年までには、欧米のグローバル企業が行っている施策をカバーするということです。そして、それらを運用することでどれだけビジネスの役に立つことができるかが、その次の課題だと思っています。グローバル企業がいま行っているマネジメントや施策を後追いするだけでは、勝てないからです。では、どこで差別化すればいいのかというと、「制度をどうやって運用するのか」「プロセスをどのようにうまく使っていくのか」「その趣旨はどこまで活かせるのか」などにあると考えています。
マネジメントを、コンピュータのOSとアプリケーションに分けて考えるとわかりやすいと思います。アプリケーションは、グローバルなデファクトスタンダードを入れていけばいい。それが「グローバルグレード」「パフォーマンスマネジメント」「タレントマネジメント」「従業員サーベイ」といった施策です。大事なのは、それを動かすOSという部分で差別化することです。
そのOSは何から構成されるかというと、一つは、強いリーダーシップです。そしてもう一つが、コアバリューです。いま会社にある強みは生かしていくということですね。コアバリューは自社のDNAであり、そこをベースとしてアプリケーションの使い方や運用で差を付けていくのです。その中にはグローバルなマインドセットも出てくると思いますが、こうしたことも含めて決め手となるのはコアバリューだと思っています。例えば、日立のコアバリューには「開拓者精神」があります。それ自体は、世代を越えて受け継いでいくものであると思っています。
日立のコアバリューを信じて、それにコミットして仕事をしてくれる人なら、国籍は問いません。最終的に重要なのは「この会社をどういう会社にするか」とうこと。これは今後、社内で真剣に議論をしていかなければなりません。
今回御社が実施しようとしている変革は、これまでの変革とはレベルが違うように感じます。
これまでもグローバル人財育成など、社内の誰も反対することのない「正論」としての変革は、数多く行ってきました。しかし、「グローバルグレード」に変えることは処遇制度の根幹も変えるため、給与が変わるかもしれませんし、「パフォーマンスマネジメント」を導入した途端に、ハードルは以前の10倍も20倍も高くなるでしょう。そうなると、全ての人にすぐに理解してもらうことは困難です。
それが今回、なぜ手を付けることができたのかと言うと、弊社の中西社長、川村会長がドライブをかけたからです。人財部門はそれに応えなければいけません。トップのメッセージは非常に明確で、「グローバルメジャープレイヤーになろう」ということです。それぞれの部門が「グローバルメジャープレイヤーとは何なのか」を常に考えて仕事をし、人財部門がそれをサポートしていかなければなりません。
そのためには、市場で勝てる会社、つまり、強い組織と人財を持った会社にしていく必要がある。「高い業績を上げ続ける人財と組織を持っている」「エンゲージメントレベルの高い従業員の集団がある」「強いリーダーシップがある、あるいは強いリーダーがいる」、そんな会社です。そのような人財と組織をどうやって作るのか。その方法論が今行っている「グローバルグレード」「パフォーマンスマネジメント」「タレントマネジメント」などの施策の総合です。
どうすれば会社がもうかることに寄与できるか――それこそが人財部門にとっての原点であり、そのために人財部門があると私は思っています。それを、グループでグローバルに行うのだと、今回決めたわけです。
日立グループは、全部で900社あまりが存在していて、その組織構造は非常に複雑です。また、それぞれの企業が強い独立意識を持っています。そういう中で、今までの「人」ではなく「仕事」を基準にしましょうと言っているのですから、大きなチャレンジです。
いわゆる戦略的転換点に日立は立っているわけですが、時間軸で言うとここ4~5年くらいが勝負時だと思っています。そこでうまく会社を転換できれば高みに上ることができますが、そうでなければグローバル競争での敗者となる。そういう危機意識を持っています。そういう意味では、人財部門も岐路に立っていると思っています。私たち自身も、変わらなくてはいけません。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。