中小企業経営のカリスマが語る
「仕組み」による人材育成とは
株式会社武蔵野 代表取締役
小山 昇さん
中小企業における人材育成のあり方
中小企業の場合、人材育成においては社長の方針が重要だということですね。
中小企業は99%、社長で全てが決まります。社員の質はまったく関係ありません。また、人材育成において一番有効なのは、うまくいっている会社の「仕組み」を、そのままマネすることです。なぜなら、マネこそが最高の創造だからです。
例えば、ピアノで特待生になるような人は、先生が教えたことしか練習しません。教えられた通りにやる人のほうが、自分で工夫してやるよりも、上達が早いんですね。それは会社だけでなく、個人でも同じです。社長の言った通りにやっている人は成績が良く、幹部になっていきます。一方、自分で工夫してやるような人は皆、スピンアウトしていきます。
実際、武蔵野の10年目の社員は、全員が私と同じことを言っています。誰に聞いても、同じ答えしか返ってきません。まさに「金太郎アメ」です。しかし、お客様から見れば、誰に聞いても同じ対応をしてくれるし、何よりも言うことがぶれないので、非常に安心できます。
武蔵野はこのように私のワンマン経営ですから、社長である私の価値観で仕事がしたくない人は、他の会社に行けばいいのです。しかし、そのことをよく分かっていない中小企業の社長は、社員一人ひとりの「自主性」を尊重すると言います。しかし、それでは求心力がなくなり、皆がバラバラになってしまい、収拾がつきません。何よりそんなことをすれば、お客様に叱られてしまいます。
中小企業において、収益アップに貢献できる社員というのは、どのような社員でしょうか。
社長の言ったことを、着実に実行することができる社員です。しかし、自主性という言葉に惑わされて、多くの経営者が間違った判断をしています。社員が自分のやりたいように仕事をしていて、それを社員が自主性を発揮しているなどと勘違いしていたら、中小企業の経営はおかしくなります。
会社では、社長の言ったことをやるのが正しい。他にどうしてもやりたいことがあるのなら、社長の許可を得てやればいいのです。社員が勝手にやってはいけません。このことを、多くの企業では理解できていない。社員の自主性といっても、それは限定された中でのものなんです。「この方針で、このテリトリーで、部下がこうで、数値目標がこうで、その中でやり方を任せている」のであって、「自由にやっていい」と言っているわけではありません。
中小企業の社長は、自社の方針の下、社員が何をしているのかをチェックしなければなりません。しかし、多くの中小企業の社長が行っているのはチェックではなく、追求です。追求は責任の所在を求めることであり、チェックとは違います。大切なのは、やるべきことがきちんとできたかどうか、チェックすることのはず。そして、チェックするためには、「こういう順番でこういうことを聞く」というリストが必要です。それにはまず、チェックする項目を明確にする必要があります。また、いつ行うかの日付も決めなければなりません。すると、チェックされる前の日に、皆が慌ててやるようになります。でも、それでいいのです。慌ててやるからこそ、スキルが上がるからです。そういうことを繰り返して行うのが、中小企業にとっては最高の教育なのです。
このような人材育成を行われるようになった、きっかけなどはあるのでしょうか。
私には、誇れることが二つあります。一つは現在65歳ですが、世界一失敗の体験が多いこと。もう一つは、目標を立てても一度も達成したことがないことです。赤字は3度ありますが、前年度の売り上げを下回ったことは一度もありません。このことが、多分に影響しているかもしれません。
というのも、通常は目標を立てて、達成することが目的となっています。しかし、本当にそれでいいのでしょうか。例えば、現在100の会社が102%の計画を立てて、達成したら実績は102となります。しかし、無謀にも200%の計画を立てて60%しか達成しなかった場合、実績は120です。両社を比較した場合、どちらが上でしょうか。達成率を比較したら、100%と60%です。みんな100%がいいと言うでしょう。しかし、こなした絶対的な量が違います。そして、これが会社の存続に大きく関わってくるのです。
つまり、経営では「率」ではなく、「額」が大切だということです。100から102しか上がらない会社と、100から120まで上がった会社とを比較したら、120上げた会社のほうが優秀でしょう。このことを、みんな分かっていません。中小企業の経営においては、「額」と「量」を稼ぐことが大切なのです。そういうことをきちんと社員に教えなければいけません。ところが多くの会社は、達成率とか粗利益率、労働分配率など、意味のない指標を使って評価・判断をしています。
社員に経営者意識を持たせることは重要だと言われます。そのため、社員に株を持たせて、会社経営に対する意識を高めてもらおうとするケースをよく見かけます。しかし、それで社員は本当に経営者意識を持てるでしょうか。私は持てないと思います。社員に経営者意識を持たせるためには、非常にシンプルですが、「成果を出したら賞与の額が増える」という仕組みをつくればいい。すると、成績が下がれば賞与も下がるので、社員は必死にがんばるようになります。中小企業において、それは正しい社員のあり方です。動機は不純でいいのです。結果を出せたかどうかが会社にとっても本人にとっても大切なことだからです。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。