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一人の時間がイノベーティブな発想を生む
あえて「孤独」を選ぶ社員が、企業にもたらす効果とは

明治大学 文学部 教授

諸富 祥彦さん

「人生の使命」を見つけ出すことが、ぶら下がり社員を救う

心の成熟という点では、「新型うつ」のようなメンタル不調も、孤独力と関係していそうです。

新型うつにかかる人の多くは、若者です。承認欲求が強く、他者から評価されない、理解されないことで強い虚無感にかられる。最近の若者は理解のある大人に囲まれて育ってきた世代なので、評価を得られなかったときのショックが大きいようです。自分の軸が確立していないため、評価されないと「なぜ分かってくれないのか」と他者を責め、同時に「評価されない自分はからっぽだ」と感じてしまう。そんなからっぽな自分をごまかすために、プライベートの時間になると、から元気を出してはしゃぐのです。

どんな評価をされても揺らがない自己価値感があれば、こうした症状が起こることはないでしょう。ただ、若いうちから自己を見つめ直し、孤独を受け入れることは簡単ではありません。そのため、上司は本人のありのままを受け入れ、「君のことが必要だ」、「君には期待している」、「君はできる」といったメッセージを送り続けることが大切です。

ベテラン社員に目を向けると、大手企業を中心に“ぶらさがり社員”が問題となっています。出世にも転職にも希望が持てずモチベーションが上がらない人たちは、深い自己とつながることで人生における使命を見出すことができるのでしょうか。

諸富祥彦さん(明治大学 文学部 教授)

少し話は外れますが、先日、隣の研究室の先生が亡くなりました。63歳でした。私と7歳しか違わない。何が言いたいかというと、人間55歳を過ぎたらいつ死んでもおかしくない、ということです。ある程度の年齢になったら、人生の終わりを想定して生きるべきなのだと思います。組織にぶら下がっている人たちは、そのことに気づく必要があります。確かに企業は待遇面で彼らを守ってくれるかもしれない。でも、彼らの人生そのものは守ってはくれません。

私はミドルエイジ向けの書籍や、主催するワークショップの中で、「とりあえず5年、本気で生きろ」と伝えています。これは平均余命ではなく、5年刻みで人生を考えようという意味です。今の私なら、まず還暦をめざす。そして還暦を迎えたら、次は65歳をめざす。いつ人生の終わりを迎えても悔いの残らないように、全力で生き抜くための工夫です。はじめから「80歳まで全力で!」 と考えていたら失速してしまうでしょう。また、80歳まで生きるつもりが65歳で死ぬことになったら、悔やんでも悔やみきれません。

無我夢中で生きることは、人生における使命を見出すうえでとても重要なことです。加えて、自己の内面と向き合うこと。そして、他者との深い交流が欠かせません。「他者との交流」というと、孤独とは真逆に聞こえるかもしれないですが、やはり人は他者との深いつながりに支えられているのも事実です。そう思える相手を2、3人持つこと。恋人や友人でもいいです、ありのままをさらけ出せる相手なら誰でも構いません。

企業ではミドルエイジに向けて、キャリア研修を取り入れるところも増えてきました。そうした場で本気になって生きることや、人生の使命を取り上げてもいいかもしれませんね。

私もよく企業内で行われるセミナーの講師を依頼されます。そのときは死ぬ間際の自分になりきり、今の自分にメッセージを送るワークをすることもあります。その後、グループごとに出てきたメッセージをシェアし、語り合うのです。これはエンプティチェアという技法です。多くの人は「真剣に人生を考えていなかった」と、鈍磨していた自分におののきますよ。

ただ企業内研修で行うには、配慮が必要かもしれません。社内の人に自分の素を見せることに抵抗がある人もいますし、同じカルチャーの元で過ごしているために価値観の近い人が多く、新たな気づきを得られにくい側面があります。可能であれば外部の研修など、バックグラウンドの異なる多様な人たちが集まる場への参加をおすすめします。意外と同じ目的で集まった初めての相手のほうが、深い交流を実現できるものです。私が代表講師をしている「気づきと学びの心理学研究会 アウェアネス」でも定期的にワークショップを開催していますが、こういった場に参加することを、企業がサポートしてあげてもいいかもしれません。

最後に、企業の人事や経営者の方々にメッセージをお願いします。

お伝えしたいことは、大きく二つあります。一つ目が、ぜひ心理学を学んでほしい、ということ。例えばフォーカシングや、それをベースにした創造的な思考のトレーニング法である(TAE: Thinking At THEEdge)の開発者であるジェンドリンの思考哲学のルーツは、デューイの説いたプラグマティズムにあります。また、新型うつの患者には期待を伝えましょうとお話ししましたが、これはアドラー心理学の「勇気づけ」にあたります。手法の成り立ちや理論をおさえ、企業内でも活用してもらえればと思います。

そして二つ目は、孤独力向上も大切ですが、まず人事や経営者の方自身が自分で内面とつながって、自分らしく生きるロールモデルとなってほしい、ということ。本当の自分を見出した人は、とてもいきいきとしています。その姿を見て、他の従業員も触発されるはず。ぜひ孤独の時間を設けて、自分の内面に問いかけ、見つめて、人生の使命を見つけ出してください。

諸富祥彦さん(明治大学 文学部 教授)

(取材は2月4日 東京都・千代田区の明治大学にて)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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この記事ジャンル 能力開発関連制度

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