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熟達・参加型から新たな学びのアプローチへ!
~今、求められる「アンラーニング」とは何か?

法政大学 経営学部 経営学科 教授

長岡 健さん

「アンラーニング」という方向性

大人の学びへの新たな展望~熟達化が役に立たない世界

その時に注目されたのが「アンラーニング」ですね。

組織学習論の分野では、古い知識や価値観を棄て去り、その時の環境に相応しい新たなものに学び直していくことをアンラーニング(学習棄却)と呼びます。従来、私たちは「学習=何かを身につけること」という前提に立っていました。しかし、急激な変動を続ける環境下では、磨き上げてきた経験知もある日突然、時代遅れになってしまいます。いろいろな意味で変化が求められる今日、過去のやり方や考え方をいかに棄て去るかが「大人の学び」を考える上でとても重要になってきたと思います。つまり、熟達・参加型パラダイムを前提とした「学び」を相対化し、新たな時代のビジネスパーソンの学び・成長について考え直していくためのまなざしを「アンラーニング」というコンセプトが提供してくれるということです。

長岡 健さん Photo

もちろん、熟達化を目指した学びの有効性は確かにありますし、一人前になった以降、更なる熟達を目指して学んでいくというのも一つの方向性としてありえます。実際、伝統的な意味での専門家や、スポーツ、伝統芸能といった分野では「一つの道を究める」ことも大切でしょう。問題は、ビジネスとこれらの分野の違いです。果たして、ビジネス社会に生きる人が熟達者の道を目指すべきなのかどうか?

熟達者になるには長い経験が必要ですが、それは特定の領域においてのみ優れている人です。つまり、熟達化を進めるには、長期的に安定した領域が存在していることが前提です。しかし、ビジネスの世界は、一定時間ごとにルールが変わるゲームのようなものです。環境が変われば、価値観も役割も変わります。特に現代のような変化の激しい環境下では、かつての経験が必ずしも有効とはならないのです。むしろ、過去の経験そのものが、新たな環境に適応する際の妨げとなることの方が多いのではないでしょうか。

そんな中で10年もかけて一つの道を究めても、熟達者になったときにはもう違うルールのゲームが行われているのです。こうした分野では、熟達という概念自体が無意味なものとなってしまいます。それは、熟達を強く意識しすぎることが、時代遅れになった価値観や考え方、行動パターンに気づくことを遅らせることにつながるからです。

時代遅れになった価値観や考え方、行動パターンを捨て去らないと、新しい環境、ルールには適応できないというわけですね。

そこで、アンラーニングという視点が、変化が求められる今日のビジネスにおける学びには大切なのです。特定分野に固執した熟達化を進めるというよりは、ビジネスの状況がどう変わっているのかを敏感に察知し、それに的確に対応することが重要だということです。特定分野での熟達化を進めることよりも、自分たちの価値観を見つめ直したり、今までやってきたことを批判的に振り返ったりするような「クリティカルシンキング」を実践することが学びに結びつくとも言えます。

その際、古い価値観や行動パターンをアンラーニングしなければならないのは、他ならぬ「自分自身である」ことを受け入れられるかどうかがポイントになります。例えば、皆が、グローバル化が進んでいると言います。日本社会や会社は変わらなくてはいけないと言います。しかし、自分の部署で自ら率先してすぐにできるかとなると、正直、疑問符がつきます。結局のところ、今の自分の状況はまだ大丈夫だと考えている人が多いのです。しっかりと覚悟を決め、「アンラーニングすべきは自分自身」と認めることは、実際にはかなり難しいことなのです。

アンラーニングを実現するカギは、自分が変わらなければならないことを、受容する点にあるのですね。これは自分で決めなければなりませんから、非常に難しいと。

確かにその通りです。自分自身の価値観を再吟味するようなレベルでのクリティカルシンキングを実践することはメンタルな意味での苦痛を伴うことも少なくありません。しかし、アンラーニングを難しくしている最大の原因は、組織の存在そのものにあると私は考えています。どんな組織であっても、人が組織に属していることが、アンラーニングを妨げます。

例えば、ある隠蔽体質をもった組織に、若いビジネスマンが入ってきたとしましょう。彼はこの後、どういう道を歩むのか?大きく三つのパターンがあります。一つ目は、抵抗派の妨害を受けながらも、組織の価値観に染まらずに改革の実現に努力していくというもの。二つ目は、人事部が一番嫌うパターンで、組織に見切りをつけて、新たな組織に転進していくというもの。三つ目は、組織の規範・価値観を徐々に身につけ、隠蔽体質の組織に同化していくというものです。この若者はどの道を選ぶべきかと聞かれたなら、多くの人は「改革の実現に努力」と答えるでしょう。また、キャリアデザインという視点を重視する人なら「新たな組織への転進」を推すかもしれません。いずれにしろ、「隠蔽体質への同化」を評価する人はいないでしょう。しかし実際の組織においては「隠蔽体質への同化」が目に見えるかたちであらわれたとき、「あいつも学んだな」などと言われるものです。そして反対に「改革の実現に努力」を継続しようとする若者には、「いつまでも学ばない奴だ」といった評価が下ります。

図:「組織の中の個人」という位置づけ

アンラーニングに取り組むということは、この例で言えば「一つ目」の道を選ぶということです。第三者的視点に立てば評価できますが、自分が当事者になったとき、その道を選ぶことはなかなか難しい。そんなことをすれば、上司に嫌われるかもしれません。組織が既存の価値観や規範を保持しようとするさまざまな圧力に満ちていることを、私たちは実感しているはずです。


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