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“ホッピー流”社員のやる気を引き出し、
組織を成長させていく仕掛けとは?

ホッピービバレッジ株式会社 代表取締役社長

石渡 美奈さん

企業の業績とは、組織を構成している人材が生み出す価値によって、大きく左右されます。現在のような厳しい状況だからこそ、人材活用の方法を見直し、社員全員がその力を十分に発揮できる環境づくりや人事制度の構築を考えていく必要があるのではないでしょうか。今年、創業100周年を迎えるホッピービバレッジは一度経営難を経験するも、ホッピーブームを再興し、企業として大きく成長しています。その背景には、現場を重視しながら、社員全員の成長を実現していくさまざまな取り組みがありました。その陣頭指揮に当たってこられたのが、今年3代目社長に就任された石渡美奈さんです。とはいえ、ここまで来るのには、大変なご苦労があったようです。今回は、ホッピービバレッジならではの社員全員のやる気を引き出す方法、組織全体を成長させていく仕掛けなどについて、具体的なエピソードを交えながらお話しいただきました。

Profile

いしわたり・みな●1968年、東京生まれ。立教大学卒業後、日清製粉に入社。人事部に所属し、93年に退社する。その後、広告代理店でのアルバイトを経て、97年、祖父が創業した会社、ホッピービバレッジ(旧:コクカ飲料)に入社する。広告宣伝、副社長を経て2010年、創業100周年の年に3代目社長に就任した。この間、武蔵野代表取締役社長・小山昇氏を師匠と仰ぎ、経営・マネジメントに関するさまざまな手法を学び、幾多のハードルに遭遇しながらも社内改革を推し進め、5年間で年商3倍、年30%の増益を果たす。現在は、早稲田大学ビジネススクール(WBS)のMOT(技術経営)コースに通い、寺本義也教授のもとで経営を体系的に学んでいる。著書に、『社長が変われば会社は変わる!』(阪急コミュニケーションズ)『社長が変われば、社員は変わる!』(あさ出版)『ホッピーの教科書』(日経BP)などがある。趣味は万年筆の収集、筆まめで知られる。

人と組織の改革に向けて~2人の「師」との出会い

石渡 美奈さん

石渡さんが「現場」を重視し、社員全員の「やる気」を引き出しながら、組織全体を成長させていくことを重視されるようになった背景について、お聞かせください。

2003年に副社長に就任した際、父親である当時の社長から「いつの日か次のバトンは、美奈に渡す」と言われました。そして「社長になった時に一緒にやっていける人を育てていきなさい、あなたが思う組織を作っていきなさい」と、経営者として独り立ちするよう、背中を押してくれたのです。また、創業者である祖父と父親は、人を大切にする家族的な経営を実践していました。そうしたバックグラウンドがあったので、人と組織にフォーカスしていくのはごく自然なことでした。

社会人として最初にお世話になった会社では人事部に配属されましたが、非常に素晴らしい組織でした。次に経験した会社も同様で、一流と言われる会社組織でした。なるほど、組織とはこういうものかという感覚を、漠然とでしたが持つことができました。

しかし、私が入社した頃のホッピービバレッジは違いました。組織として機能していなかったし、働く人たちのやる気も感じられなかった。だから、「この会社の人と組織を何とかしていきたい」という思いが、ごく自然にできていったのだと思います。

「現場」を重視することについてはどうですか。

商人の孫であり娘なので、仕事とはそういうものだと自然と思うようになっていました。机上の研修だけを重ねても社員は育たない、OJTとの組み合わせであることを最近、特に強く感じるようになりました。97年に入社してから私が本格的な人材教育に取り掛かるまでに、10年近くの期間がかかっています。人材育成の取り組みを構築するには、それなりの時間が必要でした。

2005年に、師と仰ぐ株式会社武蔵野の小山社長と出会い、社内改革を宣言したものの、空回りが続きました。そして、翌2006年2月には、加藤木工場長が辞表を出すという事件が起こりました。改革を急ぎすぎたために、社員は急激な変化についていけず、置いてきぼりになっていたのです。そこから私自身が変わることを決心し、2007年4月には初の新卒社員7名も入社。「社長が変われば会社は変わる!社員は変わる!」を肝に銘じ、本格的な人と組織の改革がスタートしたわけです。

その頃、武蔵野の小山社長には、どのようなことを教わったのですか。

石渡 美奈さん Photo

いろいろな方法論を学びましたが、組織改革の第一歩として、「守・破・離」の「守」の部分で、思い切ってまねするところから入っていかないと、人は動かないということを実感しました。なぜなら、人は基本的に変わりたくない生き物だからです。それを、無理やり動かさなければならないとなると、モデルケースをそのまま使っていくしかない。まねするところからやらないと、何も始まらないのです。その考え方と方法をまず取り入れました。

2006年、07年と、武蔵野さんを徹底的にまねしました。私自身もセミナーだけではあき足らず、小山社長のカバン持ちを2回ほどやらせていただきました。社内では環境整備から始まり、経営計画書やボイスメール、さまざまな懇親会などを取り入れたりして、社員とのコミュニケーションを高めていきました。とにかく皆で汗をかいて、一所懸命に改善活動を行っていきました。それが2年くらい前から、それだけではどうもうまく機能しないなと思うようになりました。

これも、私たちの組織が「守」から次の「破」に来たからと感じています。この段階では、師匠に教わった流儀に自分なりの工夫を加えることが必要になります。ただまねしているだけでは、機能しません。創意を凝らして、オリジナルのモデルに変えていかなければならないのです。言うまでもなく、武蔵野さんがやっていることは、武蔵野さんだから機能するわけです。それを単に当社に持ってきても、企業文化や業種・業態は違うし、ましてや組織能力も全く違うわけですから、同じように機能するはずがありません。そのことに気づき始めたのが、2年くらい前です。では、どうしたらいいのか?と悩んでいた時に、早稲田大学大学院の寺本義也先生との出会いがありました。

そこでMOT(技術経営)を学び、また新たな成長があったわけですね。

思えばそれまで、いろいろな試行錯誤がありましたが、2008年頃から、さまざまな新規の取り組みが定着し始め、そして、力を入れていた新卒採用もすっかり我が社の文化になりました。また、ブランドイメージも復活してきました。「守」としての取り組みはある程度、形になったと感じました。

こうして“踊り場”にいるような状態になった時、「これから先、いったい何処に行くのだろう?」とふと不安を抱いたわけです。私自身、女性経営者として時の人みたいな言われ方をされてきました。しかし、時の人というのは、時でなくなる時があるということ。私はタレントを目指しているのではなく、あくまで実務家でいたい。時が過ぎて、忘れられるような存在では困るわけです。「このままだと単なるアイドル経営者になってしまう」とのご指摘も受けました。そういう焦りがあった時に、寺本先生との出会いに恵まれました。

なぜ、大学院のゼミを社員に聴講させたのか!?

「守」を進めていた中、悶々としていた状態の時に、寺本先生と出会い、「破」への展望が開けてきたわけですね。

それは、私にとってまさに、ひとすじの明かりでした。けれどまさか自分が大学院に行くとは思ってもいなかったところでの大学院進学で、自分でもビックリしたくらいですから、大学院に行くと公言した時、社員たちがビックリしたのは当然のことでしょう。もっとも、私としては社長となり、その2~3年後の状況を想定したときに、大学院に行って「技術経営」を学ぶことが自社には絶対に必要だと直観で感じるものがあったからこそ、進学を決めたのですが、その真の思いは社員に容易に伝わるはずがありません。社長と社員とでは見る観点が違うからです。

とはいえ、大学院に行くことを理解し、その意味を共有していかないと、再び、2006年の辞表事件の二の舞になってしまいます。だから、この過ちは絶対に繰り返してはならないと思いました。

何か、秘策はあったのでしょうか。

ええ。実は、夏が過ぎて、ゼミで自分の研究テーマに関する発表が始まる時に、寺本先生にお願いして、社員の聴講を許可してもらったのです。もちろん、これは例外中の例外です。

最初の頃はゼミの発表といっても、聴講にくる社員は1人か2人というレベルでした。ところが、徐々にその数が増えていき、先日の発表の際には、何と工場長以下、28人もの社員が聴講に来てくれました。現在、会長、私、母という役員を除いて、全社員数が52人ですから、実に過半数の社員が聴講に来たことになります。教室が、当社の社員で埋め尽くされている状態で、寺本先生からは「学費をこれほど有効に使うしたたかな経営者はあなただけだ」と言われています(笑)

では、なぜこの半年の間に、28人にも増えていったのかというと、当社の広報担当で入社3年目の石津香玲良の“気づき”から始まっているのです。

石津 香玲良さん(営業部門ホッピーハッピー情報局 兼 経営開発室)

石津 香玲良さん Photo

私は広報という仕事柄、石渡と同席することが多いのですが、大学院に入学してから石渡の話し方や使っている言葉、説明の仕方がずいぶん変わったと思うことがありました。特に、取材されている方に対して、図を描いて説明している姿がとても印象に残っています。今までは、そんなことはありませんでしたから。と同時に、このままでは自分が置いていかれる、「まずいな」という焦りにも似た気持ちが起きてきました。

大学院では1ヵ月に1度、発表があります。それに向けて、ものすごく勉強しています。今、石渡は何を考えているのだろう?どんな本を読んでいるのだろう?ということが、ものすごく気になるようになりました。

それこそカバンの中をのぞいて、どんな本を読んでいるのかを調べたりしました。ドラッカーを読んでいれば、早速自分も買って読んでみました。使っている言葉が分からない時は、必ず調べるようになりました。

そうしている中、ゼミの発表を聞きにいけば、今、石渡が何を考えているのかが、リアルに分かると思ったわけです。考えてみれば1ヵ月に1回、経営方針を発表しているようなものです。しかも、毎回アップデートした内容。これがとても面白いのと同時に、石渡に付いていきたい、置いていかれたくない、という思いがますます強くなっていったのです。

広報という立場上、同じ言葉を使いたいし、どういう風に理解しているのかを共有したいと思いました。このように私は業務の面から入っていったわけですが、それが他の社員にも広がっていき、ゼミの発表はぜひ聞きにいったほうがいいという話になっていきました。特に、リーダーチームなどは、全社朝礼などで石渡が話したことを、「あれはどういう意味ですか?」とメンバーに聞かれた時に、コンテキスト(文脈)として共有できていないと、またそういうバックグラウンドが分かっていないと、話してあげられません。そういうこともあって、じわじわと社内に広まっていきました。現在では、内定者までが聴講に行くようになっています。

内容が100%分からなくても構わない。ここで、何かを感じてくれればいいのです。私と同僚たちと「場」を共有することが重要です。私が寺本先生に対して発表している時は、とにかく、そのことで必死になっています。おまけに前日は内容をまとめるのにほぼ徹夜状態なので、心身ともにボロボロの状態(笑)。その姿は、社員にも伝わるようですね。会社を良くするためにトップがこんなボロボロになるまで頑張っている、綺麗事でモノを言っているのではない、ということを見てもらうだけでも、私にはとても価値のあることです。

石渡も、今は論文を書く段階なので、内容もまとまってきていますが、最初の頃はかなり紆余曲折がありました。その試行錯誤のプロセスを直に見て、経営者も悩んでいるんだ、悩みながら決めた結果なんだ、ということが理解できました。また、よくよく考えてみれば、それは会社説明会でも喋っていた内容だったわけです。そうしたことが見えてくると、今度は自分自身にとっての「覚悟」「やるべきこと」が決まってきました。

石渡 美奈さん(左)、石津 香玲良さん(右) Photo

一人でも変わり始めると、それを周囲がすぐに見るようになります。事実、石津は先頭を切って変わり始めましたから、どこまで自分の釘を出していいものか、私との関係や仲間との関係などでも、相当悩んだことと思います。でも、彼女は自ら「出すぎた釘は打たれない」と公言し、今は完全に吹っ切れているようです。

「出すぎた釘は打たれない」とは、けだし名言ですね。

ええ(笑)。また、私が言おうと思っていることは、彼女たちの年代ではこういう言葉で言えば伝わるのだということを、彼女が翻訳してくれているわけです。これは、社内への理解・浸透を図るという意味でも、本当にありがたいことです。


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